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教科書にも載っている無政府主義者『大杉栄 KAWADE道の手帖』

河出書房新社のムック『KAWADE 道の手帖』シリーズの最新号は大杉栄。サブタイトルは「日本で最も自由だった男」。
 
大杉栄は、大正期に活躍した運動家で、高校の社会の授業で使う教科書にも載っている無政府主義者として知られている。無政府主義者といえばまだ聞こえはいいが、彼の名を有名にしているのは三人の女性と繰り広げた四角関係のスキャンダルと、関東大震災のときにリンチにあって虐殺されたというふたつの事件である。
 
さらに大杉栄は、その名前よりもその文章で知られている。「美は乱調にあり」。整然とした階調は死んでいる、調子が乱れるところにこそ美はあるのだ。とする、この刺激的で挑発的できわめて自由で、非常にシンプルな一節は、時代を超えて現代の僕たちに訴えかけてくるものがある。
 

 
本書は、アナーキー・イン・ザ・JPで大杉栄の幽霊に憑依されるパンクロッカーを描いて小説家デビューした、評論家の中森明夫を筆頭に豪華な執筆陣による対談やエッセイを収録し、大杉栄自身の文章も掲載している。
社会運動史上もっとも魅力的な男と言われる大杉栄の姿に触れることができる。戦前の社会思想に興味がある人ならば、最初に手にとる本として最適だろう。
 
中森氏が、ルポライターの鎌田慧氏との対談で語っているとおり、大杉の生き様はそのまま映画やテレビ番組にしたらいかにもヒットしそうな波乱万丈に満ちている。その文字通りアナーキーなエピソードだけでも面白い。
 
三十代半ばを前に脱サラし、大杉栄の本が売れると見込んで出版社を始めた土曜社の豊田剛氏のエッセイが面白かった。
 
そして、思想に関心のある読者に薦めたいのは、星野太氏による「崇高なる共同体 大杉栄の「生の哲学」とフランス生命主義」という論考。フランスのベルクソンに代表される「生の哲学」という、日本でも流行した思想の潮流を、大杉栄がどのように理解し、自らの無政府主義思想に結びつけていったのかがわかりやすく解説されている。
 
星野氏は、ありがちで稚拙な本能中心主義として大杉栄が読まれうることを、一部認める。大杉は、本能的なものを尊重し、社会的なものを破壊しようとする。自由恋愛を唱え、スキャンダラスな性を謳歌した姿は、この側面を表しているといっていいだろう。
しかし星野氏は、大杉が「本能は盲目だ」と認めている文献を紹介し、「知性による本能の止揚」を彼が認めていることに注意を促す。個人主義と社会運動という、原理的に矛盾を孕んだふたつの方向性を、どう調停し、どう運営していくのか。言語表現に卓越した才能をもった大杉が、百年前に考え自ら実践したことを追跡することは、現代に生きる者にとっても意義がある。それだからこそ、何度も大杉栄の文章が顧みられるのだろう。
 
目次
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【大杉栄の言葉】
 
【特別対談】
鎌田慧×中森明夫  今こそ大杉の精神を想起せよ
 
【ロング・インタビュー】
大杉豊 大杉栄はいつも、人間本来のあり方を提起する
加藤登紀子 誰からも支配されない自由を希求するために
 
【エッセイ】
雨宮処凛  恋と革命に生きるのさ
ECD さようなら大杉栄
角岡伸彦 半ば同感、半ば反感
佐野眞一 主役を食うバイプレイヤー
鈴木邦男 大杉が見た自由な空
瀬戸内寂聴 大杉栄と自由恋愛
豊田剛(土曜社) 大杉栄のずるい本屋
宮崎学 大杉栄ならどうしただろうか?
 
【論考】
宇波彰 大杉栄とベルクソン
倉数茂 「物語」への権利
武田徹 大杉に寝取られた男の素顔
星野太 崇高なる共同体
 
【大杉栄の記憶】
伊藤野枝 夫婦生活
内田魯庵 最後の大杉
清沢洌 甘粕と大杉の対話
中浜哲 杉よ! 眼の男よ!
 
【大杉栄アンソロジー】
労働運動の精神/自我の棄脱/生の拡充/思索人
政府の道具ども/奴隷根性論/鎖工場/奴隷と町奴
 
【大杉栄主著解題】 文・栗原康
【大杉栄略年譜】 編・大杉豊
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【関連書籍】

吉田健一 生誕100年 最後の文士 (KAWADE道の手帖)


今回の大杉栄の前回は、大久保利通の曾孫で総理大臣吉田茂の息子で、元首相麻生太郎の伯父にあたる文学者・吉田健一を特集。
金井美恵子×丹生谷貴志の対談など、これもまた錚々たる執筆陣。
 

高祖岩三郎『新しいアナキズムの系譜学


大杉栄の魅力に触れたなら、現代のアナキズム思想の広がりや深まりを知りたくなる。
アナキスト地理学、群島的世界、戦術の多様性など、めくるめく無数のアイデアや実線を網羅している本書を読んでみよう。
 
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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