読書ガイド「本が好き!」が運営するニュースサイト

【新刊】塚原史『20世紀思想を読み解く: 人間はなぜ非人間的になれるのか』ちくま学芸文庫

「人間とは何か」そして「人はどうして非人間的な行為に手を染めてしまうのか」。
身も凍るような虐殺や、信じられないような規模の人災など、マスメディアを賑わす様々な事件を前にして、「人間性=ヒューマニティ」って何なのだろうかと思わず立ちすくんでしまうのは僕だけではないでしょう。
筑摩書房が11月に発売する塚原史『20世紀思想を読み解く: 人間はなぜ非人間的になれるのかは、この「人間性って何なのだろうか」という難題に見通しを与えてくれる1冊です。
 
20世紀思想を読み解く 書影
 
本書は、2000年に発売された人間はなぜ非人間的になれるのか』(ちくま新書)の増補改訂版。
新たに「9・11とメディア:現実のイメージの逆転」「3・11のクロニクル」といった章を追加し、約100ページ増えているとのこと。
 
現代哲学・思想研究者の故今村仁司氏とともにボードリヤールの翻訳を手掛け、ダダ・シュルレアリスムの紹介者としても知られる著者・塚原史氏に、本書についてメールインタビューを行いました。
インタビュー内容は以下のとおりです:
 
BOOKニュース(以下:B):執筆のきっかけ、目的は何ですか?
塚原氏(以下:塚) 今回の著作は、2000年秋に刊行した『人間はなぜ非人間的になれるのか』(ちくま新書)の増補改訂版です。旧著は、産業革命と市民革命をへて成立した西欧型近代社会の指導原理であった「理性」と「主体」というアイディアを、「群集」「狂気(無意味)」「未開」など一九世紀末以降の新たな思想系への接近をつうじて問い直し、二度の世界戦争と強制収容所から消費社会へといたる時代を「人間」の「非人間化」の過程として考察したものですが、その後の十年が、ちょうど2001年の9・11から2011年の3・11へといたる時期だったので、新たに「9・11とメディア:現実のイメージの逆転」「3・11のクロニクル」といった章を加えました。ページ数も百ページほど増えています。
 
B:タイトルにもある「20世紀思想」とは、どのような意味で使われているのでしょうか?
塚: 今述べたとおり、「20世紀」は単純な百年の区切りというより、西欧近代が提案した「人間」が「非人間」的な変貌をとげる時代であり、この意味では「20世紀思想」とは、19世紀末に始まる「人間」の問い直しのパラダイムシフトから、全体主義と消費社会の「モノ化する」人間の思想をへて、自己正当化の言説への不信を説いたポストモダン以後へといたり、さらに21世紀に入って加速された管理不能な出来事の考察までを包括する概念だといえるでしょう。
 
B:本書と併せて読むことを薦めたい書籍はありますか?
塚: 今回の本の参考文献を見ていただきたいのですが、やや視点を変えて文庫・新書からお勧めすれば、今村仁司『現代思想のキーワード』(講談社現代新書)は、すでにレトロ感があるとはいえポストモダン以前の思想の理解状況を知る上で役に立つでしょう。また、渡辺哲夫『二〇世紀精神病理学史』(ちくま学芸文庫)は「非理性的時代」としての20世紀についての重要な書物であり、石田英敬『自分と未来のつくり方:情報化社会を生きる』(岩波ジュニア新書)は、20世紀思想史をメディア論からわかりやすく、的確に論じた好著です。
 
