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天皇の朝ごはんはバケツリレー式だった!『宮中のシェフ、鶴をさばく』

先日、面白い料理関係本が刊行された。宮中のシェフ、鶴をさばく: 江戸時代の朝廷と庖丁道だ。
 
本書は、江戸時代に天皇が食べる料理を担当した料理人たちが確立した「庖丁道」なるものが何なのかを追った一冊。
たとえば、タイトルにもある鶴。鶴が絶滅に瀕し、保護の対象とされている現代、鶴料理はほとんど食べることはできない。鶴料理は江戸時代でも非常に高価なものだった。それだけに、将軍家や大名家では贈答や饗応に利用されたという。江戸時代には、将軍が鶴を捕らえ、天皇に献上したことがあった。
 

 
正月に「鶴庖丁」という儀式がとりおこなわれ、その鶴は人々の見守るなか、御厨子所預と呼ばれる官人によってさばかれたという。
この御厨子所預という官職は、何代にもわたって受け継がれていくもの。彼らは庖丁の動かし方や切り方、置き方にいたるまで細かく作法として定めていた。それが「庖丁道」である。
この庖丁道には、献立や配膳の仕方まで定められている。
 
さて、その庖丁道を歩んだ料理人たちが奉公した天皇の食事はどのようなものだったのだろう。
 
天皇は起床後の身支度を整えると、常御殿という建物に移動する。そこで、「御朝」「御朝の餅」が献上された。
この「御朝の餅」は、江戸時代前から決められた菓子商が献上するものに決まっていた。この菓子商は洛中洛外の餅屋を支配する京餅座という権利を得ていた家だ。
なお、これはいわゆる朝食ではない。なんと江戸時代の天皇はこの餅を食べなかったらしい。この餅は、天皇が見て、下げる、という儀式だったらしい。
餅が下げられてようやく朝食になるが、天皇がそれを食べる前の配膳がまた複雑だ。
調理された食事は、まず「吟味役」が味付けを確認。次にその吟味役と「御前番」という役人が盛り付けをチェック。御前番は料理の乗ったお椀やお皿を布巾で拭き、「御末」という女官に渡す。御末は、「命婦」に料理を渡し、命婦はさらに上級の女官にそれを渡す。
この様子を本書の著者は「さながらバケツリレーの様相」と書いている。
このような複雑な配膳ののち、天皇はようやく料理を口にすることができたという。
このような天皇の食事のリレー形式は、明治になっても変わらなかったらしい。ただし、大膳寮という部署が天皇の食事を担当し、朝食はカフェオレとパンのみになったという。
 
天皇の昼食には、毎日立派な鯛が出されたという。出される皿数はかなり多かったのだが、天皇が食べるのはごく一部。残りは先述の「御末」が拝領した。
 
江戸時代に天皇と微妙な緊張関係にあった将軍家の食事についても本書では触れられているが、今回の記事では割愛する。
 
ともあれ、天皇の食事をつかさどったのは「御厨子所預」という役職、つまり天皇のシェフ的な存在だった。
天皇のシェフなのだから、朝夕の食事だけではなく、重要な年中行事の御膳も担当した。
本書には、さまざまな行事で御厨子所預が務めた役割が解説されている。
 
この御厨子所預がヒーローになる出来事があった。東山天皇即位の大嘗祭である。大嘗祭とは、天皇が執り行う神事のなかでもとりわけ重要なものと言われる儀式だ。
現代でも、1990年に大嘗祭のための大嘗宮建設のために十四億円が税金て賄われた。
この大嘗祭は、15世紀の応仁の乱以来途絶えていた。これを復興させたのが、そのとき御厨子所預だった高橋宗恒である。
宗恒は、天皇の執り行う大嘗祭のディレクターとして儀式を下支えしたという。
 
目次
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鶴を食べますか?―プロローグ
江戸時代の天皇・朝廷
宮中の「シェフ」と「メニュー」
鶴をさばく 地下官人・御厨子所
堂上公家四条家
庖丁道の秘伝書と堂上公家四条家
四条家の四条流庖丁道の門人たち
伝統化する庖丁道―エピローグ
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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