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エッフェル塔と最後までコンペを争ったのは太陽の塔『闇をひらく光』

光あれ。と神は言った。そして光はあった。キリスト教とイスラム教、ユダヤ教が聖典とするバイブルいわゆる聖書の最初の一冊『創世記』はこの一節で始まる。世界は、光の創造とともに始まったと言われている。
 
この十二月に新装版が発売された『闇をひらく光』は、人類が初めての人口照明である松明を手にしてから、蝋燭、灯油ランプ、ガス燈、電球にいたるまでの照明の歴史を概説するもの。
 

 
 いまやパリのランドマークとなって久しいエッフェル塔と最後までコンペを争っていた案が、パリ中を明るく照らし夜の無い文字通りの「光の都」としようとした「太陽の塔」(パリ留学の長かった芸術家の岡本太郎の有名な太陽の塔を思い出す)だったというエピソードなど、興味深い話が満載の本書。
その他、祝賀の篝火、イルミネーションと花火、街灯、ショーウィンドウの演出や店舗照明、舞台照明、室内への太陽光の調整のためのカーテンの導入など、あらゆる「照明」の歴史が綴られている。
日の出とともに起きて日の入りとともに眠るライフサイクルから自由になった現代人が、当たり前のように接している様々な照明が、どのようにして産み出され、どのようにして受け入れられていったのかを知ることのできる手軽な一冊。
 

著者のW.シヴェルブシュは、本書の他に光と影のドラマトゥルギー鉄道旅行の歴史 19世紀における空間と時間の工業化楽園・味覚・理性 嗜好品の歴史図書館炎上などの著書がある。このうち『鉄道旅行の歴史』と『楽園・味覚・理性』は、かの高山宏氏が「絶品」と称揚している。特に『鉄道旅行の歴史』については「長年の愛読書のひとつである。(中略)「文化史」とはどういうものか、このアプローチの未来における大きな可能性を学生に示そうにも、これは凄いと思える成功例がなくて困っている時、この本に出遭った。」と書いている。
 
なお批評家の東浩紀氏はかつて情報メディア理解をサイバースペースなどの「空間的」理解と、マクルーハンやヴィリリオのような「速度=距離的」理解の二種類に分類し、主に前者をサイバースペースはなぜそう呼ばれるかという論考で研究した。この論考のなかで東氏はフレドリック・ジェイムソンを援用したヴィヴィアン・ソブチャックの映画論と、スラヴォイ・ジジェクの映画論を、ともにモーリス・メルロ=ポンティの視覚論を継承するものとして読み解いている。
光と闇の芸術である映画、そして発光装置であるモニター上に表示される電子メディアの情報を考える際に、その前史として『闇をひらく光』を読んでおくことは有効だろう。
 
『サイバースペースはなぜそう呼ばれるか』の文庫化にあたり、東氏の親しい理論家でウェブ業界のリサーチャーを務める濱野智史氏は、近年のインターネットサービス群は「速度=距離的」から捉えた方がその本質を理解しやすいと主張している。
 
濱野氏は自著アーキテクチャの生態系―情報環境はいかに設計されてきたかを例に挙げて、情報メディアの可能性の中心は「速度=距離的」な理解の方にあると述べている。東氏が最近刊行して話題を読んだ一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグルも、この方向線上にある、というのが濱野氏の読解だ。
 
現代人の感覚が、近代以降大きく変化しているという事は広く知られているが、実際どのような変化があったのかを知るためにも近代に登場した諸々のメディア状況について知見を深めておくほうがいいだろう。本書『闇をひらく光』は近代にいたる「光」の歴史を扱い、『鉄道旅行の歴史』は「空間」と「時間」そして「距離」の歴史を扱い、それぞれいわゆるメディアの周囲にあってその環境を下支えしていた状況を分析したもの。人文系に興味を持つ人の基礎教養として普及して欲しい。

 

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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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