読書ガイド「本が好き!」が運営するニュースサイト

知られざる戦後史から、理想のキュレーションを目指す。

ITジャーナリストの佐々木俊尚氏の著書キュレーションの時代では、「情報の海の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、多くの人と共有すること」と定義されている「キュレーション」。最近注目が集まっているキーワードです。
この「キュレーション」という言葉、実はもともと博物館や美術館の「学芸員」の仕事を指していたことはご存知でしょうか。細野不二彦氏の人気漫画『ギャラリー・フェイク』の主人公フジタはニューヨークのメトロポリタン美術館の元キュレーターという設定だったので、学芸員=キュレーターということを知っている人は多いかも知れません。
しかし、彼らは一体どんな仕事をしているのでしょうか。美術品に囲まれて、優雅で楽しそう、というイメージがありますが、その実際は…?
 
現代美術キュレーターという仕事の著者・難波祐子氏は「仕事の量は、正直に言って半端ではない」「かなりの部分が力勝負のハードな現場」と書いています。
 


 
 
本書は、元東京都現代美術館学芸員の難波氏が、戦後の日本美術史を学芸員=キュレーター中心に辿りつつ、変わりゆく社会情勢・進むグローバル化のなかで、どのような「キュレーション」が理想の姿なのかを模索する一冊。青弓社さまからご恵投いただきました。
 
GHQによる皇室財産解体の一環として東京帝室博物館が解体され国立博物館になったことから始まり、スター・キュレーターとスター・アーティストが国際展を独占し批判される「キュレーターの時代」を紹介し、現在のキュレーターの活躍まで概観しています。
 
いわゆる学芸員=キュレーターの歴史だけを扱ったものではなく、彼らの職場である美術館や、さまざまな企画展、アーティストや美術批評家、美術ジャーナリズムなどの歴史も関わってくる、「日本美術戦後史」の、あまり語られて来なかったいち側面が描写されていて非常に勉強になりました。アートに関心があれば、華やかなアーティストの側や、抽象的な評論だけではなく、こういう方面のことも知っておきたいところ。
 
20世紀中頃の、国威発揚としての美術政策(そしてそれへの反抗の動き)については、アメリカの諜報機関CIAが情報戦の一環として著名な批評家であるグリーンバーグらに資金提供を行なっていたこと(The Cultural Cold War: The CIA and the World of Arts and Lettersに詳しい)を思い出します。
また、1960年代の過激化の一途を辿る現代美術シーンに対して、その受け皿となる美術館側・展覧会企画側がどのように対応したかも刺激的でした。
特に、日本の戦後美術界に多大な影響を与えた、生け花の草月流家元・勅使河原蒼風の長男である勅使河原宏(のちの草月流三代目家元)が発足させた「草月アートセンター」について触れられている箇所。「アーティストが自分自身で自作をプロデュースする」という当時としては画期的なシステムで、ジョン・ケージやマース・カニングハム、ラウシェンバーグといった時代を代表するアーティストのパフォーマンスが展開されていました。
そして1960年代の西武百貨店文化事業部が手掛けた「パウル・クレー展」の記録的大成功、1975年の西武美術館のオープンについてもページが割かれています。百貨店としては後発だった西武が、他店との差別化のために、「時代の精神」を意識して近・現代の美術を積極的に紹介したことは、高度経済成長期の絶頂へ向かう日本の文化と深く結びついていたと思います。
 
巻末には、昨年惜しくも亡くなった美術評論家で東京ビエンナーレやヴェネチア・ビエンナーレのコミッショナーを務めた中原佑介氏へのインタビューも収録されています。
 
目次
==================================================

はじめに
 
第一章 日本における「学芸員」の守備範囲
 
「学芸員」と「キュレーター」
博物館法による「学芸員」の定義とその実務
常設展と企画展を実施する美術館でも学芸員職
企画展中心の美術館
欧米型の美術館フリーランス・キュレーターの守備範囲
 
