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現代SFの最先端!むせかえる官能と悪趣味の世界『第六ポンプ』

映画ブレードランナーがかっこよかったのは、アジア的な熱気を帯びた近未来都市を描いたからでした。その熱気は、そこに生きる人々や人ならざる者たちの生命活動の痕跡として、様々な汚れを強調することで描かれていました。バチガルピの作品にも、その魅力が引き継がれているといっていいでしょう。
 
いまSF作家のなかで最も注目されている一人であるパオロ・バチガルピは、昨年文庫が刊行されたねじまき少女で、長編デビュー作にしてネビュラ賞・ヒューゴ賞・ローカス賞・キャンペル記念賞という名だたるSF賞を総ナメにしました。今回、文庫にまとめられた第六ポンプは、本邦初訳となるバチガルピのデビュー作から『ねじまき少女』直前までの短編10作品を収録したもの。たっぷり二段組みで400ページ。ビニールカバー付きで重量感があります。
巻頭の「ポケットのなかの法<ダルマ>」は、デビュー作とは思えない密度のある作品。バチガルピらしいジメジメとした空気感、国際的な政治的・経済的対立の気配、都市文化のなかで死や危険と隣り合わせに生きていく地方出身の弱者の姿が描きこまれています。
 
第六ポンプ
 
バチガルピは「環境問題を扱うSF作家」として知られており、確かに『ねじまき少女』では地球温暖化による海面水位の上昇によってバンコクが浸水するかも知れないという緊張が重要なモチーフになっていました。
しかし、バチガルピの本領は、本作を読むとむしろJ・G・バラードのような現代的なオリエンタリズムとグローバリズム描写のほうにあるのではないかと思われます。バチガルピは技術的な限界が到来する時代を想像することで、来るべき未来の世界を描き出すことに長けているのでしょう。
 

ねじまき少女 上   ねじまき少女 下

本書には、『ねじまき少女』と世界観を共有する「カロリーマン」「イエローカードマン」も収録されています。石油資源が枯渇し、バイオテクノロジー企業が政治経済を牛耳っている世界。
「カロリーマン」の「カロリー」は生物が活動するためのエネルギーの単位で、「イエローカードマン」の「イエローカード」とは強制送還ギリギリの難民であることを指しています。このことからも、この世界が単なる虚構ではなく、エネルギー産業による世界支配や難民問題など、現実と地続きの問題を描いていることがわかるでしょう。
 
華竜の宮
なお、日本SF大賞を先日受賞した華竜の宮の上田早夕里氏は本書の帯で「壊れゆく世界の片隅で、激しい渇望と欲望を胸に彼らは生き続ける。その姿に未了される」と書いています。
上田氏は、新しい価値観の創出と、その創出に費やされる熱い情念、「読む者の胸を切り裂くような切なさ、苦さ、許容されないことを登場人物自身が強烈に自覚しているがゆえの荒涼たる感傷、なども同時に生まれてくる」という『ねじまき少女』のノワール小説的な側面を高く評価していました。

 
『ねじまき少女』のときは控えめでしたが、エロティックな描写が非常に巧いことも今回の短篇集で痛感します。ステージの上で、楽器に改造された身体を互いに抱擁し愛撫するように演奏しあう姉妹を描いた「フルーテッド・ガール」の物哀しく背徳的な魅力はかなり独特。Bjorkの有名なPVを思い出しました。
 

 
 
 
【関連記事】

切なくて複雑な世界に飛び出そう - 本が好き! Book ニュース

昨年、『ねじまき少女』刊行直後に書いた記事です。
関連書籍や他のSF作品についても紹介しています。

 
 
【関連ページ】

食の終焉―グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機- BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

バチガルピが描く未来もそう遠くないような気持ちになるノンフィクションの書評。
 

404 Blog Not Found:『「スチームレス・パンク」 – 書評 – ねじまき少女

小飼弾氏による『ねじまき少女』の書評。
「まさに21世紀の世界小説という感があるが、その結末もまた21世紀的。」
とのこと。
 

パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』感想について、上田早夕里先生によるtweet、リツイートを中心にまとめ。- Togetter

バイオテクノロジー発展の末、人類が環境をも操作できるようになるという未来を描いた『華竜の宮』作者による、バチガルピ評。および読者たちの感想や反応をまとめたもの。
 

『第六ポンプ』(パオロ・バチガルピ)、『明日も明日もその明日も』(カート・ヴォネガット):馬場秀和ブログ:So-netブログ

本書の表題作邦訳初出時の書評。
「悪夢のような社会状況はぞっとするほどリアルで生々しく感じられます」「少しずつ着実に脳に汚染毒が回って世代を経るごとに劣化してゆく人類という、本作の設定にはかなり嫌なインパクトがあります」
 

2050年、娼婦はロボットだけになる? ≪ WIRED.jp 世界最強の「テクノ」ジャーナリズム

バチガルピ『ねじまき少女』に言及している興味深い記事があったので追加。
 
 
【関連書籍】

僕の妹は漢字が読める
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人類は衰退しました
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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