B:今後の塚原様のご予定(刊行関連イベントなど)はありますか?
塚: いまのところ予定はありませんが、何か企画したいとは思っています。
 
インタビューは以上です。
ご協力くださった塚原先生、ありがとうございました。
 
個々人の「命の重み」というイメージがどのように形作られ、また近代から現代に至るまでにその「命の重み」がどのように形骸化し軽んじられるようになっていくのか、「理性」「主体」「群集」「狂気」「無意味」「未開」「非人間化」「モノ化」といった概念群によって説き明かしていくものだと思われます。
併読推薦図書として挙げられた中の1冊自分と未来のつくり方:情報化社会を生きる』(岩波ジュニア新書)の著者・石田英敬氏は、東京大学情報学環の学環長でもともとはフランスの象徴主義最大の詩人として知られるマラルメの研究者でもあります。最近はジャック・デリダの弟子の一人で銀行強盗の前科のある哲学者B.スティグレールとの対話を通して、現代的な技術環境のなかでの人間性や倫理を広く世に問うスタンスが興味深いと個人的には思っています。
10月にフランスのリヨンで開催された東大フォーラム2011・情報学環シンポジウムでは、「日本のメディア文化:カタストロフィとメディア」と題して、吉見俊哉氏・スティグレール氏を迎えて議論をインターネットライブ中継で公開していました。そこでスティグレール氏も「非人間化」に言及していました。
 
【関連リンク】
芸術の陰謀―消費社会と現代アート [著]ジャン・ボードリヤール – 横尾忠則(美術家) – 書評 BOOK asahi.com
J.ボードリヤールの『芸術の陰謀』と画家の逆ギレ – Ohnoblog 2
塚原史氏が翻訳したボードリヤールの『芸術の陰謀 消費社会と現代アート』について、美術家・横尾忠則氏が朝日新聞に書評を寄稿。
その書評に対してアーティスト症候群—アートと職人、クリエイターと芸能人の著者である大野左紀子氏がブログで「JBの鋭利なウォーホル評価を読み取ってないような今更な擁護ぶり」と指摘。もともとスキャンダラスなボードリヤールの言説を巡って、現代美術界の大物である横尾氏と、元「アーティスト」である大野氏が対立するかたちになっています。

塚原史『20世紀思想を読み解く──人間はなぜ非人間的になれるのか』: ものろぎや・そりてえる
書評。簡潔に整理されています。
 
シンセサイザーがわかる本 ~予備知識から歴史、方式、音の作り方まで ~ スタイルノート – 本が好き! Book ニュース
「非人間的な音」と言われることの多いシンセ音。
インターネットと同様、電気的な音響技術が軍事技術と深く結びついていたこと、またその「非人間的な音」が人間性への懐疑という社会的な風潮とマッチしていたことがシンセサウンドやテクノの人気の背後にあるということはあまり知られていません。本書はシンセサイザーについての幅広い紹介が目的なので、思想的な背景にはあまり触れられていませんが、教養としてシンセの仕組みについて知っておくことは有益だと思います。
なお、電子音による現代音楽は第二次大戦後になってから大戦の非人間性を自己批判するなかで発展してきたという経緯もあり、とても興味深い問題系です。
上述の哲学者スティグレールも、フランスの音響音楽研究所の所長を2006年まで務め、現在も技術開発部長として在籍しています。
 
規範とゲーム: 社会の哲学入門勁草書房 – 本が好き! Book ニュース
情報セキュリティの思想: インターネットにおける社会的信頼の創造勁草書房 – 本が好き! Book ニュース
テクノロジーとイノベーション―― 進化/生成の理論みすず書房 – 本が好き! Book ニュース
メディア論 ブックガイドシリーズ 基本の30冊人文書院 – 本が好き! Book ニュース 1
「情報化社会」と呼ばれる現代にあって、人々がどのような状況にあるのかを分析した書籍たち。
 
言説、形象(ディスクール、フィギュール)法政大学出版局 – 本が好き! Book ニュース
塚原氏が翻訳したボードリヤールも非人間的なものに注目していましたが、同じフランスの哲学者リオタールもかつて「非人間的なもの」を論じていました。
それも前述の現代音楽との関連で、非常に興味深いです。
 
荻上チキ『セックスメディア30年史 欲望の革命児たち筑摩書房 – 本が好き! Book ニュース
荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ光文社 – 本が好き! Book ニュース
3/11直後に立て続けに刊行された、若き批評家・荻上チキ氏の書籍。
石田英敬氏門下出身でメディア論に明るい荻上氏独特の「人間」観を読み取ることができます。
荻上氏の著作では社会的な身体~振る舞い・運動・お笑い・ゲームもオススメです。
 
ビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略 – 本が好き! Book ニュース
野村総研の主任コンサルタントによる、巨大なデータを扱うWebサービスの未来を論じた新刊。
落語を聴くのを趣味とする怪人が見通す、「何を知りたいのか(google)」「何を買いたいのか(Amazon)」「誰と仲がいいのか(facebook)」など、人間性がデータによって可視化され、統計技術によって分析され、ビジネスへと活用されていく環境を知ることは、ある意味で人が徹底的に「モノ化=データ化」する状況を知ることでもあるでしょう。
 
デジタルスーパースター列伝―実録!電脳界の暗部に生きる孤高の偉人密着ルポ! – 本が好き! Book ニュース
インターネット黎明期、それ以前からアングラ界を跳梁していた著者・クーロン黒沢氏による、彼が出会ってきたIT怪人たちのルポ。
携帯電話の普及以前、アナログ電話をハッキングしたり衛星電話に大金をつぎ込んだりした男に始まり、デジタル環境に過剰に適合しその快楽に身を投じた結果、一般人からは異常者としか見られないような人生を歩むことになった人達の、ある意味では最も人間くさい奇行の数々を生々しく読むことができます。
ちなみに先述のビッグデータビジネスの時代 堅実にイノベーションを生み出すポスト・クラウドの戦略と本書はいずれも11月の新刊としてほぼ同時に発売されるもの(版元は別々です)。アセンション=人間の意識の次元が上昇するという説は明らかに眉唾ものなのですが、こういった環境や認識論を見つめなおす機会が増えることによって、人間観がバージョンアップされるということは案外タイミング的には正しいのかも知れません。
 
ゾンビ映画大マガジン洋泉社 – 本が好き! Book ニュース
ゾンビの作法 もしもゾンビになったら太田出版 – 本が好き! Book ニュース
ウォーキング・デッド飛鳥新社 – 本が好き! Book ニュース
ジョージ・A・ロメロ監督によって提起されたといわれる「ゾンビ=消費社会の大衆」というモデルが、ロメロ自身を含む多くの製作者たちによってどのように語られてきたのか、これも概観しておきたい問題系だと思います。
 
ボードリヤールなんて知らないよ明石書店 – 本が好き! Book ニュース
塚原氏が翻訳した、ボードリヤールの入門書。よみやすくてオススメです。
 
・本が好き! ジャン・ボードリヤール『芸術の陰謀―消費社会と現代アート
10月に刊行されたボードリヤールの書籍の新訳。
 
・本が好き! フリードリヒ・キットラー『グラモフォン・フィルム・タイプライター
先日亡くなったメディア論者・哲学者のキットラーの主著。
ところどころ胡散臭い記述もありますが、メディアと人間観の変遷を追うのに最適な書籍。
 
・本が好き! 東浩紀『サイバースペースはなぜそう呼ばれるか+ 東浩紀アーカイブス2
M.マクルーハンのグーテンベルグの銀河系から語り始め、視覚論からITにおける知覚や表象分析を通して思想的な問題を扱った初期の論考をまとめたもの。
現在連載中の小説パラリリカル・ネイションズにまで通底する認識論が展開されていると言えるでしょう。
 
 
 
============================================================================
【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々とし、現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
「アセンション」というのは、僕の高みに人々が昇ってくることに過ぎない、と日頃から嘯いています。
============================================================================
「BOOKニュース」では出版系のイベントからマニアックな新刊情報まで、本に関する情報を収集して紹介しています。
ユニークな本を出される出版社様、紹介させていただきたいので是非BOOKニュース宛に新刊を送ってください!
RSSフィード購読はこちら。
twitterアカウント(@honzuki_news)でもときおり呟いております。

コメント

コメントの投稿

コメント(必須)