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目の前の他者に向き合う。東浩紀+千葉雅也対談『atプラス12』

現代日本を代表する言論人のひとり東浩紀氏と、若き哲学者として注目を集める千葉雅也氏の対談が収録されるということで『atプラス』最新号は刊行前から大いに話題になった。今回も盛りだくさんな内容の中から、その対談を中心に、個人的に気になった部分を紹介したい。
 

 
まず東+千葉対談「震災以後の哲学を考える 他者と暴力をめぐって」。
東氏は以前、國分功一郎氏(暇と退屈の倫理学の著者であり千葉氏とも親交がある)との対談「震災以後、哲学とは何か」で、既にこの対談のタイトルにあるテーマについて議論している。この議論について、千葉氏は國分氏の「これからの哲学はスケールの大きい人類史的な話をしなくてはならない」という主張に共感したという。
実は千葉氏は、震災前に刊行された思想地図βに掲載された「インフラクリティーク序説」という論考でインフラが揺さぶられ破壊される状況を、気候変動や脳の損傷、そして情報インフラのトラブルと結びつけ論じている。

 
東氏は、國分氏との対談でも語ったように「哲学は、大衆が読むようにしなければならない」と、旧来の「現代思想系の人たち」を批判する。
東氏によると、旧来の現代思想では「無限の他者」という抽象的な対象が議論されていた。しかし、そのような議論では現代思想に詳しい読者としか語り合うことができない。例えば学校の同級生と話が通じないのだ。抽象的な「他者」について議論しているだけでは、目の前にいる「近い他者」とどう向き合うかについて、実践的にはほとんど役に立たない、と東氏は言う。
 
東氏は、千葉氏と國分氏が参加した表象04での鼎談で千葉氏が主張した「みずからの欲望の肯定する」という態度が、実践的な意味を評価する上記のような東の考えに近いのではないかと語る。
「欲望の肯定」について、詳しくは別の思想誌「現代思想」の特集「人間/動物の分割線」に掲載された千葉氏の論考「トランスアディクション」を参照して欲しい。

 
千葉氏の、「インフラクリティーク序説」や「表象04」での発言は、フランスの哲学者カトリーヌ・マラブーの思想と深く結びついている。マラブーはわたしたちの脳をどうするか―ニューロサイエンスとグローバル資本主義で「脳の可塑性」という点に着目している。
現代の労働者は、ますます流動性と多様性を高めていく市場主義社会のなかで、市場に要求されるままにフレキシブルに変わっていくことを求められる。しかし、マラブーのいう「可塑性」はそれに抵抗する。市場からの要求に応えるのではなく、自らの欲望を作り変えていく可能性。
千葉氏は、人が何かしらの欲望を持っているときに、市場からの要求を断固抵抗しながら、その欲望を追求することを肯定する。

 
東氏と千葉氏の対談に話を戻すと、この「欲望の肯定」は、「何かを選ぶならば、何かを選ばないことになる」という今回の対談における大きなテーマと繋がっている。東氏は、自分の置かれた環境がみずからの趣味嗜好を規定していると断言する。ある人が置かれた環境によって、その人が何を選ぶか、そして何を選ばないかが決まってしまう。これに対して千葉氏は、その欲望が変わっていく可能性に留意する。二人の意見がもっとも分かれるところはこの点だ。東氏が「何かを選ばないこと」を強調し、千葉氏がその否定的な表現に全面的には同意しない微妙な立場を堅持しているところが重要だろう。
 
しかし、この二人が同意する点もある。「左翼」や「右翼」といった大味なラベリングによる政治に対する違和感だ。各自が自らの欲望を肯定するとき、従来の政治運動における政党や左翼や右翼といった立場では捉えきれない多様性が生じてくる。東氏は震災以後、このような違和感とどう向き合うかについて考えている、と語る。
 
東氏と千葉氏の対談に続いて掲載されているのは、すが秀実( 「すが」は「いとへん」に「圭」)氏の「幻想・文化・政治 今なお不可視化されている下部構造について」。この論考では、東氏と千葉氏の対談で語られた「自分の趣味嗜好を規定する環境」(つまり下部構造)が、吉本隆明以降、どのように隠蔽されてきたのかを辿る。
すが氏は、吉本隆明の『共同幻想論』が支持されてきた20世紀後半の思想史を振り返り、政治を巡る議論が権勢を失い、幻想と文化を語る言説が広まっていくという。幻想と文化を語る言説は、下部構造と労働を不可視化することで成り立っていたのだが、すが氏によると、今はもうその不可視化は限界に来ている。労働者が、市場に要求されるままにフレキシブルに失業の危機に晒されており、再就職の希望が薄い現状を前に、すが氏の結論に楽観的な色はほとんどない。
 
東氏とすが氏が語る、下部構造の不可視化については、以前、当Bookニュースでも取り上げたジャーナリストの佐々木俊尚氏の著作「当事者」の時代で、政治運動家やジャーナリズムがどのように実情と乖離した言説を生み出していったかについて書いていたことにもリンクしていると言えるだろう。『atプラス』今号の編集後記には「70年代以降に進んだポストモダン化によって、ポストポリティカルな状況が訪れたと言われますが、近年ではその幻想が敗れ、“ポストポストポリティカル”というべき状況が現れています」と書かれている。千葉氏の言うような「欲望を肯定する」スタンスで、従来の政治が前提としていたような大味なラベリングに対する違和感を払拭するためにも、これまでの政治的な言説を客観的に読み解くことは意義のあることだろう。

 
 
『atプラス』前号から連載が始まった大竹弘二氏の「公開性の根源」は今回も刺激的だ。
副題は「政治における秘密」。今回は、政治において秘密裡に実践される活動が、思想史の中でどのように扱われてきたかが紹介されている。
近代の啓蒙主義が排除しようとした、絶対主義王政における「国家の神秘」とは何だったのか。そして、現代まで続く「政治における秘密」とは何なのか。
大竹氏によると、「政治における秘密」とは、政治を人体になぞられて理解する神秘的で中世的な政治観が崩壊していくなかで用いられた、合理的な権力技術を指す言葉だった。
そもそも「神秘」という言葉も、司祭たちによって執り行われる秘蹟(ミサ)のことを考えると、神を頂点に置く天使たちの官僚制、そして法王を頂点に置く教会の官僚制のなかで、常に「代務」されて執行されることを考えると、一般的に考えられるオカルト的なものではなく、きわめて合理的なものだとも言えるのかも知れない。
 

目次
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【特集】日本思想のユーティリティ
・東島誠+與那覇潤
歴史学に何が可能か――「中国化」と「江湖」の交点
・東浩紀+千葉雅也
震災以後の哲学を考える――他者と暴力をめぐって
・すが秀実
幻想・政治・文化――今なお不可視化されている「下部構造」について
 
【特別寄稿】
・レベッカ・ソルニット 小田原琳=訳
災害に向かって扉をひらく
 
【連載】
・吉沢正巳
我は如何にして活動家となりし乎 第10回 被ばく牛を生かす道が放射能汚染地帯を救う!
・大竹弘二
公開性の根源 第2回 政治における秘密
・大澤真幸
可能なる革命 第6回 若者の態度の二種類のねじれ
・白井聡
Review of the Previous Issue 「陸の帝国」 の新時代は近代を超えうるか
・鈴木一誌
デザイン覚書27 〈充電器のデザイン〉
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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