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どうしてこうなった。『英国庭園を読む: 庭をめぐる文学と文化史』

「アヴァンギャルド」という言葉が「前衛」という二字熟語に翻訳されることはよく知られています。でも、驚くことに、これが軍隊の「前衛部隊」「後衛部隊」という呼称に由来していること、そして前衛文学や前衛芸術と言う場合に、それが文学や芸術での、特に保守的な体制を打倒するための社会主義革命闘争における前衛部隊を指すということを知らない人がとても多い。「ヴァ」とか「ギャ」とか「ルド」とか厨二病っぽい音が入っているので、雰囲気で使ってしまっているのだと思うのですが、ここには気楽に使うにはあまりにも血腥い響きが潜んでいることを、いつもつい思い出してしまう僕でした。
 
それはさておき、このアヴァンギャルドを捩って「アヴァン・ガーデニング」という活動をしている人達がいます。前衛文学・前衛芸術ならぬ「前衛園芸」です。社会主義革命運動の現代的なスタイルのひとつに不法占拠という手法があるのですが、その占拠した土地で園芸を行うという運動です。土地所有という保守的な既得権益に対して、身一つで占拠を行い、そこで独自の「地産地消」や園芸的な表現活動を行おうというこの運動の背景には、感性的・倫理的なものとして園芸を捉えようという発想があります。
 
英国庭園を読む 書影
 
「アヴァン・ガーデニング」については、T.A.Z. 一時的自律ゾーンの著者として知られる無政府主義者で哲学者のハキム・ベイが寄稿した雑誌VOL 01を読んでみてください。
 
VOL 01
 
今回ご紹介するのは、11月に発売される英国庭園を読む: 庭をめぐる文学と文化史。実際の庭園を80以上も挙げながらガーデニング=園芸の王国であるイギリスの「庭園史」と「文学史」をあわせてたどり、イギリス文化の特質に迫る文化史。

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◎本書に登場する主な庭園◎
ハンプトン・コート/ハットフィールド・ハウス/ハドン・ホール/ウィルトン・ハウス/チャッツワース/ラウシャム/ストウ/ブレニム・パレス/アップパーク/スタウアヘッド/グレイヴタイ・マナー/へスタークーム/ロドマートン・マナー/ヒドコット・マナー/シシングハースト/バーンズリー・ハウスほか
 
◎本書に登場する主な文学者と庭園◎
シドニー〈ペンズハースト・プレイス〉/シェイクスピア〈ニュー・プレイス〉/イーヴリン〈グルームブリッジ・プレイス〉/シェンストン〈レゾウズ〉/クーパー〈オーチャード・サイド〉/ワーズワース〈ライドル・マウント〉/ラスキン〈ブラントウッド〉/モリス〈ケルムズコット・マナー〉/バーネット〈グレイト・メイサム・ホール〉/キプリング〈ベイトマンズ〉/ボストン〈ザ・マナー〉ほか
 
「英国主要庭園ガイド」付。
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イギリスの庭園の端緒には、「ピクチャレスク」という独特の感性的・倫理的な嗜好が深く関与しています。もともと「ピクチャレスク」は、風景のなかに「絵画のような」眺めを見出して愛でるという屈折した感覚のことで、不規則さ(アシンメトリー性)、過去への連想、異国的なものへの憧れといったものを称揚するもの。それを庭園の中に実現しようとしたのが英国庭園の発端なのです。
 
この美でもなければ崇高でもない、そしていわゆる風景でもなければ絵画そのものでもない、敢えて「絵のような」「風景のような」ものを模した庭園を作る発想が、先述の「アヴァン・ガーデニング」の現代的な反体制運動のなかに息づいているのだと考えると面白いのではないかと思いました。
 
【関連リンク】
先見日記 Insight Diaries
ラッパー、小説家、そしてベランダ園芸家「ベランダー」として活動しているいとうせいこう氏による、『VOL 01』のアヴァン・ガーデニングに触れているブログ記事。
「…園芸を農業と差別化し、フーリエを引用しながらそれを「魅力的労働」と定義づける表題原稿の執筆者ピーター・ランボーン・ウィルソンは、現在唯一可能な「アヴァンギャルドavant garde」は「前衛的庭園avant garden」だとする。
 自給自足によって資本の循環に対抗し、ハーブを育てることで医療から自由になり、占拠(スクワット)した土地をガーデニングで変容させ、いまや園芸はひとつの社会的な行為となるのだ。
 まるでロマンティックなサイバーパンクSFのようだけれど、筆者はそれをきわめて実践的な社会運動の宣言として書く。…」
 
いとうせいこうの自己流園芸ベランダ派/コラム
いとうせいこう氏のベランダー活動を知ることの出来るコラム。
 
Lipstick Traces: アヴァン・ガーデニング(1)
日本語版ウィキペディアには「アヴァン・ガーデニング」の項目がないので、英語版から翻訳して一部を掲載しているブログ記事。「園芸」カテゴリの他の項目も読んでみてください。
 
松岡正剛の千夜千冊『T.A.Z.』ハキム・ベイ
『T.A.Z. 一時的自律ゾーン』についての松岡正剛氏による紹介。
 
・本が好き! 庭園史をあるく―日本・ヨーロッパ編
「庭園は空間芸術であると共に時間の芸術でもある」として、世界各地のさまざまな庭園について解説する1冊。
 
・本が好き! 英国の庭園―その歴史と様式を訪ねて
幾何学的で対称性を重視するイタリアやフランスの庭園に対して、繊細で自然を感じさせる英国の庭園を愛する著者が、自ら訪れた100以上の庭園の中から30余を採り上げ、造園を命じた貴族や王族さらには代表的な庭師たちのエピソードをまじえつつ、庭園の歴史、考え方と様式、作り手の変遷をあとづける1冊。
 
・本が好き! イギリス庭園の文化史―夢の楽園と癒しの庭園
・本が好き! 森と庭園の英国史
・本が好き! 重森三玲―永遠のモダンを求めつづけたアヴァンギャルド
・本が好き! 重森三玲庭園の全貌
 
旅と大英帝国の文化―越境する文学ミネルヴァ書房 – 本が好き! Book ニュース
執事とメイドの裏表 ─ イギリス文化における使用人のイメージ白水社 – 本が好き! Book ニュース
ジェイン・オースティンと「お嬢さまヒロイン」朝日出版社 – 本が好き! Book ニュース
都城の系譜京都大学学術出版会 – 本が好き! Book ニュース
 
【関連書籍】


 
 
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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