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ラノベを徹底的に分析するための着眼点「オタクの4大ニーズ」とは?

とうとうベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略が刊行された。ライトノベル編集者だった著者が、「より多くの読者満足が実現できるものが正しく、その設計に失敗しているものは間違っているというスタンス」に立ってライトノベルを分析した一冊。対象になるのは、Amazonの「ライトノベル」カテゴリで歴代1位になった作品群だ。ビジネス書に出てくるようなフレームワークを使っているのが特徴的。
 
徹底して淡々と綴られる本文は、もはや「新しい文芸批評のかたち」だと言っていいだろう。データに裏打ちされた明快な作品評価、ハッキリとした枠組みに基づく分析は、ライトノベル以外のジャンルにも今後広まっていって欲しいスタイルだと思う。
評論家として高名な東浩紀氏がオタク向けコンテンツを分析した動物化するポストモダン オタクから見た日本社会ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2について、「ライトノベルのメインストリームにある作品の何がおもしろいのか、どこがすごいのかを解説するには、残念ながら役に立たない」「2012年のオタクの心をつかむキャラクターについて言語化できない」と批判する。本書の特徴的な着眼点は「オタクの四大ニーズ」。この「四大ニーズ」にどのように応えているのかという枠組みで、ベストセラー・ライトノベルが分析されていく。
 

 
ベストセラー・ライトノベルが満たしている「オタクの四大ニーズ」とは、「楽しい」「ネタになる」「刺さる」「差別化要因」である、と本書は分析している。
「楽しい」については、競合する他ジャンル(マンガ、アニメ、ゲーム)との差別化が求められるため、わかりやすく楽しめることが重要、という至極あたりまえの話だ。しかしこの性格が高次元で満たされていない作品は商品として脱落してしまう。
 
そして「ネタになる」については、俺の妹がこんなに可愛いわけがない生徒会の一存僕は友達が少ないといった「残念」系と呼ばれる作品群が分析される。
何が「残念」なのか。この「残念」という独特の表現は、オタクのあいだでのみ通用する表現だ。あるキャラクターがきわめて魅力的な外見や卓抜した能力を持っているのにも関わらず、変態的な趣味をもっていたり、物凄く不器用だったりするという「ギャップ」があることを指した表現である。
特にオタクネタを撒き散らすタイプのヒロインが「残念」系の特徴であり、先に挙げた作品群ではオタクネタ満載で「ネタになる」だけでなく、登場人物が作中で成長することによって胸に「刺さる」展開が効率的にクリアされている。
本書によると「残念」系は上記のとおりきわめて効率的なしくみを持っているが、真似しやすい構造のため登場当時のような「差別化要因」にはならなくなっている。

 

      

 
差別化に成功している例はバカとテストと召喚獣というシリーズだ。
このシリーズにはオタクネタが登場しない。仲間たちとのチームプレーという展開で「楽しさ」と胸に「刺さる」の2つの条件をクリアし、さらに、極端なキャラ造形により「ネタになる」を満たしている。そして、ギャグをメインにして徹底的に明るい設定を守ることが「差別化要因」になっている。

 
「楽しい」と「ネタになる」にエッジを効かせた作品は、それ自体はわかりやすい反面、旧来の文学ファンには敷居が高くなりがちだ。これに対して、次に挙げる「刺さる」にフォーカスした2シリーズはライトノベル入門としてオススメしやすい。とらドラ!文学少女シリーズだ。
これらの作品の中核には、「三角関係、四角関係のすれちがいによる切なさの表現」がある。あの手この手で恋愛感情が届かない切なさを描いたあと、ベストセラー・ライトノベルでは、物語の中心が人生の問題へと移行するという。「そして、自分がどんな人生を送りたいのか、それが見えたとき、そばにいてほしいのが誰か―という恋の話へと回帰してゆく」と本書は解説している。

 

      

 
本書は、産業として無視できない規模の市場(本書冒頭で具体的なデータが挙げられている)を持つライトノベルの楽しみ方を知るための最高の一冊だと言える。それと同時に、複数のライトノベルの書評を集めた良質の書評集としても読めるだろう。
 
目次
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はじめに amazonで1位になったライトノベル〈だけ〉読む
2010年代に生きる若いオタクを知るために 彼らが好きな小説とはどんなものかを探る
カスタマー・サティスフィクション 市場原理=顧客満足を第一に熱狂を獲得しているフィクション
本書の試み 読者に支持される作品に着目し、テクニックとその背景を明らかにする先行する著作とのちがい 2000年代後半以降のトップクラスのヒット作品を分析する
本書の構成 ニーズを特定し、いかにニーズを満たしているのかを明かす
ライトノベルは、おもしろい
 
 
第一部 総論 ライトノベルの四大ニーズ
ベストセラー・ライトノベルに共通する要素
エンタメコンテンツ市場におけるライトノベルの位置づけ 顧客はオタク
オタクがライトノベルに求めるニーズ 「楽しい」「ネタになる」「刺さる」「差別化要因」
業界内競争の激化と代替品の脅威 快楽の素早い提供と話題性な必要な理由
▶業界内競争
▶業界外競争 代替品の脅威
四大ニーズの三つ目、「刺さる」が必要な理由
作家に求められる三つの要素 「スピード」「パッション」「オタクであること」
次章以降の構成 「楽しい」「ネタになる」「刺さる」「差別化要因」をいかに満たすか?
 
