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魅惑的なおとなの絵本。瑠璃色の海に蘇る『ギルガメシュ王の物語』

ロールプレイングゲームのファイナルファンタジーシリーズに、ギルガメシュという名前のキャラクターが登場する。次元の狭間を彷徨う時空の旅人であり、元々は悪役でありながら、独特の愛嬌でもってプレイヤーたちから愛されている。このキャラクターの名前は、現存する人類最古の英雄伝説『ギルガメシュ叙事詩』に由来している。『ギルガメシュ叙事詩』は、現代から4000年前の紀元前1800年頃に楔形文字で石版に掘られたもの。今回紹介するギルガメシュ王の物語は、紀元前7世紀に建てられたと推測される、アッシリアの図書館跡から発掘された12枚の粘土板を元に、ひとつの物語として再編されたものだ。
 
この物語の主人公となるギルガメシュは、紀元前2600年ごろの古代メソポタミアの都市国家ウルクに実在した可能性の高い人物。『ギルガメシュ叙事詩』には、ギルガメシュとそのライバルでもあるエンキドゥという人物との友情が描かれていると言われる。
 

 
物語の骨子はこうだ。
かつて都市国家ウルクにギルガメシュという王がいた。彼の母親は女神であったが、彼が暴君であったため、ウルクの民は神々に助けを求める。神々は人々の願いに応えてエンキドゥという野人を造り、ギルガメシュに対抗させようとする。
このことを知ったギルガメシュは、神聖娼婦を遣わしてエンキドゥの獣性を鎮める。そののち、ギルガメシュとエンキドゥは闘うが、雌雄の決着がつかないまま2人のあいだには友情が芽生える。
ギルガメシュはエンキドゥとともに暴れまわるが、そのことがもとでエンキドゥが神々から死を宣告される。エンキドゥの死後、ギルガメシュは不死を求めて彷徨う。
 
古代の伝説なので、オチらしいオチは無い。本書で面白いのは、傍若無人の暴君だったギルガメシュが、天真爛漫に好き放題を行いながら、怪物に怯えたり、友の死を悲しんだり、死を恐れたりする素朴な性格描写だと僕は思った。また、ユダヤ教・キリスト教の聖典である創世記にも登場する洪水と方舟の物語と同型の洪水伝説が登場するところも興味深い。
 
なお本書は左頁に物語、右頁に絵が配置された「絵本」の体裁になっている。象徴的な絵を手掛けているのは、聖書をはじめとする古文書との縁の深い画家の司修氏。本文にも登場する瑠璃の色を基調にした司氏の絵が遙か古代の物語に読者を引きこんでくれる。いかがわしい意味ではなくて、文字通りの「大人の絵本」になっていると言えるだろう。悠久の時の流れを感じながら、1ページずつ味わいながら読みたい一冊だ。

※司修氏が挿画を手掛けた塩野七生『コンスタンティノープルの渡し守
 
本書の版元である「ぷねうま舎」は、岩波書店の編集者だった中川和夫氏が今年設立した出版社。今後ははじまりのキリスト教や、悲劇と福音―原始キリスト教における悲劇的なるものの佐藤研氏による『最後のイエス』〈個〉の誕生──キリスト教教理を生み出した人びとの坂口ふみ氏による『人でつむぐ思想史Ⅰ ヘラクレイトスと友人たち』みちのくの詩学の著者である故・坂口昌明氏がイタコが語り継いだ東北版「安寿物語」を論じた『安寿 お岩木様一代記奇譚』などの刊行が予定されている。
今後も注目していきたい版元だ。
 
【関連ページ】

「ギルガメシュ叙事詩」を読む – Togetter

人文系twitterユーザーの一部に人気のアカウント@segawaによる、本書を読みながらのオンライン読書会のまとめ(2012/6/21現在も進行中)。
きわどいところに軽快なツッコミを入れながら読み進めていて非常に楽しいです。
 

「Fate/Zero」ラスボスの“ギルガメッシュ王”って何者? | ニコニコニュース

『まどか☆マギカ』で知られる虚淵玄氏原作のライトノベル、そしてそれを原作にしたアニメが人気の『Fate/Zero』の強烈な登場キャラクター「アーチャー」についての解説。
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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