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閲覧注意:技巧派ナンセンス劇薬漫画家の新作が酷すぎた(褒めてます)

ハイセンスな感じのする表紙に惹かれて登校途中の出会い頭の偶然キスはありうるか?実験を買ってみたら酷すぎた(褒めてます)。
 
本書は、エログロナンセンスな内容のマンガを卓越した画力と、メタフィクション的な手法を駆使して描くことで知られる駕籠真太郎の短編集。
僕も変態マンガ誌「フラミンゴ」の読者で、駕籠真太郎の名前も作風も知っていたので、この作品を買って後悔しているかというと必ずしもそうではない。むしろ笑った。声を出して笑った。美味しく晩ご飯食べながら本書を読んだ。
しかしこれは本当にヒドい。面白いし、良心の呵責に苛まれずに済む作品もいくつか含まれているけれど、大半は救いのない残酷物語を徹底してシニカルに描いている。まだやるのか、と思った。
あんまりに酷いので、あらすじを紹介することが躊躇われる。続きを読みたい人はよくよく覚悟の上で書影以下の続きを読むように。メンタルに自信のない人、グロテスクなものに抵抗のある人は間違っても本書を買わないで欲しい。本書は劇薬である。
 

 
この短編集に収められた作品の、どこがそんなに酷いのか。
たとえば、「臓器売買」は、一億円の借金を返すために、自分の体内に複数の臓器の種を植え付け、巨大な内臓の塊になってしまう男の物語。
 
また『或る漫画家の最期』は、「描かれている最中のマンガの原稿の裏側から、そのマンガを描いているマンガ家を見上げている」という構図で、そのマンガ家が死ぬ瞬間までを眺める作品。最後は原稿の上で作者が首を吊って自殺するのだが、よく見ると原稿に描かれているキャラクターが、死んでいる漫画家のスカートの中のパンツを見て興奮している。
 
表題作『登校途中の出会い頭の偶然キスはありうるか実験』はこのタイトルそのままの「実験」が描かれる。
時給二万円で雇われた二人の男女が、科学者らしき男に強制されて「登校途中の出会い頭の偶然キス」がどのような条件下で発生するか、街角で繰り返しぶつかり合わされる。
ぶつかる衝撃で歯が折れ、頬は裂け、二人とも血まみれになる。二人の未来には何が待ち受けているのか…。まあ、死んでしまうんですが、その死に方がまた酷い。
 
マンガのコマの外側にある街に向かう探偵を描いた『欄外の街』はグロテスクさ控えめな作品。
この作品のコマの中はまったくの空白で、コマの外側(普通のマンガなら空白になっているところ)でストーリーが進行していく。
コマの外側だからこそ、そこでは連続する場面を区切るものがないため、時間や空間が普通ではないのだ、という設定になっている。やっぱり最後には死人が出る。
 
駕籠真太郎は何を描きたいのだろうか?頭を抱えてしまう。心温まるヒューマンドラマを描きたくないのはわかる。寒々しい笑いを呼び起こし、読者の胸に良心の呵責をもたらしたいのだろう。それでどうしたいのだろうか。
わからない。わからないけれど面白いのだ。こんな酷い作品が雑誌に連載され、単行本にまとめられ、一般書店に並ぶ(ちなみに僕はこの本を銀座の一等地にあるブックファーストで購入した)。誰がこれらを支持しているのか。
「酷い」というのは、必ずしも完成度の低さを意味しない。駕籠真太郎作品の完成度の高さを疑う人はあまり居ないだろう。いわゆる道徳とか、精神の尊さ、気高さみたいなものに対して、無関心を通り越して嘲笑してしまおうとすら企んでいそうな不敵な「実験」がここにある。
 
普通の科学ならば、実験は何かしらの仮説の検証のためにある。この実験の結果、駕籠真太郎はどんな仮説を検証したのだろうか。あるいは、そんな「普通の科学」を軽蔑し、実験のための実験を繰り返すマットサイエンティストのようなスタンスなのだろうか。おそらくそうだろう。しかしマッドであり続けることは苦痛に満ちている。
 
本作にも、作者の生活苦がにじみ出ているような描写が散見される(先に挙げた『或る漫画家の最期』などは露骨にそれが描かれている)。
駕籠真太郎は苦しんでいる。もうやめてしまえよ、楽になれよ、ヒューマンドラマでお涙頂戴の感動大作を描いてくれよ、と読者は思うだろう(それはそれで読んでみたい)。無理すんなよ、と。
しかし駕籠真太郎は意地になっている。意地でも高潔なストーリーは描かないつもりなのだ(いや、こっそりどこかで描いているのかも知れない)。読者はその意地と、表現の巧みさに感動してしまう。ストーリーは酷ければ酷いほど良い。それだけ作者の技巧が際立つのだ…。読者はまあ良い。作者が心配だ…。
 
なお、駕籠真太郎は来月に新刊『ハーレムエンド』をコアマガジン社から発表予定。こちらは描きおろしで、テーマはなんとアニメ。戦慄しながら待機せざるを得ない。
 
 
【関連ページ】

奇想漫画家・駕籠真太郎展「不衛生博覧会2012」 ≪ オメガアルゲア

「最新刊からの展示はもちろん、「自主制作本」「自主制作DVD」「玩具」「複製イラスト」「ポストカード」「原画」など、駕籠ワールド全開の見せ物小屋的・駄菓子屋的な展示」とのこと。

 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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