光と影




4編の医療小説を収める。表題作の「光と影」は西南戦争で腕を失った男と、同じケガを負いながら腕を失わなかった男の人生が描かれます。医師の傲慢な気まぐれが決めた2人の人生。あまりに残酷な真実が暴かれます。
渡辺淳一の医療系小説が4編収められています。表題作は直木賞受賞作だそうです。どれも人間の心の闇に触…
本が好き! 1級
書評数:407 件
得票数:8929 票
国文科出身の介護支援専門員です。
文学を離れて働く今も、読書はライフワークです。




4編の医療小説を収める。表題作の「光と影」は西南戦争で腕を失った男と、同じケガを負いながら腕を失わなかった男の人生が描かれます。医師の傲慢な気まぐれが決めた2人の人生。あまりに残酷な真実が暴かれます。
渡辺淳一の医療系小説が4編収められています。表題作は直木賞受賞作だそうです。どれも人間の心の闇に触…



父と同じく狂死した自分の姉を、姉の視点から描いた島崎藤村の短編。自らの生涯と病への認識。不幸な死を迎えるより仕方なかった姉の気持ちを、少しでも理解したいという思いで藤村はこの小説を書いた気がします。
『夜明け前』 で藤村は自分の父を描き、 『家』 では自分自身を視点として父亡き後の自分の家族を描…



2075年。地球の植民地であり囚人の流刑地である月世界が、地球からの独立を訴えて立ち上がります。先頭に立つのは意思を持つコンピューターのマイクと技師のマニー。作者の築いた独特の世界観に引き込まれます。
SF小説に出てくる科学的・数学的な話が苦手で、それが原因で挫折することもある私ですが、この長いSF…





この本によって、平塚らいてうという稀有な女性の生涯を知りました。その人生は、漱石が描く彼女をモデルとした女性たちの生き様を、はるかに超えてすさまじい。そしてまた、漱石の作品が読みたくなってきました。
元始、女性は太陽であった 。 自らが創刊し、女性のみで編集した雑誌「青鞜」に、そう寄せた明治…



東京に来て、何をすべきかさえわからない学生。友人と女に振り回されるだけの日々。つまらない男には違いなくても、これこそが人間の真実の姿なのかもしれません。大学時代の私も同じ。迷える羊(ストレイシープ)。
正直なことを言うと(何度も言っているかもしれませんが)、私は夏目漱石の作品があまり好きではありませ…



立ちはだかる強大な魔物を前に、高校生たちが選んだコマンドは「逃げる」。悪人を叩くことで安心を得ようとする恐ろしいネット社会。差し伸べられる手があれば、逃げる以外の道を示すことはできるのかもしれません。
親による児童虐待。ネット上での誹謗中傷。生活保護。ヤングケアラー。この本に登場する高校生たちが抱え…



「カルメン」と「エルトリアの壺」を収録。どちらも男が女の嫉妬により身を滅ぼすお話です。自由な悪女であるボヘミア人のカルメンと、上品で美しい未亡人ド・クルシー夫人。女に人生を狂わされた愚かな男たちよ。
「カルメン」と「エルトリアの壺」の2編が収められています。 どちらも、男が女への嫉妬に駆られて…




頭が良くて家族思いの、本当は平凡な高校生。しかし、彼の怒りの炎を消すことは誰にもできませんでした。頭が良すぎて家族を思いすぎるが故の犯行と悲劇。彼の嘘に気づきながら、彼を好きになる少女の存在が悲しい。
勉強ができて、家族思いで、自転車が好きで、どこにでもいる少年の1人にすぎなかったのでしょう。父を亡…



飯盛山で自刃した白虎隊の生き残り、飯沼貞吉の生涯を描いた小説です。生き残ってしまった苦しさを乗り越え、ただ生き抜くということはどれほど困難だったことか。その逡巡する思いが、やさしく丁寧に描かれます。
飯盛山で自刃した白虎隊16人の内のたった1人の生き残り、飯沼貞吉の生涯を描いた小説です。年齢を偽っ…





