蠅の帝国: 軍医たちの黙示録




敵を殺す装置である軍隊の中で唯一人を救う職種である軍医。そのありようは内地でも外地でも過酷なものでした。医師の手による軍医の従軍回顧録集。小説でありながらドキュメンタリー感がハンパない。
本書「蠅の帝国」の題名を見た時に真っ先に思い付いたのは「蠅の王(ウィリアム・ゴールディング)」。い…

本が好き! 1級
書評数:2230 件
得票数:30265 票
「本を褒めるときは大きな声で、貶すときはもっと大きな声で!!」を金科玉条とした塩味レビューがモットーでございます。




敵を殺す装置である軍隊の中で唯一人を救う職種である軍医。そのありようは内地でも外地でも過酷なものでした。医師の手による軍医の従軍回顧録集。小説でありながらドキュメンタリー感がハンパない。
本書「蠅の帝国」の題名を見た時に真っ先に思い付いたのは「蠅の王(ウィリアム・ゴールディング)」。い…




浅田次郎は怪異・伝奇小説すら人情モノにしちゃいます。このテイストは大好きです。
あとがきを読むとどうやらこの物語にはモデルがあって、しかも実際に作者の浅田自身の一族の話のようで…





主人公がただ歩くだけで青春小説の金字塔に躍り出たのは「夜のピクニック (恩田陸)」。これに対して、本書は主人公がただ走っているだけで推理小説の雄に躍り出たといえます。
古典部シリーズの5冊目です。短篇が多いこのシリーズでは久しぶりに長編となっており、それだけに伏線やト…



「空は、今日も、青いか?」の題名買い。20年近く前のエッセイ集だが、石田衣良の時代を見る目の確かさに驚愕です。
エッセイは嫌いです。先輩である 老人の世迷言からは何も教訓を得ることはなく、その成功譚や自慢話に…




最初「ヨリックって何?」題名に惹かれて手にしました。“ヨリック"を巡る政治陰謀の謎が主題と思いきや、兄弟萌え(BL)本なのね。
五條瑛(あきら)さんって女性なんですね、デビュー作の『プラチナ・ビーズ』以来国際謀略小説を得意とす…




2000年以来20年も直木賞の選考委員をやっている北方謙三であるから、大衆小説の神髄を知らないわけがない(はずである)。が、北方自身は現在の直木賞選考委員で唯一の非受賞者である。今回は北方論。
若い方々は北方謙三と言えば、中国史のやったら長---い小説書く人と思っているのじゃないかしら。最近…




「タナトス」とはギリシア神話に登場する死そのものを神格化した神。 主人公の女優は死んではいないものの精神は壊れている。生物的な死よりも精神的な死を本質ととらえた村上龍の美学が色濃く反映されている。
言わずと知れた村上龍の三部作『エクスタシー』『メランコリア』の最終章。その表題は順番にエクスタシー…


女の執念の根深さをホラー仕立てで見せてくれた、乃南にしては異色の作品です。そもそもちょっと歪んだ女性心理を書かせるとうまい作家さんだけに、今回のサイコな設定は斬新ですが「らしくなく」はしゃぎすぎです。
主人公の浪人生・川島秀明を「あなた」と呼ぶ謎の存在「私」の語りで話は始まります。どうやら「私」は秀明…

『あられもない祈り』というナイスタイトルに引き寄せられてタイトル買い。帯にも至上の恋愛小説とか、密室のような恋とあり、期待はあられもなく膨らむのですが・・・。
語源由来大全によると、「ある」に、可能の助動詞「れる」のついた「あられる」の連用形が名詞化したものが…




東海林さだおは裏切らない。ここでも微視的(ちまちま)こだわりで、台所用品、衣類など見過ごされがちな品々のどーでもいい存在を大問題にまで昇華させて笑わせてくれるショージ節炸裂。
丸かじりシリーズで食べ物の考察に感心してきましたが、本書ではまず「知られざる実用の逸品」である台所…




仕事とはパンのみにあらず、そして人生は誰のものでもなく自分の納得のいくためのものなのだなんて青臭いことをしみじみ感じさせる好著。大好きなシリーズでしたが残念ながら本作が最終巻です。
シリーズ5作目で最終巻です。いろんな企業でのリストラ対象の人材を説得するといった、ちょっと後ろ暗い…




「犯人に告ぐ」や「検察側の証人」「虚貌」などで犯罪小説家といった印象を強烈に与えてくれている雫井さんですが、本作はいい意味で期待を裏切られてハートウォーミングなラヴストーリーに仕上がっています。
文具店でアルバイトする教育学部の学生・香恵が主人公。彼女のほほえましい恋心が描かれますが、その内容…





島原の乱は抑圧されたクリスチャンによる反乱ではない。南島原で圧政に耐え蜂起するに至った2人の男を軸に怒れる民衆が徒手で原城址に立てこもり武家に、幕府に堂々と立ち向かう姿を描きます。
日本史の教科書によると数行しか述べられていない「島原の乱」。1637年に生じたキリシタン農民による…




一般人が思いがけなくも拳銃を手にするとどうなるか?一つのコルトが次から次に人手に渡る凝った作りの連作。コルトは護身用の小ぶりな銃ですが、それを持つ人の運命を変える「冷たい誘惑」を秘めています。
主婦、家出少女、新人サラリーマン、元警察、本当の持主の娘が拳銃を手にした時の気持ちがリアル。話順と…





8000mの過酷な高地の厳しさがひしひしと伝わる。人間が訪れるには過酷すぎる高山に挑む素人登山家たち。お金でどれだけの安全を買うことが出来るか?そして君たちの魂が還るべき場所とはどこだ。
舞台は世界で2番目に高いK2そしてブロードピーク。観光登山として8000mの神の座に近いところに挑む…



おじさん世代には「同棲」といえば、貧乏で暗くてドマイナーな印象ですが、今時は同じく貧乏でも明るいのですね。名曲「同棲時代(大信田礼子)」「神田川(かぐや姫)」を懐かしみます。
誰かと同居するというアンソロジーです。家族以外が同居するシュチュエーションとしては圧倒的に「同棲」…




スペイン、スウェーデン、米国、インドネシア、エジプトと多彩な外国を舞台にしたミステリ短編集。罪と罰の行方は如何に。小気味よい作品集ですが短編だけに深みにかけるのは仕方ないか。
ミステリとヒューマンストーリーのブレンドが絶妙な貫井さんですが、短編集ではその持ち味が十分に発揮で…




村上龍の享楽・放蕩・暴力・権力といった一貫した主題に唐突なカタストロフをつなぐと「イビサになる」。難解な小説と思われますが、このラストの衝撃は超弩級です。
「イン・ザ・ミソスープ」にしてもしかり、「五分後の世界」にしてもしかり、京楽と暴力を駆使して反社会…





鎖国直前の長崎を舞台にした勧善懲悪ドラマ。長崎奉行による海外貿易の私物化に加えて苛烈を極めるキリシタン弾圧にあえぐ長崎の人々を救うために立ち上がったのは「うつけもの」として有名な放蕩息子だった。
500頁の大部ですが、長崎の町を、貿易という外交的な視点と、キリスト教弾圧という内政的な視点の両面…




30年以上前に一世を風靡した作品です。若い時には官能作品だと思って読んだ覚えがありますが、年齢を経て再読すると当時は見えなかったものが見えてくるという嬉しくも不思議な好著です。
村上は「限りなく透明に近いブルー」以来、退廃的な生活を送る若者の姿を通して、現代日本の病巣を象徴的…