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隣国の姿をとらえ直す。「atプラス 特集:帝国としての中国」

隣国であり、文化的には長い間強烈で根深い影響をもたらしてきた中国。日本は第二次大戦後、占領国だったアメリカの影響のほうが強いように思われますが、これから中国が発展していくかも知れないことを考えると、新しい考え方で中国を捉え直す必要があるのかも知れません。
 
先日発売された雑誌「atプラス」の特集は帝国としての中国
思想と活動、をテーマに編集されているこの雑誌は、以前から刺激的な特集をたくさん組んできましたが、今回は中国化する日本で各界の絶賛を受けている若手研究者の與那覇潤氏と評論家の大塚英志氏の対談などを掲載。
 
この特集も興味深いのですが、ダブルヘッダーともいうべきビッグネームの対談も巻頭に収録。こちらも見逃せません。暇と退屈の倫理学で昨年の紀伊國屋じんぶん大賞―読者がえらぶ人文書ベストブック第1位を受賞した國分功一郎氏(ちなみに先述の『中国化する日本』は同賞の第4位)と、グリーンアクティブという団体を宮台真司氏やいとうせいこう氏らと立ち上げた文化人類学者の中沢新一氏による対談です。「〈原子力の時代>から先史の哲学へ」と題されたこの対談は、「学生の頃からずっといろいろ勉強させてもらった」という國分氏が中沢氏に「全力で向かった」と語る充実の内容。
 

 
國分氏と中沢氏による対談は、考古学的な古代から現在の原子力問題まで話題にする壮大なスケールで、國分氏は「消費と浪費の違い」、中沢氏は「贈与」の問題について語っています。博覧強記な中沢氏と、様々な思想家の主張を自由に結びつけていく國分氏による、スピーディな話題の展開が読んでいて爽快。
 
特集「帝国としての中国」は、世界史の構造の柄谷行人氏による「〈世界史の構造>のなかの中国」。世界や帝国そして中国のような超巨大な社会構造を、きわめて抽象度の高い議論で整理していきます。
『世界史の構造』で経済の土台を支える構造として柄谷氏は、4種類の「交換形式」を提唱しました。
A:贈与と返礼
B:服従と安堵
C:貨幣と商品
D:X=「A:贈与と返礼」の高次元の解決
 
この4種類(特にAからCまでの3つ)の形式のいずれかに重きを置きながら社会構造が変動していく、と柄谷氏は述べます。中国の歴史についても同様です。
秦の始皇帝によって始められた中国の帝国は、先行する春秋戦国時代の群雄割拠を平定し、厳格な法治国家による「服従と安堵」を重視する社会構造を採用しました。しかし、それだけでは国家を維持することができず、秦は始皇帝の死後すぐに崩壊します。
その後、清朝において完成する中国帝国の統治政策は、いっけん「服従と安堵」の形式に基づくように見えながら、実質は周辺諸国との「贈与と返礼」形式(冊封や朝貢)による外交が採用されることで帝国の平和が維持されていました。
19世紀の西洋を中心とした世界経済に、この中国帝国が晒されるようになった状況において、「服従と安堵」「贈与と返礼」の形式が、西洋的な「貨幣と商品の形式と対立することになったのです。この対立のなかで、中華人民共和国を成立させた毛沢東が、法治国家という側面と少数民族に対する政策、つまり中国帝国の政治的伝統を引き継いだということを柄谷氏は指摘します。
「中国」は社会組織としてあまりにも巨大すぎるので、どう認識していいのか思わず困惑してしまいますが、このようにすっきりとまとめてくれているので、グローバルな社会構造の比較や変遷を鮮やかに捉え直すことができます。
 
続く與那覇潤氏と大塚英志氏の対談では、まず與那覇氏自身による自著『中国化する日本』の解説、そして與那覇氏の持論「中国化:再江戸化」と大塚氏の主要な関心である日本の近代化(西洋文明の受容の際の緊張)が突き合わされ、議論が展開されていきます。
與那覇氏のいう「中国化」とはいわば「元祖グローバル化」。まずは19世紀以降の西洋中心の世界観におけるグローバル化ではなく、それ以前に世界中の他国を圧倒する大国であった中国の文化の影響についての再認識を促します。中国の文化に特徴的なのは、「封建的な集団が解体されて個々人がバラバラになっていくと同時に、政治や思想が強力に集権化する」というもの。
大塚氏が宮台真司氏とともに近著愚民社会で指摘した、「日本が近代化してこなかった」という主張に対して、「日本は中国化している」と與那覇氏はコメントします。
「中国化」に対して日本が抵抗するときに持ち出される「再江戸化」とは、「明快な思想を掲げず、中間団体の連合体で社会秩序を維持し、一極集中的な独裁者を生み出さない」という方向性。「中国化」と「再江戸化」という2極のあいだを揺れ動くものとして日本の社会や思想を捉える與那覇氏の語りはきわめてわかりやすいです。
 
