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戦争は、一つの社会現象。

塹壕は砲火を避けるために地面を掘って造られるため、底に水が溜まってしまい、慣れないフランス兵たちは靴を濡らし足元から凍えていた。
敵国である筈のドイツ軍の将校がその姿を見てフランス語でこう言った。「君たち、そういうときは板を敷きたまえ。足を水溜まりに突っ込んでいると腐ってしまって使い物にならなくなるぞ」と。
「民衆、大衆」の国という意味をもつ「ドイッチュラント Deutschland」の軍隊の将校の多くは、その国名に反して貴族階級の出身者であることが多く、外国語であるフランス語を流暢に話し、幼少の頃から兵法を学んできたからこその余裕からか、または騎士道精神の名残りからか、敵兵に対しても気遣いを忘れなかった、というエピソードである。
 
もちろんこれは、僕が酒宴の席で、ドイツ贔屓の軍事マニアから聞いた逸話に過ぎず、実話だというウラはまったくとれていない。
しかし、御伽噺めいたこういったエピソードも、なんとなく有り得るような気がするのは、ドイツという国の文化に戦争が深く関わっているという印象があるからだろう。
 
ドイツ史と戦争: 「軍事史」と「戦争史」書影
 
彩流社から11月に刊行されたドイツ史と戦争: 「軍事史」と「戦争史」は、ドイツ統一戦争に始まる「ドイツ史」を通して概観しながら、その社会の変化と、たびたび勃発する戦争の様相との関係を探る1冊。
「戦争は人類が営む一つの社会現象である」との認識に基づき、「戦争史」の視点から広く政治・経済・技術・倫理・思想といった社会的要素を意識的に取り入れた多角的な論集。
 
第一部では、ドイツ統一戦争から現在までのドイツ史における戦争の位置づけについて概観。
第二部では、戦争史の文脈のもとでのドイツ固有の特質について、重要な人物とその思想を取りあげながら考察。
第三部では、陸・海・空の軍組織に焦点をあて、それぞれの軍事面に留まらない、社会的影響の側面を論じる。
第四部では、ドイツの戦争観や戦略思想が世界各国にどう認識、受容されたかを考察。蒋介石軍がドイツ式に武装され、抗日戦で独の軍事顧問団が作戦面でも指揮した事実を明かす。
 
目次
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戦争史研究の新たなフロンティア――「はじめに」に代えて……………………………………………石津 朋之 11
 
 第一部 ドイツ史と戦争
 
第一章 ドイツ統一戦争から第一次世界大戦………………………………………………………………中島 浩貴 21

はじめに 21
一 ドイツ統一戦争 22
二 ドイツ帝国と軍備政策、戦略計画 34
三 ドイツの軍国主義 39
四 第一次世界大戦への道 43
おわりに 48
 
第二章 第一次世界大戦から第二次世界大戦――二つの総力戦とドイツ………………………………望田 幸男 55
はじめに――二つの総力戦とドイツ 55
一 第一次世界大戦下のドイツ――「結果」としての総力戦のもとで 57
二 戦間期のドイツ――ワイマール共和制とナチス 65
三 第二次世界大戦下のドイツ――「はじめから」の総力戦とホロコーストの道 71
おわりに――戦後への「正」「負」の遺産 81
 
第三章 冷戦――政治と戦争の転換……………………………………………………………………………新谷 卓 85
はじめに 85
一 戦争する主体「ドイツ帝国」の解体 86
二 脱軍事化から再武装へ 91
三 第二次ベルリン危機・デタント・新冷戦 109
四 連邦軍のNATO域外派兵 116
おわりに 118

 第二部 戦争史と思想
 
第四章 リュヒェルとシャルンホルスト――転換期における啓蒙の軍人たち…………………………鈴木 直志 125
はじめに 125
一 プロフィール 127
(一)エルンスト・フォン・リュヒェル 127
(二)ゲルハルト・フォン・シャルンホルスト 130
(三)二人の交友 132
二 見解の比較 135
(一)国家と社会 135
(二)戦争と軍隊 130
(三)教養と教育 144
おわりに 149
 
第五章 モルトケとシュリーフェン……………………………………………………………………………小堤 盾 153
はじめに 153
一 官房戦争から国民戦争へ 155
二 デンマーク戦争と普墺戦争 158
三 普仏戦争と予防戦争 161
四 シュリーフェン論争 165
五 シュリーフェンにおける政治的思考 169
六 シュリーフェン神話の形成 173
おわりに 176
 
