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セザンヌの何がそんなに凄いの?『ユリイカ』セザンヌ特集

国立新美術館で開館5周年を記念した展覧会『セザンヌ パリとプロヴァンス』が開催されている。芸術評論誌『ユリイカ』は、「特集 セザンヌにはどう視えているか」と題して様々な角度からこの画家を追っている。
 
セザンヌは、ゴッホやピカソにも影響を与えたと言われる「近代絵画の父」。ユーロ導入前の最後の100フラン紙幣に肖像が印刷されるなど、フランスでは国民的画家と見做されている。
日本では印象派の絵画が人気だが、印象派と同時代人であり、実際に印象派の画家たちとも交流の深かったセザンヌも人気の画家だと言えるだろう。
 
ユリイカ 4
 
新美術館の展覧会では、成金富豪の令息として育てられたセザンヌの人生の歩みを追う構成になっている。写実主義や印象派といった同時代の美術の思潮や人脈と関わりあう中で、どのような葛藤を経験したのか。そしてゴッホやピカソといった後続の世代に与えた影響はどのようなものだったのか。こういったことを、パリやプロヴァンスなどの地理的な要素と絡めながら紹介していく。
 
これに対して、『ユリイカ』に掲載された評論はもっとずっと深く掘り下げていく。
冒頭には、松浦寿夫氏と林道郎氏という二人の美術史研究者による対談を収録。広範な美術史や思想史の中にセザンヌを位置付けながら、歴史にキレイに収まりきらないセザンヌの魅力や面白さがあるのではないか、と問い掛けてくる。
 
「甘ったるく商品化された女性像」を愚弄するためにセザンヌは女性を描いたのだと語る永井隆則氏の論考は図版多数で読んでいて楽しい。
また、セザンヌが初期にどうして暴行や殺害といった陰惨な主題をエロティックに描いたのかを問う荻野厚志氏の文章も興味深い。
 
松浦寿夫氏の論考「テーブル絵画論序説」は、絵画を見るときに抽象的に考えてしまう人には特にお薦めしたい。
超刺激的な視覚論を展開する平倉圭氏の論考も是非。本稿を読んでからセザンヌの作品を実見すると、それまでとはまったく異なった見え方に自分でも驚くに違いない。
美術家の池田剛介氏の論考も、読者のセザンヌ作品の見え方を決定的に変えてしまうだろう。「セザンヌが図らずも足を踏み入れているのは、……視覚と触覚とが連動することすらままならず、諸身体・諸知覚が統合性を失っていくプロセスである。しかし……統合的な主体からこぼれ落ちた諸身体は、絵画の中で独自の「連動」を遂げ始める」。
 
時代の転換期にあって、その激動を絵画作品に塗り込めた画家セザンヌ。ちなみに僕は本書を読むまで、セザンヌの何がそんなに凄いのかよくわかっていなかったのだけれど、お陰で何だかわかった気になってきた。セザンヌを楽しむためにこの特集号を持っておくのは得策だろう。
 
 
目次
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■人生に関する断章*4
  常用漢字表について / 中村稔
 
■詩
  こえ こえ / 佐藤雄一
 
■第17回中原中也賞発表(選考委員=荒川洋治・井坂洋子・北川透・佐々木幹郎・高橋源一郎・蜂飼耳)
  暁方ミセイ 『ウイルスちゃん』
  受賞詩集より――「世界葬」 「スーイサイド」 「不如帰」 「埋め火」 「鷺沼プール」
 
特集*セザンヌにはどう視えているか  
 
【Nature vivre!】
絵筆の一振り セザンヌとともに考えるために / 松浦寿夫×林道郎
 
【Eclogae】
セザンヌの絵の前で / 與謝野文子
庭師ヴァリエのいるテラス / 末永照和
セザンヌの描いた女性像 / 永井隆則
初期セザンヌの暴力とエロティシズム / 荻野厚志
 
