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自殺というテーマで様々な情報が収められた奇書『完全自殺マニア』

僕が生きてきた三十数年の人生の中で、自殺に成功し帰らぬ人となった友人が二人ほどいる。僕の知らないところで死んでしまっている知人はもっとたくさんいることだろう。「自殺」。今は正面からこの問題に向き合うことはできないけれど、死んでしまった友人や、死ねなかった友人たち、あるいは自分の将来について考えるときに、参考にしたい書籍がまたひとつ刊行された。
 
完全自殺マニア。おおいに物議を醸した完全自殺マニュアルをパロディしたことを隠さない(装幀もそっくりだ)この本は、積極的に珍書を手掛けることで有名な編集者の濱崎誉史朗氏によって世に送り出された。
 

 
ページを開いてみると、だいたい1行あたり1件の自殺が、1頁に約30件、見開きで約60件ずつ、ほぼ無味乾燥に淡々と記されている。本書に収められた自殺は約2500件だから、年間自殺者数3万超ということを考えると少ないと思われるかも知れない。ここには何らかの著者と編集者の思惑があるのだろう。それはどのような思惑なのだろうか。本書を片手に頭を巡らせてみてもいいだろう。
 
この約2500件の自殺データの他に、自殺者数の時代ごとの推移・自殺率の時代ごとの推移、自殺現場の写真(自殺当時ではなく、痕跡がほとんどわからない現代の写真なのは興味深い)など、自殺というテーマで様々な情報が収められている。詳しくは目次を参照して欲しい。
 
哲学や社会学の思想が簡単にまとめた「自殺学の人々」が各章のあいだに置かれているが、そのなかで「自殺は模倣されうるか」というテーマに挑んだデビッド・P・フィリップスの研究が紹介されている。
フィリップスは、19世紀に提唱された「社会はすなわち模倣である(だから自殺は模倣される)」という通念に対するデュルケムの批判を検証した。
デュルケム以降「自殺」と「模倣」は関係ないとされてきたのだが、果たして本当に関係ないのだろうか。フィリップスは、実証的なデータをもとに、自殺報道と自殺件数に統計学上有意な連関があることを明らかにした。「自殺は模倣されうる」というのが結論である。
 
また、自殺報道と自殺のブーム化については有名な高島平団地についてのコラムで端的にまとめられている。1年間に25人もの自殺者を出した高島平団地について、当時の新聞がどのような報道をしてブームを加熱させたのか、そしてブームがどのような方法で沈下したのかがわかりやすく書かれている。
 
私見では、本書の背後には、とかく隠されがちな「自殺」という行為を可視化したいという思いがあるように読めた。しかし上記のとおり、扇情的に自殺を扱えば模倣的な自殺をいたずらに呼び起こす危険性がある。その危険を避けながら、忌避されがちな自殺という問題を扱うために、本書のような淡々とした体裁が求められたのではないだろうか。
 
目次
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まえがき
自殺者数グラフ
第一章 ~ 1880
自殺学の人々①プラトン
第二章 1881 ~ 1890
自殺学の人々②アウレリウス・アウグスティヌス
第三章 1891 ~ 1900
自殺学の人々③デヴィッド・ヒューム
第四章 1901 ~ 1910
自殺学の人々④エミール・デュルケム
第五章 1911 ~ 1920
自殺学の人々⑤ポール・ロバン
第六章 1921 ~ 1930
自殺学の人々⑥チャド・バラー牧師
第七章 1931 ~ 1940
自殺学の人々⑦エドウィン・S・シュナイドマン
第八章 1941 ~ 1950
自殺学の人々⑧デビット・P・フィリップス
第九章 1951 ~ 1960
自殺学の人々⑨ジャック・ケヴォーキアン
第十章 1961 ~ 1970
自殺学の人々⑩鶴見済
第十一章 1971 ~ 1980
コラム①戦前デパート飛び降り自殺ブーム
第十二章 1981 ~ 1990
コラム②高層ビルジャンパーの歴史
第十三章 1991 ~ 2000
コラム③練炭自殺の歴史、報道による模倣
第十四章 2001 ~ 2010
コラム④自殺した若者の遺稿集 3 つのブーム
第十五章 2011 ~
コラム⑤高島平団地飛び降り自殺ブーム
第十六章 カレンダー
第十七章 分野別

あとがき
参考資料
東京自殺マップ
霞ヶ関自殺マップ
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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