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レーニン思想の現代向けアップデートを目論むという『戦略の工場』

イタリアには、「赤い旅団」という有名なテロ組織がある。
「赤い旅団」は、二度の首相経験のある大物政治家の誘拐殺害事件、その他のジャーナリスト、警察官、裁判官や実業家などの誘拐殺害事件を起こした極左組織として世界的に知られている。
この「赤い旅団」の誘拐暗殺事件をはじめ、多数の事件を主導したという嫌疑で逮捕された思想家としてアントニオ・ネグリがいる。
 
逮捕後の捜査でテロに携わったという嫌疑は晴れたものの、当時の過激な思想的影響力に対する責任を問われ、ネグリは有罪判決を受けることになる。
裁判の最中にイタリア議会選挙に獄中立候補し当選、ネグリは不逮捕特権により出獄する。
数ヶ月後に特権が剥奪されるとただちに国外に亡命。(その後も執筆活動を続けていたが1997年に刑期を勤めるために帰国、2003年に釈放)。
そのネグリが逮捕前に行っていた、「ソビエト連邦建国の父」ことレーニンについての講義をまとめた本が12月に出版された。
戦略の工場――レーニンを超えるレーニンである。
 
戦略の工場――レーニンを超えるレーニン 書影
 
本書は、未完のレーニン 〈力〉の思想を読む「物質」の蜂起を目指して――レーニン、〈力〉の思想の著者である白井聡氏の解説によると、現代に求められている「レーニンの思想のアップデート」を目論むもの。
ネグリが「レーニン講義」を行っていた当時は、レーニンはスターリンとともに左翼思想家・運動家たちのあいだでも過去の人、否定的に批判されるべき存在、あるいは有耶無耶にやり過ごすべき存在であったらしい。しかしネグリは、レーニンの思想を高く評価し、正面からその可能性の中心を明確にしようと勤めていた。
 
ネグリの名を一躍世界中に知らしめた〈帝国〉グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性(マイケル・ハートとの共著)で、ネグリはレーニンが主張した帝国主義論の現代版として、国民国家の覇権争いを超えた、ネットワーク状の権力として「〈帝国〉」という概念を提示した。
この「〈帝国〉」は支配権力であるだけでなく、表裏一体の存在として「マルチチュード」を生み出し続けるというのがネグリ(とハート)の主張である。このマルチチュードによって、世界は変革される可能性を持つのだとネグリは言うのだが、その指し示す対象が何なのか、多くの読者から疑義が提示されてきている。
…案の定このくだりについて、社内から「よくわからない」という指摘があった。是非わかりやすく解説したいと思うのだが、この限られたスペースでいますぐに指摘に応えるのは難しい。機会を改めて挑戦したい。
 
なお本書で中心的に議論されるのは、レーニンの著書国家と革命のとりわけ「国家〈死滅〉」という概念。レーニンは、貧富の差や権力の偏在、その固定化を指して階級と呼び、その階級構造が国家を作ったと主張する。国家によって階級構造は維持され、かつ強化されるというのだ。そして、階級構造を打ち破るためには、国家は粉砕され〈死滅〉させられる必要がある、と述べている。
富裕な階級によって国家というシステムが利用され、富めるものがより一層裕福になっていくという状況は確かにあると思われる。しかし、富める者たちが利用するのは、国家というシステムだけではない。国境を超えたシステムは今後ますます進化していくだろう。ここに着目するのが、ネグリのネグリらしいところだが、レーニンによる「国家〈死滅〉」論に、国家を超えた〈帝国〉におけるマルチチュード的な思想を見出しているのかも知れない。
 
