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国書刊行会「未来の文学」・樽本周馬氏にインタビューしてきました!

当Bookニュースに定期的に連載する企画をやりたいなということで、僕の好きな美食とSFを組み合わせた企画を考えました。

Bookニュース連載企画「美食とSF」ロゴ

勢いでロゴも作ってみました。
眩暈がするほど美味しいものを食べながら、めくるめくようなSFの世界を楽しむ。極楽のような企画です。
 
記念すべき第1回目は、コアなラインナップで知られる「未来の文学」シリーズを担当されている編集者樽本周馬氏国書刊行会)にインタビューしてきました。
 
今回インタビューをおこなったお店は、樽本氏に教えていただいた中華料理店「蘭蘭 池袋西口本店」。

 


大きな山芋入り黒酢酢豚が絶品の「蘭蘭」ですが、他の料理もおしなべてとても美味しいので読者の皆様も是非ご利用ください。
※ネットを徘徊していたら美味しそうな写真をアップしている方がいらっしゃったので、興味ある方は下記の関連リンク集からご覧ください。
 
本が好き!ナガタ(以下:本):
今回は、お忙しいところお時間を割いてくださりありがとうございます。
「未来の文学」シリーズの関連記事がBookニュースで評判が良かったので、樽本さんにお話を伺いたいと思って今回インタビューをお願いしました。よろしくお願いします。
 
ここ(「蘭蘭 池袋西口本店」)の黒酢酢豚は本当に美味しいですね。
ゴロっとした山芋、香ばしく強い粘り気のある黒酢ソース。やみつきになります。
樽本さんはどういう経緯でこのお店を知ったんですか?
 
樽本周馬氏(以下樽本氏):
このお店は、7~8年前に知り合いのデザイナー夫妻に教えてもらいました。
本の企画の打ち合わせだったと思います。安いし、美味しいし、行き付けにしています。
 
本:
僕もこのお店を樽本さんに教えていただいてからちょくちょく来ています。
他にも系列店がありますが、この西口本店が一番好きです。
さて早速ですが、樽本さんが担当されている未来の文学」シリーズを企画するに至った経緯を教えていただけますか?
 
樽本氏:
私自身は、SFが好きというよりも「変な小説」が好きで。変な小説を探していると、結果的にSFが多いんですね。
無闇矢鱈な熱さがあって、「傑作か、あるいは壮大なゴミか?」と悩むような、野蛮な作品が好きなんです。支離滅裂だけれど、なんだか凄い、という。好きな人は好きだけれど、ダメな人はダメ、みたいな。
熱くて壮大で、というと新潮社の『トマス・ピンチョン全小説とか好きなのですが、ピンチョンは整い過ぎてますね、もっと無茶苦茶なのがいい。
 
国書刊行会では、過去に難解と言われている文学寄りSFはポツポツ翻訳刊行されていたものの、あまり売れないと言われていました。でも、当時は難解でも今読むとすんなり分かる、むしろ面白い!というものも多いんです。
別の編集者が「未来の文学」の前にミステリの古典を復刊するシリーズをやっていたということもあり、「幻の傑作SF」シリーズを企画しようと思ったという経緯です。
 
本:
「未来の文学」シリーズはどれくらい続いているのですか?
 
樽本氏:
私が編集部に配属されてすぐの頃に出した企画なので、約10年続いている企画です(「未来の文学」シリーズは現在、第3期め)。国書刊行会はだいたい1シリーズあたり担当編集者1人で、「未来の文学」も私が1人で担当しています。
 
本:
「未来の文学」は装丁も面白いですよね、独特というか。
シリーズ最新のダールグレンも、ほぼ完全に真っ黒なデザインで話題になりました。
ダールグレン 書影
※「公式に出回っている書影画像は、書名がわかりやすいように加工されたもの」とのこと。実物は完全に漆黒です。
 
メタリカの通称ブラックアルバムみたい。
メタリカ 通称ブラックアルバム
 
樽本氏:
ダールグレンは、2冊あわせて7,000円くらいする本なんですが、普通のスキャナで読み取ったら真っ黒になってしまう、本を傾けて光にあてないと書名がわからないようなデザインを敢えて採用しました。これは作品の内容とも関係していて、単に奇を衒ったデザインではありません。
刊行にあたって、世界中の各国語版を調べてみたのですが、どの版よりも日本語版のデザインが良いと思います。
「未来の文学」では、デザインはデザイナーと相談しながら決めていて、ダールグレンの装丁のアイデアは私が思いついたものですが、「未来の文学」シリーズの他の本のデザインはデザイナーさんからの提案も多いです。
デザイナーはSILENT POETSで音楽ユニットとしても活躍している下田さん。
 