第六章 ルーデンドルフの戦争観――「総力戦」と「戦争指導」という概念を中心に………………石津 朋之 179
はじめに 179
一 ルーデンドルフとその時代 180
二 総力戦とは何か 183
三 ルーデンドルフと総力戦 186
四 戦争指導とは何か 193
五 ルーデンドルフと戦争指導 195
六 ルーデンドルフとクラウゼヴィッツ 197
おわりに 201
 
 第三部 軍事組織としてのドイツ軍
 
第七章 ドイツ陸軍――ドイツにおける「武装せる国民」の形成………………………………………丸畠 宏太 205

はじめに――「武装せる国民」の神話と現実 205
一 内からの国民形成と社会の規律化――ウーテ・フレーフェルトのテーゼの再検討 208
二 規律化・抵抗・馴化 212
(一)ライン連盟諸国と徴兵制 212
(二)兵役を通じての国民統合?――プロイセン領ライン地方の実態 216
(三)「第三のドイツ」における兵員補充 221
三 試金石――一八四八・四九年革命と軍隊 225
おわりに――ドイツ統一戦争と「武装せる国民」 228
 
第八章 ドイツ海軍――海軍の創建と世界展開……………………………………………………………大井 知範 231
はじめに 231
一 プロイセン近代海軍の誕生 234
(一)革命から生まれた「ドイツ艦隊」 234
(二)プロイセン海軍の建設 236
(三)海外展開の始まり 239
二 ビスマルク時代のドイツ帝国海軍 242
(一)シュトシュ時代 242
(二)シュトシュ計画と拠点獲得問題 246
(三)世界展開と砲艦外交 248
おわりに 252
 
第九章 ドイツの脅威――イギリス海軍から見た英独建艦競争一八九八~一九一八年…………………矢吹 啓 255
はじめに 255
一 十九世紀末のイギリス海軍 258
二 「ドイツの脅威」とイギリス海軍省 261
三 「ドイツの脅威」の政治利用 264
四 英独建艦競争の実態 269
五 「ドイツの脅威」から「イギリスの脅威」へ274
おわりに 281
 
第十章 ドイツ空軍の成立――ヴァルター・ヴェーファーと『航空戦要綱』の制定……………………小堤 盾 285
はじめに 285
一 ヴァルター・ヴェーファーの航空戦思想 286
二 『航空戦要綱』の制定 293
三 『航空戦要綱』制定の政治的・思想的背景 298
おわりに 303
 
 第四部 ドイツ軍の世界的影響
 
第十一章 ヤーコプ・メッケルと日本帝国陸軍…………………………………………………………大久保 文彦 309

はじめに――メッケルの前半生 309
一 メッケル招聘の経緯 310
二 「メッケル少佐」という問題 317
三 陸軍大学校教育に対するドイツ人教官たちの貢献 321
四 明治十年代(一八七七〜八六年)の日本陸軍 328
五 メッケルの日本陸軍への貢献 334
おわりに 337
 
第十二章 コルマール・フォン・デア・ゴルツとオスマン帝国陸軍……………………………………藤由 順子 339
はじめに 339
一 オスマン帝国派遣以前のゴルツとドイツ軍 340
二 オスマン帝国へのドイツ軍事顧問団の派遣 343
三 オスマン帝国陸軍の改革の歴史 344
四 ゴルツによるドイツ軍事顧問団の登場 348
 (一)教育システム 348
 (二)軍団編成 352
五 ゴルツ改革の結実――希土戦争(一八九七年)と青年トルコ革命(一九〇八年)357
おわりに 361
 
第十三章 アレクサンダー・フォン・ファルケンハウゼンと中華民国陸軍……………………………長谷川 熙 365
はじめに 365
一 ファルケンハウゼンの反ヒトラー意思――その生涯から浮上する伝統性と特異性 366
二 ファルケンハウゼンの中華民国支援の特徴――その抗日性の起源 374
おわりに 386
 
索引(人名・事項)…………………………………………………………………………………………………………
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【関連リンク】
ドイツ史と戦争 「軍事史」と「戦争史」 (三宅 正樹・他)●版元ドットコム
「版元から一言 戦争史研究の新たなフロンティア――「はじめに」に代えて」として、重厚な紹介文が載っています。
『戦争の変遷』の著者で「戦争は国家の利益を求めた行為ではなく、戦争自体が人類の営みなのだ」と主張するイスラエルの軍事学者クラウゼヴィッツの思想をのっけから参照しています。
 
世界一ィとは – はてなキーワード
人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の登場人物が絶叫する「ドイツの科学力は世界一ィ!」というセリフは有名ですが、その背景にある一因を本書で知ることができるでしょう。
 
戦争の変遷原書房 – 本が好き! Book ニュース
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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