そして、明治期日本の近代化に多大な貢献をした民俗学者・柳田國男の弟子である大塚が、柳田を與那覇氏の考え方で読むと面白い、と発言。「中国化」でも「再江戸化」でもない方向を柳田は目指していたと考える大塚氏と與那覇氏による対話は、近代のアメリカから映画『ソーシャル・ネットワーク』のマーク・ザッカーバーグ、そして江戸時代の天皇制など、多岐に渡る話題をめぐり、アジアの文化産業にまで発展していきます。
大塚氏による「アジアのポップカルチャーは日本形式の普遍化の実用例として成立している。韓流ドラマやK-POPなんてその典型なのに、日本文化が侵略されるって騒ぐ。日本型普遍性の文体によるアジアでひとつの大きなマーケットを育てりゃいいのに」という発言は、個人的に深く頷かされました。

 
続いて安富歩氏による「ユーロ危機と通貨の階層性 中華帝国の貨幣史を踏まえて考える」は、「満州国」の金融』『貨幣の複雑性 生成と崩壊の理論』『複雑さを生きる やわらかな制御』『「満州」の成立 森林の消尽と近代空間の形成の著者が、中国の貨幣史を紹介しながら、現代のユーロ危機を回避するための具体的な方策を検討するもの。勉強になります。
 
目次
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【特別対談】
・中沢新一+國分功一郎
〈原子力の時代〉から先史の哲学へ――グリーンアクティブと新たなエコロジー運動
 
【特集】帝国としての中国
・柄谷行人 〈世界史の構造〉のなかの中国――帝国主義と帝国
・大塚英志+與那覇潤
中国化する日本/近代化できない日本――愚民と結社
・安冨歩 ユーロ危機と通貨の階層性――中華帝国の貨幣史を踏まえて考える
・丸川哲史 現代中国の空間編成――毛沢東の遺産
 
【特別インタビュー】
・水野和夫 「歴史における危機」とは何か――9.11、9.15、3.11をつらぬくもの
 
【特別寄稿】
・古市憲寿 二〇一二年のコミューンたち――ダウンシフターズに関するノート
・加藤好一 若き岩根邦雄と生活クラブの「夢の時代」――岩根邦雄著『生活クラブという生き方』刊行によせて
 
【新連載】
・大竹弘二 公開性の根源 第1回 主権vs統治
 
【連載】
・大澤真幸 可能なる革命 第5回 未来は幽霊のように?
・園良太 我は如何にして活動家となりし乎 第9回 恐怖や不安感を超えた持続的な運動を
・橋爪大三郎 Review of the Previous Issue 「資本主義は終焉」しない
・鈴木一誌 デザイン覚書26 アイディアを生み出す道具
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巻頭の対談や特集以外にも興味深いコンテンツが満載。
新連載として今号から開始される大竹弘二氏の「公開性の根源 主権VS.統治」は非常に刺激的です。
 
大竹氏は、「民主主義は世論を反映して簡単にうつろってしまう」として不信や諦めが囁かれる現代に、「神聖な無限の政治的主権」とそれを行使しきれない「有限な統治能力」に引き裂かれた中世の君主の憂鬱と同じ構造を見出します。
その「悲劇的な構造」から解放されるためには、君主の側に仕えていた道化や、宮廷で権謀術数を弄した策士たち、そこにあった公開されない機密(「アルカナ」)を、「公開性の根源」として捉え直すことが必要。その捉え直しに向けて、まずは見取り図を用意しようというのが今回の論考。
評論家の東浩紀氏の最新刊一般意志2.0や、その東氏も帯にコメントを寄せた若手論者たちの論集「統治」を創造する、そして映像研究者としても知られる北野圭介氏による制御と社会―欲望と権力のテクノロジーにも通じるテーマ。これからの展開が非常に楽しみです。

 
【関連記事】

ロドルフ・ガシェ『いまだない世界を求めて

巻頭対談で國分功一郎氏が参照するハイデガーによる芸術論を扱った論考を含む論集。
著者のガシェが師事したデリダの『マルクスの息子たち』は國分氏が翻訳を手掛けています。
 

東京堂書店フリーペーパー『三階』最新号、真理についての哲学的メモ

大竹氏の連載でも話題になっていたアガンベン王国と栄光 オイコノミアと統治の神学的系譜学のためにに言及。
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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