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食事中の熟読は危険!!登場人物の9割が変態『変ゼミ』

TAGROというマンガ家を知っているかどうか。まずはそこから尋ねなくてはならない。知らない人には、次にこのマンガ家がいわゆるエロマンガ誌で活躍していた作家だということを説明する必要があるだろう。TAGROの名前を知っている人には、「変態についてどう思うか」を尋ねなくてはならない。
 
別に、そんな遠回りをしないでも変ゼミという作品を手にしてもらって一向に構わない。ランチタイムのおともに、ちょっとした気分転換に、可愛らしい表紙とポップなタイトルに油断して、本書を手にとっていただいても、僕はまったく気にしない。
ただし、まっとうな感性と思想を持つ人物ならば、これはまったくオススメできない代物だ。たとえば第六巻となる本作では、この表紙にも出てくる可愛らしくディフォルメされたキャラクターたちが「どうやって人食嗜好を楽しめるか」という話題で議論を続けている。僕はランチタイムにステーキを食べながら本書を読んだのだが……まあ、それはそれでなかなか楽しめた。
 

 
この絵を見て可愛いと思わない人もいるだろう。それはそれで感性に問題があるんじゃないかとも思うのだが、そう思う僕のほうがおかしいのかも知れない。こと、変態がテーマの本書を前にしていると、自分のセンスに自信が持てなくなってしまう。
歴代の表紙絵を比べてみて欲しい。どうだろう。可愛いと思うのだが。

 

      

 

      

うん、やっぱり可愛い。この可愛さがわからない人がおかしいのか、これの可愛さを疑えない僕が変態なのか、そこはまだわからないけれど。
 
そう、ともあれ、本書は「変態」がテーマなのだ(少なくとも表向きは)。
主人公でヒロインの松隆奈々子こそ、変態的な志向のない一般人として描かれてはいるが、登場人物の9割方が典型的な「変態」で占められている本作。モテモテなのに多彩な変態的志向を持つコムギ、美人でスタイルも良いが重度のマゾヒストの水越先輩、どうしようもない破滅願望と幼児性にとりつかれた田口、潔癖症で盗撮趣味のある市河といった「変態生理ゼミナール」の面々とともに、「実験」と称して様々な変態行為が試みられる。
本作の特徴は、それらの変態行為がとりあえず「大学の研究」の名目で行われるため、登場人物たちによってたびたび分析の俎上にのせられるというところだろう。しかしTAGROという稀有なストーリーテラーの手にかかると、この変態行為の分析が、普遍的な人間関係の複雑な闇に繋がってきてしまう。
このあたりは、ライトノベルできみとぼくの壊れた世界などを描いた西尾維新とも共通する(ちなみにこの「世界」シリーズでTAGROはイラストを担当した)。典型的な性格を誇張するあまりに極端なキャラクターになってしまった登場人物たちによる、エキセントリックな世界。
 
TAGROは、一世を風靡したエロマンガ誌「コミック快楽天」に『変態生理ゼミナール』を連載していた。本作『変ゼミ』は、この『変態生理ゼミナール』のリメイクなのだ。当時はまだインターネットが現代ほど普及しておらず、「変態」といっても昨今ほどの多様化・陳腐化をこうむっていないものばかりだった。どこかしら高尚なものという誤解や誇張も多々あった(『変ゼミ』作中で、ゼミの教授である飯野がこの傾向を戯画化した存在だといえるだろう)。TAGROもまた、得てしてそういった変態的なものの自己満足的な閉鎖性を称揚しているという非難を受けることがある。しかし本作を読めばわかるとおり、TAGROはむしろそういった変態たちを客観的に描くなかで、いわゆる叙情的な表現を追究しているのだ。
それは、容易にセンチメンタリズムに流れることもできず、かと言ってありきたりなニヒリズムにも堕すことができない作者ならではの独自の道だ。作者は変態たちを嘲笑うでもなく、かといって過度に感情移入することもなく、優しく描く。
 
なお、「変態」とは、元来は生物学の用語で「メタモルフォーゼ」と呼ばれる現象を指す。ここに偏愛的な関心を抱いていたのが、医学博士でもあった「漫画の神様」手塚治虫だ。TAGROの描くキャラクター造形は、手塚治虫のような可愛らしさと生々しさが共存している。まったく似ていないのだが、共通点がある、というべきだろうか。残念ながらTAGROは手塚治虫のような多作家とは違って、作品数がとても少ないのだが、『変ゼミ』に興味を持たれた読者には、以下の作品をオススメしたい。

マフィアとルアー

宇宙賃貸サルガッ荘

A LOT OF

 

      

 

 
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当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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