【感覚の氾濫】
映るものと移ろうもの / 野見山暁治 [聞き手=編集部]
テーブル絵画論序説 / 松浦寿夫
多重周期構造 セザンヌのクラスター・ストローク / 平倉圭
セザンヌの中間地帯 / 池田剛介
具体的な抽象 セザンヌ主要作品解題 / 荒川徹
 
【Correspondances】
詩人リルケ渾身のセザンヌ接近 リルケ 『セザンヌ書簡』 / 神品芳夫
自然が与えるモデルニテ セザンヌとマラルメ / 熊谷謙介
天使と闘うクロード 『制作』 におけるゾラとセザンヌ / 福田美雪
 
【絶対の探求】
思考するイメージ、イメージする思考 セザンヌと解釈者たち / 岡田温司
描かれた知覚論 メルロ=ポンティのセザンヌ解釈 / 横山奈那
非‐感覚の論理 ジョン・リウォルドの理性 / 星野太
ジュールダンの小屋 / 荒川徹
 
【Etude】
セザンヌ・ヴァリアント 芸術はいかに鳴りうるか / 山口一郎(サカナクション) [聞き手=編集部]
記憶に依らず見ること / 鈴木理策
ジャコメッティの林檎 / 桑田光平
両手を組み合わせる仕草 ユイレとストローブの映画 『セザンヌ』 / 持田睦
 
■今月の作品
  貝又臣 野本篤美 尾久守侑 中山智之 / 選=小池昌代
 
■われ発見せり
  掃苔
ソウタイ
のことども / 阿部純
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【関連ページ】

2012-04-02 – 偽日記@はてな

画家の古谷利裕氏のブログ。
本書所収の平倉圭氏の文章を、「セザンヌを観るという経験の内実がたんに説明されるだけではなく、あるいは、そうそうセザンヌってそういう感じなんだよなあと納得させられるだけでなく、経験が分節されることでより精度の高い経験へと導かれるような分析なのだと思う。意識化されるということが納得(分かった気になる)に着地するのではなく、それより先へ行くための光として作用するような。」と絶賛。
「空間周波数」という用語について解説しているページへのリンクあり。参考になります。
 

2012-04-05 – 偽日記@はてな

2012-04-10 – 偽日記@はてな

上掲の「ユリイカ」セザンヌ特集の感想文が話題になった古谷利裕氏のブログから。
実際にセザンヌ展に足を運んだ際の感想です。
さすが画家!という観点からの、非常に精緻な分析と考察。特に「青」と「透明度」についての分析については、これも「読んでからセザンヌの絵を見ると、それまでとまったく見え方が変わる」という文章だと思います。
 

セザンヌーパリとプロヴァンス”Cezanne.Paris-Provence”|国立新美術館|

国立新美術館の開館5周年を記念した展覧会。
作品画像がたくさん見られて、セザンヌと交流のあった人びととの簡単なエピソードも豊富に掲載。
サイトを見るだけでちょっと勉強になります。
 
 
【関連記事】

言説、形象(ディスクール、フィギュール)

以前に当BOOKニュースで新刊として紹介した大著『言説、形象』にもセザンヌ論が登場する。
著者リオタールはこの本で、メルロ=ポンティのセザンヌ論を批判している。
セザンヌ論においてたびたび名前が挙がるこのメルロ=ポンティというフランスの哲学者と、アメリカ現代美術の理論的支柱となったグリーンバーグという批評家には同時代性があった。
(グリーンバーグの批判的後継者として活躍しているロザリンド・クラウスが、『言説、形象』をたびたび参照していることからも、このことの重要性は理解されるべきだろう。)
「思考するイメージ、イメージする思考」の岡田氏は、この同時代性から、大西洋を隔てた2つの大陸のあいだで、セザンヌとジャクソン・ポロックという2人の美術家を繋ぐ。この論考は非常に勉強になった。
なお、ポロックもいま国立近代美術館で大規模な展覧会が開催されている。
本書を片手に、セザンヌ展とポロック展をはしごするのも良いだろう。
 
 

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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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