 
第二章 日本キュレーター前史
―「学芸員」のはじまり/黎明期:1950年代
 
戦後の復興と博物館法の制定
日本における美術館の設立
新しい美術館像としてのニューヨーク近代美術館
神奈川県立美術館の誕生
国立近代美術館の開館
美術家主導のグループによる展覧会
デパートと新聞社による展覧会
1950年代の美術雑誌
 
 
第三章 「学芸員」から「キュレーター」へ
―転換期:1960-80年代
 
美術表現の多様化と企画者の役割の変遷
東京都美術館の変遷
地方公立美術館の台頭
国際交流基金と日本人キュレーターの国際化
貸画廊とオルタナティブ・スペースの時代
草月アートセンター
佐賀町エキジビット・スペースと東高現代美術館
ICAナゴヤ
進化するデパート美術館
 
 
第四章 「キュレーターの時代」
―発展期:1990年代
 
グローバル化と日本における「キュレーター」の台頭
現代美術専門の美術館の登場
東京都現代美術館の開館
多文化主義と「他者」の表象
日本におけるアジアの表象
フリーランス・キュレーターの台頭とキュレーターの役割の変化
日本におけるアーティスト・ラン・スペースとアート・プロジェクトの興隆
日本の「キュレーター」事情
キュレーターの時代
 
 
第五章 これからのキュレーター像
 
21世紀に入ってからのキュレーションの方向性
開かれた美術館
森美術館
金沢21世紀美術館
街中へ開かれる美術館
ゲスト・キュレーターによる展覧会
美術館での若手作家の展覧会
アーティスト/キュレーターの登場
共同キュレーション、双方向キュレーションの試み
美術館展覧会の差別化と領域横断性
日本におけるキュレーターの現在
これからのキュレーター像
 
東京ビエンナーレとその時代
―中原佑介インタビュー
 
「それが初めてなんですよ、国際展を一人でやったのは」
「「キュレーター」なんていう言葉、当時はなかった」
「学芸員があんまり展覧会を見ないんだよ」
「いちばん広い面積を使ったのはクリストだね」
「我が同僚の批評家たちが、みんな、困ったみたいだよ」
 
キュレートリアルな出来事の年表1951-2011
 
おわりに

==================================================

 
【関連記事】

美術館という幻想 儀礼と権力

 

アーティスト症候群?アートと職人、クリエイターと芸能人

 

表象 05 特集:ネゴシエーションとしてのアート

 

イタリア・ファシズムの芸術政治

 

岡倉天心と大川周明

 
【関連書籍】

美術館の政治学

 

The Cultural Cold War: The CIA and the World of Arts and Letters

 
 

輝け60年代―草月アートセンターの全記録

 

「人間と物質」展の射程: 日本初の本格的な国際展 (中原佑介美術批評 選集)

 

キュレーション 収集し、選別し、編集し、共有する技術

 

【関連ページ】

本物の「キュレーション」とは?―東京都現代美術館・長谷川祐子(前編)
「キュレーター」は社会の“コンパス”―東京都現代美術館・長谷川祐子(後編)
– ヒット研究所 – 日経トレンディネット

著者の難波祐子氏がキュレーターを務めていた東京都現代美術館でチーフ・キュレーターの職にあり、現代日本を代表する「キュレーター」といっても過言ではない長谷川祐子氏へのロングインタビュー。

 

Google Art Project

Webサービス界の雄Googleが提供する、バーチャル美術館プロジェクト。超高画質で美術作品を多数閲覧できます。これはこれでひとつの「キュレーション」なのかも。

 

 
 
==================================
【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
==================================
==================================
「BOOKニュース」では出版系のイベントからマニアックな新刊情報まで、
本に関する情報を収集して紹介しています。
ユニークな本を出される出版社様、
紹介させていただきたいのでBOOKニュース宛に新刊をぜひ送ってください!

twitterアカウント(@honzuki_news)でもときおり呟いております。
RSSフィード購読はこちら。

コメント

コメントをお寄せください。

コメントの投稿

コメント(必須)