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ハーバードの先生がツンデレを大真面目に分析『ライトノベル表現論』

先日紹介したベストセラー・ライトノベルのしくみと好対照をなす書籍が刊行された。今回紹介するライトノベル表現論: 会話・創造・遊びのディスコースの考察、この生真面目なタイトルの書籍の著者は泉子・K・メイナード氏。名前だけ見ると、それこそまるでラノベやマンガに登場しそうな印象だが、ハーバード大学などで教鞭をとる本物の言語学者だ。『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』がライトノベルをマーケティング的な側面からみた分析だとすると、本書は表現的な側面からの分析ということになる。
 
本書は、言語学の立場から『涼宮ハルヒ』から『とらドラ!』、『文学少女』、果ては『撲殺天使ドクロちゃん』までを分析し考察する学術書。バフチン・バルト・クリステヴァ・デリダらの文学理論を背景に、柄谷行人や東浩紀・稲葉振一郎といった日本の文芸評論家の著作への一定の理解が求められる。
学術書といってもライトな部類で、大学の文学部に通う学生レベルであれば容易に理解できる内容だ。背伸びをしたい高校生にもオススメできる。『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』はさらに読みやすく前提知識も求められないので「ライトノベルについて分析している本を読みたい」という人には『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』のほうを先に読むことをオススメしたい。両書を読み合わせることで、ライトノベルに対する「読み」を深めることができるだろう。
 

 
本書第4章では、ライトノベル表現の最大の副産物「ツンデレ」について、『涼宮ハルヒ』シリーズのヒロインの言動を詳細に分析し、ツンデレの言語表現について考察が深められている。大真面目なのが、笑える。
「ツンデレ」分析から一文引用しよう。
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「よ」は、話し手が相手に比べてより詳しい情報を持っていると判断した時、情報自体に焦点を当て、まだ相手が十分認識していない情報や話し手の方が確実に握っている情報について、注意を促しながら相手に訴えるために使われる。そのため、まだわかってくれないの、という切ない気持ちを伝えたり、まだわかってないんならもう一度繰り返すけど、という態度を伝えたりする。
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このあと、実際の『涼宮ハルヒ』シリーズからの引用が、「拒否する」「命令する」「罵倒する」「叱る」といった分類とともに提示され、どのようにツンデレキャラクターのセリフが構成されるのかが指摘される。
 
また、本書第11章では、ライトノベルで重要な意味を持つイラストやデザインの機能が分析されている。たとえば嘘つきみーくんと壊れたまーちゃんのデザインの分析。そのカバー裏には、黒字に赤で本文からの引用がフォントを変えて印刷されており、裏表紙には血のついたナイフを持ったヒロインが描かれている。裏表紙に描かれたヒロインの足元は血の海なのだが、それはカバーのオビで隠されているという凝りよう。これを「見たまま」と言ってしまえばそれまでで、もっと踏み込んだ考察が欲しいところではある。しかしこうした分析の端緒が開かれていることは読者として喜びたいところだ。

 
本書では、『ベストセラー・ライトノベル』のように取り上げる作品に明確な基準を設けてはいない。実際に分析の俎上に載せられる作品は先述のシリーズの他に、桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』、上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』のほか、西尾維新や佐藤友哉まで幅広く、それらの読者には楽しく読めるようになっている。しかしこれらの多くの例から、著者の理論に都合の良い部分だけを選り集めているような印象もなくはない。華々しく論壇を賑わせる評論家のようなわかりやすい思想があるわけでもない(これは学術書なので当然だろう)。しかしライトノベルに親しんでいる読者で、その表現を学術的な研究対象にしたいと思う人や、自分の親しんでいるジャンルから学問的な作法を学びたいと思っている人にとっては、他に代えがたい格好の入門書だと言えるだろう。
 
目次
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第1章 ライトノベルという現象
ライトノベルの定義と種類
歴史的背景
ライトノベルの周辺 ノベライズとライトノベル化 マルチメディア展開
ポストモダンとライトノベル
近代文学の終わり
自然主義的リアリズムからマンガ・アニメ的ライトノベルへ
ジャンルとしてのライトノベル
ライトノベルと非ライトノベル
 
