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食と戦争に切り込む『ナチスのキッチン』トークイベントも開催(5/31)

「腹が減っては戦はできぬ」。僕は食道楽で、三食のうち一回が欠けただけで心身ともに激しく機能低下するので、毎日のようにこのことわざを脳裏によぎらせています。「戦争」という状態から遠く隔たった現代日本に暮らしていると、「戦」は、仕事や生活のなかのちょっとした勝負事の喩えとして感じられます。
しかし、過去に目を向けてみれば、富国強兵政策の時代、日本を始めとした近代化に邁進する各国で、食の充実は国民の身体の充実を意味し、それが国民を総動員する「総力戦」を見越したものだったこともあり、このことわざから血なまぐさいニュアンスを嗅ぎ取ることができるでしょう。
また未来には、人類の人口が爆発的な増加を続けていることから、地球上のあらゆる地域において食糧危機が無視できない問題になりつつあることも予測されています。国際的に食糧供給の主導権を握ることは、今でも政治的な緊張をもたらす重要な関心事なのです。
 
そんな「食」と「戦争」の両方を視野に入れた書籍が近日刊行予定です。その名もナチスのキッチン 料理とテクノロジーの環境史。著者は「食の思想史」「トラクターと化学肥料の農業技術史」などを研究テーマに掲げ、第一次世界大戦期のドイツの食糧問題、ナチス時代のドイツの農民生活、大日本帝国時代の水稲品種などを研究してきた藤原辰史氏。今回、この本の出版を記念して、ジュンク堂書店池袋本店では藤原氏のトークイベントが開催されます。
 

 
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藤原辰史著『ナチスのキッチン』(水声社)刊行記念
「食べること」から見るファシズム
 
■2012年5月31日(木) 19:30~
藤原 辰史(東京大学大学院講師)×山室 信一(京都大学人文科学研究所教授)
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(以上、ジュンク堂書店 イベント情報ページより)
 

 

    

藤原氏の既刊書は、イギリスの経済封鎖によって生じたドイツの大量餓死から語り起こされる「食糧戦争としての大戦」を扱ったカブラの冬 第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆、「自然との共生」を目指すエコロジー思想がナチスの農業政策にどのように取り込まれていったのかを扱ったナチス・ドイツの有機農業―「自然との共生」が生んだ「民族の絶滅」
トークの相手役はキメラ―満洲国の肖像複合戦争と総力戦の断層―日本にとっての第一次世界大戦の著者、山室信一氏。
 
今回の『ナチスのキッチン』は、その「台所」をキーワードに、有機農業・システムキッチン・食材からレシピや家事労働にいたる「食」をめぐる多彩な問題を読み解く一冊となっているとのこと。藤原氏は「台所という空間に無限の愛着を感じてきた」と語っていました(京都大学のサイトで読めるこの文章は、肩の力の抜けた感じで楽しく読めます)。
 

 

    

『ユリイカ』の特集B級グルメ ラーメン、カレー、とんかつ、焼きそば・・・日本にとって食とはなにかや、速水健朗氏ラーメンと愛国、そして廣瀬純氏の美味しい料理の哲学など、最近面白い角度から「料理」を論じる書籍が刊行されています。『ナチスのキッチン』もこれらと併せて読むと、「味わい」が深まるのではないでしょうか。
 
『ナチスのキッチン』目次
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序章 台所の環境思想史
歴史の基層としての台所/テイラー・システムとナチズム/台所の変革者たち
台所をどうとらえるか――定義とアングル
 
第1章 台所空間の「工場」化  建築課題としての台所
ドイツ台所小史/ドイツ台所外史/第一次世界大戦の衝撃/
フランクフルト・キッチン/考えるキッチン/ナチス・キッチン?/
労働者約一名の「工場」
 
第2章 調理道具のテクノロジー化  市場としての台所
電化される家族愛/台所道具の進歩の背景/マニュアル化する台所仕事
市場化する家事/報酬なきテイラー主義の果てに
 
