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二百年前にネットがあった!『ヴィクトリア朝時代のインターネット』

「インターネットに詳しい」というと、どうも怪しい人に見られる気がします。どこか浮世離れした印象を受けるからかも知れません。かのスティーブ・ジョブズもヒッピーカルチャーの影響を強く受けた人でした。そんな文化系インターネット知識人たちのあいだで待望されていた書籍の邦訳が昨年末刊行されました。
 
ヴィクトリア朝時代のインターネット。「テレビもコンピュータもなかった時代、200年前にすでにインターネットがあった!」という、これだけ読むとだいぶトンデモない珍説のような内容です。しかしこれが、インターネットの創始者のひとりで「インターネットの父」とも呼ばれるヴィント・サーフ氏に絶賛され、IT系の技術書で超有名なティム・オライリー氏がオススメの本として言及し、また昨年ジュンク堂池袋店で開かれたトークイベント「新春座談会 このコンピュータ書がすごい! 2012年版」でもとりあげられるほど評価されているのです。
 

 
 
本書は、19世紀に電信(電報)が発明され、世界中にネットワークが広がったこと、それによって情報伝達がかつてなく広い範囲で、かつてなく速く可能になったことを紹介する一冊。
 
本書の著者トム・スタンデージは、イギリスのジャーナリスト。研究者によるお固い論文というよりは、雑誌や新聞の科学コラムのような気楽さで読める文体、翻訳も元朝日新聞の科学部記者だった服部桂氏が担当しています。スタンデージ氏には以前に世界を変えた6つの飲み物 – ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史という著書が邦訳されていて、こちらも面白そう。同氏の著書はやはり服部氏による翻訳でもう1冊謎のチェス指し人形「ターク」が同時に刊行されています。これも非常に評価が高いです。
 
本書は、読み方次第で様々な内容が注目されると思います。
まずインターネットが普及した現代の状況の「祖型」として、200年前の状況を見る側面。著者はかなり意識的にこの側面を強調していて、ジャーナリスティックにはこの切り口がいちばん面白いかも知れません。「インターネットが社会に与えたのと同じことが200年前にすでに発生していた」と著者は主張します。
新しい技術に対して「警鐘」を鳴らす新聞、略語文化の発生、暗号技術の発達、ハッカーの登場、ネットを介した恋愛と結婚、そしてコミュニケーションの高速化によって世界平和が一気に可能になると予言する楽天家たち。確かにこれはここ数十年で繰り返されていることと酷似していると言えるでしょう。
 
もちろん、200年前に起きていた出来事を伝記的に追う側面でも読むことができます。「モールス信号」にその名を残すモールスたちの発明物語、電信(電報)のための海底横断ケーブルの敷設によってヨーロッパとアメリカ・アフリカ・インド・中国・日本が繋がれたときのエピソード、この時代に生じたビジネスや戦争・外交の文字通り画期的な加速。また、これらの輝かしい実績が成立するまでに同時代人が演じたドタバタなど。かつてない速度、かつてない規模での情報化によって何がもたらされたのかを知ることができます。
 
そして、この圧倒的な変化が現代文化にどのような影響を与えたのかを知る、文化史としての側面。電気の歴史やシヴェルブシュの闇をひらく光光と影のドラマトゥルギー、キットラーのグラモフォン・フィルム・タイプライターなどと並べて読む側面です。人文学とメディア論を繋げて読むことができるでしょう。
 
 
目次
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 第1章  すべてのネットワークの母
 第2章  奇妙に荒れ狂う火
 第3章  電気に懐疑的な人々
 第4章  電気のスリル
 第5章  世界をつなぐ
 第6章  蒸気仕掛けのメッセージ
 第7章  コード、ハッカー、いかさま
 第8章  回線を通した愛
 第9章  グローバル・ビレッジの戦争と平和
 第10章 情報過多
 第11章 衰退と転落
 第12章 テレグラフの遺産

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【関連ページ】

ヴィクトリア朝時代のインターネット トム・スタンデージ: 瓦斯燈

現代との類似点に着目した書評。
 

『ヴィクトリア朝時代のインターネット』感想』 – ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

ヴィクトリア朝時代のメイドについて研究している人のブログでの書評。
面白いです。
 

メディアトラッシュ:服部桂インタビュー |Yumi Yamaguchi Contemporary Art Lab

本書の訳者である服部氏へのインタビュー。服部氏はMITメディアラボの客員研究員や、『ASAHIパソコン』副編集長も歴任された傑物。写真もかっこいい。
 

瀬名秀明×服部桂トークイベント「科学の本棚」(2012年1月14日@ジュンク堂書店新宿店) – Togetter

これは凄い。読み応えたっぷりです。
 

asahi.com:世界を変えた6つの飲み物 [著]トム・スタンデージ - 書評 – BOOK

世界を変えた6つの飲み物  トム・スタンデージ』 [ バーテンダーと呼ばれる程のバカは無し ]

同著者の『世界を変えた6つの飲み物 – ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史』の書評。この本も面白そうです。
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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