 
第二部 ラブコメ
第一章 高坂桐乃はなぜ「残念」なのか
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『生徒会の一存』『僕は友達が少ない』
「残念」の戦略 バカな入り口と泣ける出口
1 クーンツ・メソッドのオタク的変容による、ツカミの「楽しさ」の提供
2 『らき☆すた』以降のオタネタコメディの流れを汲んだ「ネタになる」の調達
3 「残念」という「属性の提示」を利用して意外な側面を開示して「刺さる」を調達
▶「メタラノベ」との違い 間口の広さ
▶『らき☆すた』との違い シリアス展開
▶キャラの魅力演出の3ステップ、ギャップ理論、キャラクター・マトリックス
「残念」の戦略 Summery&Extended
 
第二章 リーダーシップ・ギャグ・秀吉 『バカとテストと召喚獣』
『バカテス』と商業的に成功していないコメディ推しラノベとの比較
1 仲間とのチームビルドやルールのあるチームバトルを描いて「楽しさ」と「刺さる」を調達
▶キャラの目的(ゴール)と動機がハッキリしていて、弱いやつが勝つ
▶チーム戦 個性あるキャラを使い倒し、コミュニティの一体感とリーダーシップを描く
▶ゲーム性 ルールとクリア条件があり、戦略が効く「ゲーム」がもたらす楽しさ
2 メリハリあるキャラ表現とカップリング確定型ラブコメで「楽しく」「ネタになる」
▶ハッキリ、極端に、素直にキャラを書くから「楽しい」
▶カップリング確定型ラブコメ=最初から恋愛フラグが立っているタイプのラブコメ
3 小説としての敷居を下げる、遊びのある本づくり/デザインで「楽しさ」を提供
4 楽しさとネタ分を与えるポジティブさと、ズラしの技術(ギャグと秀吉)を生む「差別化要因」
▶終始ポジティブで、イヤな気持ちになるところがないテイスト
▶日常から非日常へと「ズラす」技術 コメディや萌えに使えるギャップ・テク
『バカテス』の戦略 Summery&Extended
 
第三章 ラブコメで「刺す」には 『とらドラ!』『文学少女』
超自然現象がない世界でのラブコメ、しかも恋愛メインという困難
ライトノベルの三層構造からみた『とらドラ!』『文学少女』
針師の手つき 基本をおさえ、激痛はさけた上で、ここちよく、深くまで刺す
1 ラブ分や萌え分を入れて「楽しさ」を調達する
2 ネタ分の用意 話題性の換気とオタクであることの楽しさの調達
3 キャラクター演出の3ステップ 超自然現象がないバージョン
▶「刺す」話でも、「楽しそう」なツカミに 出会いの演出
▶極端なキャラづくり 異能力がない世界でギリギリまでマンガ的に
4 徹底して「刺す」ための2つの手段
▶関係性はトライアングラー〈三角関係〉に 届かない想いが切なさを生む 
5 差別化要因 『とらドラ!』=片思いの徹底、『文学少女』=文学ネタとミステリ
「刺す」系の戦略 Summery&Extended
 
第四章 ファンタジー・ツンデレ・本妻確定型ハーレム 『ゼロの使い魔』
『ゼロの使い魔』のすぐれているところ 「男の子の夢」を詰め込む
1 読みやすい文章で描かれる、スムースな展開
2 異世界(ファンタジー)ならではの光景を描き、読者を別世界に連れ出し、魅了する
▶現実世界とは異なる社会や文化、現象を表現して楽しませる
▶現実ではありえないハデなバトル
▶驚きを与える壮大な設定
3 ヒーローとヒロインを中心とするキャラクターたちの活躍と人間味あふれる心情と行動
▶魅力的なキャラクター設定と、魅力的に見える情報の出し方(描き方/演出方法)
▶正しいハーレムは悲哀まで描く 本妻確定型ハーレムのメリット
『ゼロの使い魔』の戦略 Summery&Extended
 
第五章 バトルラブコメ+本妻不在型ハーレムの成功と困難 『IS〈インフィニット・ストラトス〉』
1 ロボットバトルラブコメがなすべきこと/バトルものとラブコメの違い
▶キャラの関係性を変化させる四つの手法があれば大きなストーリーラインは不要である
▶バトルラブコメはバトルを緊張と緩和をもたらす緩急をつけるために使う
▶バトルラブコメとしての『IS』の勝因 理屈ではなく効果から考える
2 本妻不在型ハーレムのメリットとその困難
▶本妻不在型ハーレムを成立させる要素 「唐変木・オブ・唐変木ズ」な鈍感主人公
▶鈍感の男性視点と敏感なヒロイン視点を使い分けて「愛され感」を表現
▶本妻不在型ハーレムと鈍感主人公の困難 「刺さる」の調達しにくさといかに向き合うか
『IS』の戦略 Summery&Extended
 
