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ゾンビ流行が浮き彫りにする現実『ウォーキング・デッド』2巻

ゾンビという単語にもう食傷気味だという諸賢に告ぐ。
 
「俺たちが、生きた屍(ウォーキング・デッド)なんだ。」
 
これは先日、待望の邦訳第二巻が刊行されたウォーキング・デッドで、主人公がくちにする痛切な一言。しかし、「自分自身がゾンビなんだ」というこの発言にすら、なんとなく飽き飽きしていることはないだろうか。
 
現代ゾンビの太祖である映画監督ジョージ・ロメロ氏が指摘するように、ゾンビとは現代消費社会を生きる人々のメタファーだ。「自分で考えている」つもりの人間が、傍から見ると愚かしい欲望に突き動かされ、支離滅裂に彷徨っているだけに思われる。人間は、消費社会のメカニズムに欲望を掻き立てられ、人間らしい行動よりも、まるで互いの肉を貪り食うようなおぞましい行為に手を染めていく。他人を出しぬいて自分だけ得をするような仕組み、苦しむ人の存在を見て見ぬふりをして保つ生活の安定、何も考えないでそんな世の中で耽る娯楽。もう気がついている。自分自身がゾンビなんだ。
……だが、ゾンビは互いを喰らうということはない。ゾンビは人に襲いかかるが、ゾンビどうしで殺し合いはしない。共食いをしているのは、人間のほうなのだ。なんというメタファーだろうか。ロメロの映画『ゾンビ』に代表されるゾンビ映画では、本当は人間の恐ろしさのほうが描かれている。ゾンビとは、人間の共食い性を強調するための触媒でしかない。
 

 
 
『ウォーキング・デッド』では、ゾンビは完全に環境のいち要因に過ぎない。
見慣れた現実から、強調したい要素を浮き彫りにするために、余計な部分を叩き落すための道具のようなものだ。
 
「人間の共食い性」?人間が共食いをするなんて信じられない?そんな平和な信念を持っている人は是非本書を読んでみて欲しい。極限状態に追い詰められた恐慌から、あるいは、不幸な成り行きのすれ違いから、果ては、常人の理解を超えた突発的な悪意による強制から、無害な人間が他人を陥れ、その食い扶持を掠め取る。
 
善人として描かれていた人たちが不可抗力によって非人道的な行いに走るとき、読者が感じる苦しみは、何のためのものなのだろうか。何故に、こんな苦しい思いをしながら、腐臭に満ちた世界を覗き見なければならないのか。何故に、そうしたいと思ってしまうのか。
 
本書の著者ロバート・カークマンは、マーベルゾンビーズで、「実際のアメリカン・コミックスのヒーローたちがゾンビになって互いを貪り合う(さらに宇宙に飛び出して別の惑星に襲いかかる)」という、頭が腐っているとしか思えない凄惨な世界を描いた。

 
人間性の暗部を見つめる『ウォーキング・デッド』とは打って変わり、「ひどいひどいwwww」と笑いながら読める方向の『マーベルゾンビーズ』。ひとりの作家がここまで振れ幅の広いゾンビ作品を生み出せるということに、ゾンビものの可能性の大きさを思わずにはいられない。
 
昨今のゾンビものの流行の原因は、物語が作りやすいから、とか、社会不安が大きくなりすぎたためにもっと凄惨な世界を見て安心したくなったから、といった説がある。
 
……ゾンビについてこの際だから徹底的に考えようと思っていたのだが、正直つかれてきた。
 
正直ついでに言えば、ゾンビものに共感するのは、「つかれ」だ。眠気や忘却、不注意などによる突発的な破綻、そういったものの雪崩のような来襲、その恐怖に共感するんだ。人間ドラマや笑いや突拍子もないパロディなんて、肉体の崩壊や社会性の崩壊への共感を盛り上げるためのスパイスでしかない。人間ドラマや笑いや変な設定にフォーカスされるとゾンビ熱は萎える。
かつてThe虎舞竜は「なんでもないようなことが、幸せだったと思う」と切々と歌った。それはそれで共感できる。でもゾンビものを読んでいて思うのは、「なんでもないようなこと」の持つ、思いも寄らない破壊力だ。意外なことで崩壊してしまう脆さを、日常が抱えているという事実。「意外なこと」というか、それは本当は意外でもなんでもない。意識しにくいくらい些細な、小さな弱さだ。戦って打ち倒さなければならない強大な敵の強さではない。自らの、あるいは隣人にある、ちょっとした弱さだ。何故かゾンビものはその「小さな弱さ」を鮮やかに浮き彫りにする。
 
現代、様々な物語コンテンツやドキュメンタリーの技術のノウハウが蓄積されるに至り、その「小さな弱さ」が可視化されてきている。まだ誰もそれをどうしたらいいのかわからない。昨今のゾンビ人気の背景にあるのは、ともかくただその「小さな弱さ」を見つめたいという欲求なのではないだろうか。
 
【関連ページ】

どんだけあるんだゾンビゲー! | アプリ★ゲット|Androidレビュー&ニュース

ゾンビ関連のゲームを集めて紹介したページ。
しかし本当に多いな…しかもそれぞれどれも面白そう…
 

2012-04-23 – メモリの藻屑 、記憶領域のゴミ

いつも楽しく拝読しているブログ「メモリの藻屑、記憶領域のゴミ」さんで『ウォーキング・デッド』マーベルゾンビーズのレビューが掲載されていました。
いわく「『ウォーキング・デッド』は、人類史をもう一度1からやり直さなければならなくなった人間たちの物語でもある」。確かに。
いわく「ページを繰るごとにどんどんグチャグチャになってゆくヒーローの哀れな姿に爆笑必至」。確かに。
 

The Walking Dead: The Game 批評 (EP1,2)、物語に参加している臨場感は出ている ≪ GAME LIFE

「本作における真の脅威はゾンビというよりも腹の底が見えない他人であり、対ゾンビよりも対人間に焦点が当てられたストーリーは、ゾンビ物が氾濫するゲーム業界でも十分な鮮度を保っていると言ってよい。」
…これはやってみたいなあ…
 
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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