本:
SILENT POETSかっこいいですよね。僕も好きです。
 
※超かっこいい「未来の文学」の装丁いろいろ(一部)
奇跡なす者たち (未来の文学)
 
ゴーレム100 書影
 
アジアの岸辺 書影
 
エンベディング 書影
 
ヴィーナスプラスX 書影
 
本:
ところで、「未来の文学」というシリーズ名の由来を教えていただけますか?
 
樽本氏:
シリーズ開始当初は「ダサい」か言われていたんですよ(笑)。「SFなのに漢字」というのが原因なんでしょうか。
このシリーズ名は、ピチカート・ファイヴの小西康陽さんが過去の音源を発掘して紹介するシリーズを作ったときに「未来の音楽」と名付けたことに因んでいます。「未来の文学」シリーズも、「幻の傑作」と言われながら様々な理由で邦訳が難しくて手が出されていなかった作品を発掘して紹介するシリーズですから。
よく「傑作はすぐに翻訳される」と考えられていると思うのですが、実際はそんなことはありません。
世の出版社が海外の良い本をすべてフォローできるはずがない。これは考えてみれば当然のことで、過去の人達がどんなに優秀でも、必ず見落としはある。
 
「未来の文学」からは少し話題が逸れるのですが、数年前に滝本誠さんからアート・スピリットという本がある、という話を聞きました。
80年も前の本なのに、アメリカ本国では今でも読み継がれている名著です。既に翻訳権も切れているので、滝本さんから話を聞いてすぐ企画書を書いて翌日には企画が通りました。この本は滝本さんに詳細な紹介を書いていただいて今年の8月に刊行したところ好評で、2,500円もする本なのに、たった3ヶ月で4刷りまでいっています。
 
アート・スピリット 書影
ロバート・ヘンライ『アート・スピリット
 
樽本氏:
『アート・スピリット』は、ロバート・ヘンライという、画家でもありまた画家の卵に絵を教える教師でもあった人(教え子にエドワード・ホッパー、マン・レイなどがいる)が書いた本なのですが、これがとても良い本なんです。「翻訳されていないから大したことない本だ」なんてことはないんです。たまたま知られていないだけなんですね。この本の素晴らしさについては滝本さんが書いた解説を読んで欲しいと思います。
 
本:
樽本さんの「未来の文学」以外に手掛けられた多くの本も、そういう信念に貫かれている感じがします。
普段はいくつくらいの企画を抱えているのでしょうか。
 
樽本氏:
いつもはだいたい10本以上の企画が同時進行しています。
とはいっても、10本すべてをすぐに出すというわけではなくて、直近に出さなければならない4本くらいを手掛ける感じです。
 
本:
編集者のお仕事って、皆さん自己流で進めていると聞いたことがあるのですが、樽本さんはどういったやり方なのか教えていただけますか?
 
樽本氏:
「編集者の仕事」というと、基本はだいたいみんな一緒だと思います。
つまり企画して、原稿や翻訳作業を著者や訳者に依頼して、……原稿がなかなかあがってこないこともあります。
というか、基本的にはなかなかあがってこない(苦笑)。
「未来の文学」の場合などはもともと翻訳が厄介なものが多いんです。
これまで翻訳されなかったのにはそれなりに理由があるわけです。
たとえば『ダールグレン』の場合は、原稿を依頼してから刊行まで5年くらいかかりました。
企画したときは2年くらいと思っていたのですが、やはり難物だったんですね。
訳者の方も遊んでいるわけではなくて、ああでもないこうでもないと頭を悩ませながら5年間格闘してくださいました。
それで、あがってきた原稿をゲラにしてチェックして、造本して、という流れです。
 