 
第三部 バトル
第一章 なぜ異能バトルに上条さんの「説教」が必要なのか 『とある魔術の禁書目録』
バトルものが満たすべきニーズとは? やはり「楽しい」「ネタになる」「刺さる」
『禁書』のすぐれているところ バトルをライトノベルでやるには?の徹底
1 学園ラブコメパートにおける「ラッキースケベ」による「楽しい」の調達
2 「ジャンプ」メソッドのライトノベル的応用+「説教」での「楽しい」「刺さる」の調達
▶ジャンプマンガの快楽とは 『バクマン。』を読む
▶俺TUEEE 明るくスカッとするわかりやすいヒーローで読者を楽しませる
▶イラストの効果的な使用 一目で覚えられる特徴あるキャラ+意外性のあるベタの仕掛け
▶スケール感の演出 超人英雄のバトルものに不可欠なもの
▶説教 敵の共感できる動機を聞いた上で、主人公が「幻想をぶち殺す!」カタルシス
3 「関係性反転」の多用によるサプライズ連発という差別化要因
『とある魔術の禁書目録』の戦略 Summery&Extended
 
第二章 バトルで「刺す」ためのしゃべらない敵 『鋼殻のレギオス』
バトルで「刺す」ための設計
1 主人公の俺TUEEEでバトル圧勝と本妻不在型ハーレム 「楽しさ」の調達
2 シリーズ序盤は連続刊行で話題性を演出 「ネタになる」の調達
3 生き方を探し、問う 「刺さる」の調達
4 「しゃべらない敵」を用意し、内面と関係性に目を向ける 「差別化要因」
『レギオス』が直面した問題点
A 「世界の謎」をめぐる話が大きくなり、「楽しい」「ネタになる」「刺さる」という読者の三大ニーズとかけ離れた要素が増え、「刺さる」が減退
B レイフォンがヘタレで鈍感なままなので物語も恋愛も進まない 「楽しさ」の減退
C キャラが多いのにチームのまとまりを描かないので、一体感の快楽(「楽しさ」)が得られない
『鋼殻のレギオス』の戦略 Summery&Extended
 
 
第四部環境分析
第一章 顧客分析 『涼宮ハルヒの憂鬱』受容を通じてのオタク世代論
オタク世代論
▶『ハルヒ』のクリエイター=オタク第二世代
▶『ハルヒ』の消費者1 2003年時点=オタク第三世代
▶『ハルヒ』の消費者2 2006年以降=オタク第四世代
▶第三世代と第四世代の『ハルヒ』受容の違い
『涼宮ハルヒの憂鬱』の戦略 Summery&Extended
 
第二章 事業分析 なぜライトノベル発のメディアミックスは重宝されるのか
価格(Price)
流通(Place)
宣伝(Promotion)
製品(Product)
▶なぜ各社がライトノベル市場に次々参入し、しかし潰れるレーベルは意外と少ないのか?
▶なぜライトノベル発のメディアミックスは重宝されるのか?
まとめ Summery&Extended
 
 
付録 Q&A 細かい話や疑問に答えます
 
 
終わりに
分析内容のまとめと細く ライトノベル市場拡大の理由
分析手順のまとめと応用
▶分析手順
▶環境分析に用いるフレームワーク
▶作品分析に用いるフレームワーク
▶ライトノベルの分析から導き出されたフレームワーク
今後の展望
▶事業環境の展望
▶仕事の展望
 
あとがき
引用・参考文献
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【関連ページ】

文芸評論家はライトノベル評論家ではない。そしてライトノベルに評論家など必要ない。 – Togetter

本書とは直接関係ありませんが、とてもよいまとめがあったので追加。
本書において、著者の飯田一史氏は「新しい文芸評論」のスタイルを生み出しつつあると僕は思いました。
それにしてもこのまとめ、オチがいいなあ。
 

飯田一史『ベストセラー・ライトノベルのしくみ  キャラクター小説の競争戦略』 | STUDIOVOICE

STUDIO VOICEのウェブ版で、ライターのさやわかさんが書評を掲載。
端的でわかりやすい内容です。
 

【広角レンズ】ライトノベルが熱い 女性、30代…広がる読者 – MSN産経ニュース

MSN産経新聞ニュースの記事です。最近のライトノベル市場の広がりについて。
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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コメント

  1. すこぶるおもしろいですね
    先日どっかでラノベはハリポタクラスにヒットできるかって記事ありましたが
    同じ意味で読ませます

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