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萩尾望都の初の対談集。手塚治虫、松本零士、寺山修司、小松左京…

「少女漫画を代表する知性」というとご本人に叱られてしまいそうですが、萩尾望都氏ほど、この呼称の似あう存在は他にいません。
 
そんな萩尾氏の初の対談集マンガのあなた SFのわたし 萩尾望都・対談集 1970年代編が刊行されました。対談相手は手塚治虫氏、松本零士氏、寺山修司氏、小松左京氏という錚々たる面子(特別対談として『ハチミツとクローバー』『3月のライオン』の著者・羽海野チカ氏との対談も収録)。
繊細な情景描写、酷薄なほどの人物造形、胸に迫る物語など、唯一無二の世界観で今でも多くのファンを持つ萩尾氏。実はSFファンでありSF作品も多く手掛けていることはあまり知られていません。戦後マンガの巨人・手塚治虫氏もまた大のSF愛好家でした。本書は萩尾ファンやSFファンだけでなく、戦後のマンガを担っていた作家たちのあいだで、どのようにSFが受容されていたのかを手軽に知ることのできる格好の資料でもあります。
 

 
目次
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●第1章 手塚治虫   「SFマンガについて語ろう」
●第2章 水野英子   「私たちって変わり者かしら」
●第3章 石ノ森章太郎 「SFの話は延々尽きない」
●第4章 美内すずえ  「親愛なるモー様へ」
●第5章 寺山修司   「月で修学旅行の案内係」
●第6章 小松左京   「絵の理想型とは?」
●第7章 手塚治虫+松本零士 「マンガ、SF、アニメーション」
●第8章 羽海野チカ  「全部、萩尾作品から学びました」
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残酷な神が支配するトーマの心臓バルバラ異界そして11人いる!の作者として知られる萩尾氏。
その萩尾氏が70年代に手掛けたのが、SF作家の光瀬龍氏の小説を原作とする百億の昼と千億の夜。「神」をテーマにギリシャの哲学者プラトンやイエス・キリストから、古今東西の神話的存在までが登場する、壮大なスケールの物語です。「週刊少年チャンピオン」に連載された、萩尾氏初の少年漫画。
この作品に着手する直前に行われた手塚氏との対談で、手塚氏はSFでたびたび議論を呼んでいた「女性の書き手が少ない」というジェンダー・性差の問題を取り上げるのですが、当時の萩尾氏は緊張のためかその問いを正面から受け止められません。このやりとりの生々しいこと。
のちにサディスティックな男性に虐げられる女性や少年の苦しみを明晰に描くことになる萩尾氏に、こういった質問を向ける手塚氏の慧眼に驚くべきなのでしょうか。それとも、手塚氏の作品が自分のマンガを書き始めるきっかけになったと認めている萩尾氏が、このときの手塚氏の指摘を思い返して思考を深めていったと考えることもできるのではないでしょうか。
ロリコンや萌えの元祖として再評価される手塚氏(なお本書に収録されているピノコの外出着のバリエーションは眼福です)が、自らの描くキャラクターには「子供の色気しかない」と評し、萩尾氏の描く男性キャラクターの魅力に言及するところはこの対談の白眉だと思います。

(手塚氏が少年チャンピオンに連載していた『ブラック・ジャック』。
 ピノコかわいいよピノコ。)
 
萩尾氏の代表作のひとつとして知られる『ポーの一族』は吸血鬼をテーマにした作品。これは石ノ森章太郎氏の「きりとばらとほしと」から構想を思いついたと言われています。小学生のころから愛読しているという石ノ森氏との対談は、打ち解けた師弟のようにフランクな雰囲気。
ベストセラーになったマンガ家入門の著者でもある石ノ森氏との画面の使い方をめぐるやりとりは、短いながら興味深い内容でした。

(驚異的なまでの構成美に、ページを繰るたびに唸らされる『佐武と市捕物控』。
 アニメも渋くてかっこよかった。)
 
詩人・歌人・劇作家・映像作家・思想家と多様な顔を持つ鬼才・寺山修司との対談も見逃せません。「100匹のカタツムリをもらったら?」「湯上りの体に這いまわらせたりしない?」という寺山氏のセクハラ的な質問に対しては「庭に掘った穴に落としてオイルで焼きます」と冷静な回答。性的に過激な表現でも知られていた寺山氏が、同性愛的な萩尾氏の作品の描写にこだわるところなども読みどころです。

(寺山修司氏といえばこのフレーズ「書を捨てよ町へ出よう」。
 このフレーズを冠したエッセイ集。)
 
また筒井康隆と並ぶ日本SF文学界を代表するビッグネーム小松左京氏とも対談。しかし対談の内容はSFをめぐるものよりも、小松氏が萩尾氏に質問するかたちで、少女漫画における服飾表現の変遷を辿る流れになっていきます。これはこれでとても勉強になりました。

(対談のなかで出てくるファッション関連の短編「ママレードちゃん」を収録した一冊)
 
【関連ページ】

【萩尾望都 『マンガのあなた SFのわたし』出版記念トークショー】レポート前半: simauma

【萩尾望都 『マンガのあなた SFのわたし』出版記念トークショー】レポート後半 : simauma

本書のなかでも対談をしている、トキワ荘の紅一点だった水野英子氏とのトークショーのレポート。
「水野先生がデビューした当時のマンガ誌は現在のコマ割のものではなく絵物語が主流だった」とか「ビジュアルなものは悪いという傾向自体が日本には古来からある」とか、
興味深い話題が満載で凄くありがたい。そしてやっぱり服の話になるんですね。まんがファッションを思い出しました。

 
 
【関連書籍】

わたなべまさこ『ガラスの城


「少女漫画の神様」とすら呼ばれる萩尾望都をして、「いちばんオーソドックスで読みやすい少女漫画」と表するわたなべまさこ氏。自伝まんがと生きても必読です(版元の双葉社のサイトで立ち読みができます)。
 

名香智子『ファンション・ファデ


対談中にも名前が出てくる名香智子氏。萩尾氏とは作風が正反対くらい違うと思うのですが、プライヴェートでは仲良しなようです。『ファンション・ファデ』は『ママレードちゃん』のように、ファッションをテーマにした作品。少年漫画のバトルもののように、少女漫画のファッションものはある意味で定番ですね。
 

水野英子『ガラスの城


手塚治虫、藤子不二雄、赤塚不二夫らが住んだことで有名なトキワ荘の住人のなかで紅一点だった水野英子氏も萩尾氏に大きな影響を与えました。
 

萩尾望都『音楽の在りて


ちょうどこの対談が行われていた時期に執筆された小説が、昨年待望の書籍化を果たしたもの。
手塚治虫や松本零士に絶賛された「ヘルマロッド殺し」などを収録。
 

榎本ナリコ『時間の歩き方


1967年生まれの女性作家による軽快なSF作品。野火ノビタ名義で評論活動も行なっており大人は判ってくれない 野火ノビタ批評集成は2003年度のセンスオブジェンダー賞特別賞を受賞。
 

阿仁谷ユイジ『時間の歩き方


「男性が絶滅した未来」という、よしながふみ大奥を未来に置き換えたような設定。
女性同士の恋愛が当たり前になった世界で、モンスターとして描かれる男性主人公の姿が痛ましい。これからの展開が楽しみな作品です。
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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