第2章 ライトノベル表現の概観
ライトノベルのコミュニケ-ション キャラ類型とキャラゴ インフォメーションからデータ・ベース・コミュニケーションへ
ライトノベルの文体
新言文一致タイから会話体文章へ
作者の口調とイメージ
指南書とのギャップ
ライトノベル表現論を求めて
本書の構成
 
第3章 考察の枠組みとデータ
場交渉論
ナラティブ理論:声の多重性と間テキスト性
言語の主体・創造性・レトリック
マルチモダリティ談話分析
間ジャンル性
分析方法とデータ
 
第4章 会話のスタイル
会話らしい会話 言いよどみと言い直し つっかえ ポーズと驚き 共作と両属連鎖 聞き違いと問い直し
キャラクター設定とキャラ語の創造性
ツンデレとキャラ語
会話内の借り物スタイル
若者言葉の会話
会話内のスタイルシフト
マンガ・アニメ的誇張会話
ライトノベルの会話性
 
第5章 語りのスタイル
語りの視点と人称
書き言葉で綴る語り
心内文と心内会話
語り部分のアイロニーとバリエーション
心内会話のバリエーション
見え隠れする語り手
語り手が他者を意識する時
語りと会話の間
 
第6章 語と談話の間
段落の流動性
1語段落
段落末の陳述
繰り返しの流動性
語と文のくり返し
談話レベルの繰り返し
文の可変性
ライトノベルの表現単位
 
第7章 オノマトペの展開
オノマトペの特徴
ライトノベルのオノマトペ
オノマトペの音象徴的意味
説明付きオノマトペ
自演発話するオノマトペ
『スレイヤーズせれくと1 ナーガの挑戦』のオノマトペ
『撲殺天使ドクロちゃん』のオノマトペ オノマトペの使用 「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」の効果
会話からオノマトペへ
オノマトペ化する語句
オノマトペのマンガ風効果
パロディー化されるオノマトペ
多様化するオノマトペ
 
第8章 表記の操作
カタカナ表記
ライトノベルのカタカナ表記
表記工夫
表記変換
『”文学少女”と死にたがりの道化』のフォント変換と間テキスト性
情意表現としての表記
 
第9章 レトリック効果
笑いのレトリック 笑いの重要性 ボケとツッコミ
ライトノベルのツッコミと遊び
他作品の言及とパロディー
『”文学少女”と慟哭の巡礼者』のレトリック
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 幸せの背景は不幸』の語り方
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 幸せの背景は不幸』の間ジャンル性
遊びと創造のレトリック
 
第10章 文章のビジュアル化
記号の種類と特徴
ライトノベルの記号と富豪
文のビジュアル操作
フォントサイズの操作
ページレイアウトの効果
談話構造の指標
会話体文章のビジュアル化
 
第11章 キャラクターのマルチモーダル展開
文章とイラストの交錯と融合
ビジュアル情報の分析
分析の枠組み
『キノの旅』シリーズのキノ
『”文学少女”』シリーズの天野遠子
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』シリーズのまーちゃん
マルチモーダル表現の世界
 
第12章 ライトノベル比較対照
対象分析とデータ
マンガの分析方法
『”文学少女”と死にたがりの道化』の比較
『とらドラ!』の比較
『撲殺天使ドクロちゃん』の比較
ライトノベルとマンガの世界
非ライトノベルの分析方法
冒頭部分の比較
会話部分の比較
ライトノベルのジャンル性
 
第13章 ライトノベルの表現性
ライトノベルと会話性
会話体文章という環境
「話す」文化と「書く」文化の間で
ポピュラーカルチャーとポストモダン化する言語
ライトノベル表現論の異議
 
参照文献
使用データ
人名索引
事項索引
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【関連ページ】

ツンデレ言語論 – ネ言 negen

2006年の段階ですでに「ツンデレ」を言語学的な見地から分析した考察が公開されていました。
これはスゴイ。
ページ左側のメニュー内「アクセスの多いネタ」に1~7までのページがリンクされています。
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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