本:
あの、樽本さんの1日のタイムテーブルとか伺ってもいいですか?
普通のサラリーマンとはちょっと違ったサイクルになっているのではないかと思って。
 
樽本氏:
国書刊行会の定時は9時から17時なんです。
私は朝はちゃんと(笑)7時くらいに起きて、メールをチェックしたり、ゲラを読んだりとか家でやります。
それで会社に行ったり、そのまま打ち合わせに行ったり。会社にはいないことが多い(笑)。
 
本:
編集者の仕事でつらいことや、逆に楽しいことってどんなときでしょうか。
 
樽本氏:
体力的にしんどいのは校了前とかですね。神経が張り詰めていて。
根を詰めすぎて倒れてしまっては元も子もないので、適度にお酒を飲みつつ休みつつやってますけど。
その代わりというわけじゃないけど、土日とかは無いようなものですね。
ずっと休みが無い……まあ、ずっと休んでいるようにも見えるかも知れませんが……
 
編集を始めたころは、担当している本の刷り見本が出来たときが嬉しいと思ってました。
最近は本が出来上がっても、どこかに見落としたミスがあるんじゃないかといつまでも不安です(笑)。
昔から嬉しくなるのは、良い企画を思いついたとき、その企画が通ったときですね。
あ、あとやっぱり、翻訳を依頼していた原稿が届いたときは嬉しいです。
 
本:
そうですよね、翻訳者以外では、初めて日本語でその文章を読む人になるんですから、物凄い感慨を味わうことができそうです。
最近はどのような本を進行しているのでしょうか。
 
樽本氏:
片岡義男さん、小西康陽さんの共著『僕らのヒットパレード』、山根貞男さん『日本映画時評集成 2000~2010』、そしてナボコフロリータの翻訳者としても知られる若島正氏がSFマガジンに連載していたものをまとめた乱視読者のSF講義です。
 
本:
他社の本で、最近読んで面白かった本も教えてもらえますか?
 
樽本氏:
最近はノンフィクションばかり読んでますね。
北沢夏音さんのGet back,SUB!が面白かったです。QJで連載していた、伝説の雑誌「SUB」の編集長・小島素治氏を追跡した本。
あと、ラッパーECDの奥さんで写真家の植本一子さんの働けECD わたしの育児混沌記。装丁も写真もいい。ECD執筆のあとがきも良かった。
働けECD わたしの育児混沌記 書影
働けECD わたしの育児混沌記
 
本:
やはり真実は小説より奇なり、ということなのでしょうか。異様な世界を描く「未来の文学」シリーズを担当している樽本さんがノンフィクションを読んでいるというのは意外なようでいて、現実でも虚構でもとにかく熱くて異常な物語に惹かれているという点では納得してしまうような気がします。
今回は長い間お付き合いくださり、本当にありがとうございました!
 
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■インタビューを終えて………■
実は大学の先輩(とはいっても在学期間がズレていて面識はありませんでした)で、専攻も同じ、所属していたサークルまで被っていた樽本氏とBookニュースのナガタ。
しかしさすが名物編集者として知られているだけあって、包容力というか、話を聞いているだけでどこか安らぎを与えられるような感じがする素敵な方でした。
樽本さん、これからも面白い本をたくさん発掘して、世の中に驚きと笑いを供給してください!
 
【関連リンク】
Twitter / @nyaracocco: 池袋蘭蘭の黒酢豚! 山芋と豚の塊。肉柔らかいー芋シャ …
偶然みつけた「蘭蘭」の黒酢酢豚のナイス写真。本当に美味しそうです。
 
『ラカン派精神分析の治療論 理論と実践の交点』誠信書房-編集者インタビュー
この『ラカン派精神分析の治療論 理論と実践の交点』という専門書についての編集者インタビューが好評だったことが本企画のバックアップになりました。
 
国書刊行会”未来の文学”シリーズ第3期始動 関連ブックリストがbk1のブックフェアに登場
円城塔選<SFと幻想文学の間>ブックリストがbk1のブックフェアに登場
bk1のブックフェアの情報をお知らせしただけなのに、この2つの記事もアクセスを集めていました。
 
「日本語を使う人が選ぶSFとファンタジー」のランキング – 本が好き! Book ニュース
アメリカの公共ラジオ局がSFとファンタジーの人気作品ランキングを発表 – 本が好き! Book ニュース
藤子F不二雄+藤子不二雄A『UTOPIA最後の世界大戦小学館 – 本が好き! Book ニュース
 
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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