目次
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第I部 レーニンとわたしたちの世代
第1講 レーニンのマルクス主義のマルクス的読解のために
第2講 資本の理論から組織化の理論へ(1):経済闘争と政治闘争 階級闘争
第3講 資本の理論から組織化の理論へ(2):組織化の労働者的性格 工場としての党
第4講 資本の理論から組織化の理論へのレーニンの歩みについて いくつかの注釈
第5講 組織化の理論から革命の戦略へ(1) プロレタリアートの独立性
第6講 組織化の理論から革命の戦略へ(2) 戦略の工場
第7講 組織化の理論から革命の戦略へ(3) 共産主義をめざす組織化
第8講 組織化の理論から革命の戦略にいたるレーニンの歩みについて 注釈
第9講 技術としての蜂起と大衆の実践
 
第II部 ロシア革命におけるレーニンと評議会、そして評議会主義に関する若干の考察
第10講 自然発生性と理論とのあいだにある評議会
第11講 レーニンと評議会 1905年から1917年まで
第12講 評議会とレーニンによる実践の逆転
第13講 実践の改良主義的変容 こんにちにおける評議会とはなにか
第14講 問いの検証 評議会は権力機関か
第15講 大衆の評議会主義と切迫する労働者闘争
 
弁証法についての間奏 1914年から1916年までのノート
第16講 レーニン思想の再発見された形態としての弁証法
第17講 ヘーゲルを読むレーニン
第18講 哲学と政治学のあいだ 弁証法という武器
 
第III部 国家死滅の経済的な基礎 『国家と革命』読解
第19講 「誰がやりはじめるか」
第20講 国家概念一般 国家は破壊することができるし破壊しなければならない
第21講 国家〈死滅〉についての日和見主義的観念と革命的観念 社会愛国主義に対する労働者の憎悪
第22講 国家〈死滅〉の問題設定 平等に抗して
第23講 国家〈死滅〉の物質的基礎の定義への最初のアプローチ 労働に抗して、社会主義に抗して
第24講 国家〈死滅〉の問題についてのマルクスの先駆性 価値法則に抗して
第25講 移行の問題設定の再審のために 不可能な社会主義と切迫する共産主義
第26講 移行の問題設定の再審のために(再編) 大衆への言葉
第27講 移行とプロレタリア独裁 労働者の特殊利害
第28講 移行、労働者階級による統治の物質的基礎とその拡張
第29講 とりあえずの結論のために レーニンとわたしたち
 
補論 「極左路線」〔「左翼主義」小児病〕について ひとつの結論とひとつのはじまり
第30講 困難な均衡
第31講 極左路線のひとつの定義といくつかの(相応しい?)模範
第32講 闘争の新たなサイクルに向けて
第33講 『左翼小児病』から『なにをなすべきか?』へ
 
[日本語版解説]
21世紀世界の”欲望”として再生するレーニンのユートピア 白井聡
歴史のなかの『レーニン講義』、あるいは疎外なきルカーチ 市田良彦
70年代イタリアにおける後期マルクス主義の成立 中村勝己
 
訳者あとがき
引用・参照文献一覧
著者紹介 訳者・解説者紹介
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【関連ページ】

blog 水声社 » Blog Archive » 書評:ネグリ思想の精髄

ネグリの思想の根幹に関わる哲学者スピノザについての著作『スピノザとわたしたち』の書評。
スピノザについては、朝日新聞社編集委員の鈴木繁氏によるコラム「スピノザが来た」が入門には最適。ネグリの『スピノザとわたしたち』のほか、近刊『宮廷人と異端者 ライプニッツとスピノザ、そして近代における神』『スピノザの方法』『フェルメールとスピノザ 〈永遠>の公式』などを紹介。
 
松岡正剛の千夜千冊『哲学ノート』レーニン
またしてもセイゴヲ氏の千夜千冊ですいません。
なんと松岡氏の読書方法にレーニンの方法が強く影響していたことを認めています。
なお、松岡氏も一番強い印象を受けたのは『国家と革命』だったようです。
 
Ustream.tv: 白井聡氏×國分功一郎氏_贅沢、浪費、マルクス!― 新しい「自由の王国」に向かって ―@ジュンク堂新宿店
話題の哲学者・國分功一郎氏と、本書の解説者でレーニン研究者の白井聡氏の対談動画。
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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