学徒兵たちが遺した手記。本になるなど考えもせずに書かれた雑多な思いの数々が、戦争の悲惨さをより際立たせてくれます。生きていれば必ず、世の役に立ったであろう前途有望な若者たちの、魂の叫び声が聞こえます。
声高に反戦を訴えるより、ただ事実を連ねた方が、戦争の悲惨さと無意味さを訴えるのに説得力がある。よく…




戦時中、東京からわずか50キロの寺で学童疎開をする少年たち。慣れない集団生活、乏しい食料、親に会えない寂しさに心が荒んでいく彼らと、重責に押しつぶされそうになる教師。そこが、彼らにとっての戦場でした。
戦時中の学童疎開は、子供たちの命を1人でも多く救うため当然の、人道的な措置だと、自分がずっと思って…




作者の大学生活を記した自伝的小説。何が起こるわけでもない、ただ友人と過ごす毎日を綴るだけで、そこに幾多のドラマや感動があることか。青春とは、人生はそういうものだと、しみじみと思わせてくれる作品です。
戦時中に迎えた大学生活を記した、作者の自伝的小説です。小説と言っても、作品の全てが主人公の日記や手…





息子たちと過ごす夏休み。強い日差しと若々しさ。日光を映し輝く海。生きる喜びに満ち溢れたシーンに、ヘミングウェイは生と成長を描こうとしたのかと錯覚させられる。違う。作者の死後に発表された長編。上下2巻。
これは作品としては完結しているものの、作者の死後に発表された作品であり、もしヘミングウェイ自身が出…



「高齢者の運転問題」の取材のため、コンビニに軽トラが突っ込む事故のあった福井県を訪れたジャーナリストの俊藤律。良心に導かれ事故の真相に迫る彼の存在が、閉鎖的な田舎の村と私たち運転者の良心に迫ります。
福井県のコンビニに、突如突っ込んだ軽トラ。運転していたのは86歳の老人。店にいた若い店長がその車に…



いかにも横溝正史という雰囲気の耽美性は鳴りを潜め、アドリブやトリックに重点を絞った本格的な推理小説が楽しめる表題作。ただ弱いのは動機。世界的ソプラノ歌手の悲劇を堪能するのにはもう一息ほしかったです。
「由利先生シリーズ」全12巻中の1巻を読みました。最初に読んだ4巻『花髑髏』が多分に耽美的で面白か…




この世には御定法で罰することのできない罪がある。そう言って憎い男たちの心臓に、平打の銀の釵を突き立てる18歳の娘おしの。愛する父のため、そして自分自身に流れる汚れた血のため、罪を犯す娘の生涯が悲しい。
必殺仕事人みたいだと思いました。凶器は平打の銀の釵(かんざし)。それで心臓を一突き。枕許に一片の真…





明治26年に実際にあった河内十人斬りという事件を題材にした小説。城戸熊太郎はなぜ無頼者となり、なぜあのような事件を起こしたのか。コミカルな前半から一気に悲劇へ。怒涛の展開にひきこまれます。すごいです。
すごい。この本を読み終えた、それが私の一番の感想です。 これは、河内十人斬りという、明治2…



修道院で出会い、1人は院長となり、1人は修道院を脱走して流浪者となったナルチスとゴルトムント。全く異なる生き方をしながら、2人は互いを理解し愛し合うことで自己を見出します。ヘッセが描く自己実現の物語。
『知と愛』の原題は『ナルチスとゴルトムント』であるが、ナルチスは神学者であり哲学者で、知を象徴し…





再び登場した「壁に囲まれた街」。時間と感情を失ったその世界は、安らかではあっても幸福には見えない。そんな世界だからこそ生きられる人がいることも確か。でも彼にはこちら側に残ってほしい。温かいこの世界に。
村上春樹の新作長編は、1980年に雑誌に発表された「街と、その不確かな壁」という中編小説を核とした…



ワンパターン化した感のある村上ワールドが全開。特にこれはいつになくゆるーい設定。この時期に、こういうゆるい作品が生まれたことは素直に受け止めるものの、何だかやっぱり刺激が足りません。(第1部・第2部)
ここに書いたのは、この作品が新作として発表された直後に読んだ時の正直な感想です。村上春樹の作品につ…