第3章 家政学の挑戦
家政学とは何か/家政学の根本問題/家政学の可能性と限界
家政学のナチ化/家政学の戦時体制化/家政学が台所に与えた影響
 
第4章 レシピの思想史
ドイツ・レシピ少史/読み継がれる料理本/企業のレシピ/
栄養素に還元される料理
 
第5章 台所のナチ化  テイラー主義の果てに
台所からみたナチズム/「第二の性」の戦場/「主婦のヒエラルキー」の形成/
無駄なくせ闘争/残飯で豚を育てる/食の公共化の帰結
 
終章 来たるべき台所のために
労働空間、生態空間、信仰の場/台所の改革者たちとナチズム/
ナチスのキッチンを超えて
 
「食べること」の救出に向けて  あとがきにかえて
 
付録1 ベストセラーの料理本
付録2 ダヴィディス著『実用的料理本』の版別レシピ構成
付録3 ハーン著『実用的料理本』の版別レシピ構成
 
註/参考文献/人名索引
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藤原氏とも本書とも今回のトークイベントともほとんど関係ありませんが、ナチス関連ということで。
この9月に公開予定の『アイアン・スカイ』は、第二次大戦敗戦時に月の裏側に逃げて生き延びていたナチスの勢力が、再び宇宙軍を率いて地球に攻め込んでくるという映画です。

 
【関連ページ】

「食べること」から見るファシズム 藤原辰史×山室信一: ジュンク堂書店Podcast

イベントの模様を収録した動画を配信しています。
対談相手の山室氏のトークも非常に情報量が多くて面白いです。
 

早瀬晋三の書評ブログ『食の共同体-動員から連帯へ』池上甲一・岩崎正弥・原山浩介・藤原辰史(ナカニシヤ出版)

藤原氏も共著に名を連ねている『食の共同体』の書評。
簡潔でわかりやすい紹介です。
==以下引用======================
 有機農業、フェアトレード、地産地消、産消提携、ファーストフード、スローフード、LOHAS、食育などのキーワードが、本書に登場する。これらのことばの意味を、われわれはどれだけ知っているだろうか。さらに、その現場の実態をどれだけ思い浮かべることができるだろうか。消費者が、食の末端である食べる場しか知らないとしたら、「共同体」そのもののイメージがわかないだろう。そして、食の後のことも考えなければ、これからの共同体は成り立たない。食の未来はけっして楽観視できないが、この問題に真摯に取り組んでいる研究者たちがいることを知ってすこしは安心した。
==以上引用ここまで======================
とのこと。
 

「麦おばさんはどこへ行ったのか 村の収穫祭とナチズム」

「待機する共同体 ナチス収穫祭の参加者たち 1933-1937」

藤原氏が発表した収穫祭関係の論考が上記リンクで読めます。
読ませる文章なのでオススメ。
 

藤原辰史氏講演会「「エコロジー思想」に潜むリスク ナチス・ドイツの有機農業」@パルテノン多摩 – Togetter

2月に行われた、藤原氏の講演会のレポートです。
 

「地球にやさしい戦車」

藤原氏について調べていて見つけたエッセイ。
日中戦争の最中に書かれた「戦車」についての書物を巡る文章なのだが、「とにかく戦車がかわいい」というその書籍の著者が面白い。
 
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食とエロス(トーキングヘッズ叢書 No.48)書苑新社

ラーメンと愛国 講談社

むし学 東海大学出版会

20世紀環境史 名古屋大学出版会

乾物ブーム到来か 乾物と保存食材事典 誠文堂新光社

乾物の事典 東京堂出版

占領期のキーワード100 青弓社

居酒屋の世界史 (講談社現代新書)

日本の食文化史年表吉川弘文館

ニューヨーク 変わりゆく街の食文化

戦争は、一つの社会現象。

ベルリン 地下都市の歴史東洋書林

戦争と伝書鳩社会評論社

ひとはなぜ乳房を求めるのか 危機の時代のジェンダー表象青弓社

写真・ポスターに見るナチス宣伝術―ワイマール共和国からヒトラー第三帝国へ青弓社

カール・シュミットの「危険な精神」 戦後ヨーロッパ思想への遺産

 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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