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ゾンビもいいですが、吸血鬼も地味に流行っている気がします →『吸血鬼と精神分析』光文社

難解な精神分析理論を樹立したことで知られるジャック・ラカンをモデルにしたキャラクターと、フランス現代思想を代表するトンデモ理論家とも言われるジュリア・クリステヴァをモデルとしたキャラクターが登場し、ストーリーの本筋をなす国際諜報戦や連続殺人事件とはほとんど関係のない記号論的・哲学的・神学的な論争が延々と繰り広げられる800ページの大著、それが10月に光文社から発売された笠井潔吸血鬼と精神分析です。誰がこんなマニアックな作品を読むんですか?
「それは僕のような変態です」というのが回答になるのだと思うのですが、しかしこの本、ジュンク堂池袋本店では1回レジ前に平積みされていた注目の新刊でもあるわけで、「僕のような変態」もさほどマイノリティでもないのだなあと少しだけ感慨にふけってしまいました。
 
吸血鬼と精神分析 書影
 
話の大筋は、登場人物や設定の奇抜さから考えるとアクロバティックなところはほとんどなく、普通のミステリのように安心して読めます。
さすがに抽象的で難解なことで知られるラカン理論の解説のところは、そう簡単に読みこなせないのですが、数学ガールよろしく、難解な部分は読み飛ばしていいと思います。
主人公の女子大生ナディアと、名探偵的な役回りの日本人・矢吹駆との微妙な距離感を楽しむもよし、もう一組の主人公ともいえるナディアの父であるモガール警視とその相棒バルベス警部の掛け合いを読むもよし。
個人的にはクリステヴァの理論の骨子をとてもわかりやすく紹介してくれる良書です。
 
本書は、1979年のバイバイ、エンジェルで始まった矢吹駆シリーズの第6弾。
作者の笠井さんが参加している限界小説研究会の活動もとても面白いですが、実兄である名編集者の故・矢代梓さんの年表で読む二十世紀思想史と読み合わせることをオススメします。
 
それにしても、昨今の吸血鬼ブームはほんとうに興味深いです。
以前に黒薔薇アリスを紹介したときに「『マンガのキャラクター』の不死性のせいか、不死という設定はマンガで一番よく映えるのではないか」と書きました。マンガと違って視覚に訴えない分、あやふやな抽象概念や超自然的な存在を描写しても説得力を失わないのは小説ならではの特性を活かしていると言えるでしょう。
 
【関連リンク】

ブルガリアの博物館で「吸血鬼」の遺骨公開へ、100体以上発見 | 世界のこぼれ話 | Reuters

かつてブルガリアで行われた「吸血鬼狩り」の被害者の遺骨が発見され、このたび公開されることになったというニュース。
 

ニュース – 文化 – ブルガリアの吸血鬼、鉄杭と抜歯の意味 – ナショナルジオグラフィック

中世ヨーロッパでの吸血鬼進行についての記事。
なるほどー。
 
吸血鬼と精神分析 [著]笠井潔
 - 斎藤環(精神科医) – 書評 BOOK asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

ラカンの思想を紹介する著書で知られる斎藤環氏による書評。
 
ウラゲツ☆ブログ : ラカンが待望の文庫化!『二人であることの病い』講談社学術文庫
ラカンの初期論文集が文庫化されたというニュース。
関連書籍の書影多数。ラカンの写真が表紙になっている『パラノイア性精神病』『家族複合』の書影を見るかぎり、ラカンの風貌はかなり吸血鬼っぽいです。
 
「ドラキュラ」の作家ブラム・ストーカーの日記、100年の時を越えて発見される – GIGAZINE
「ドラキュラ」の作者ブラム・ストーカーの日記が子孫によって発見されたというニュース。
吸血鬼小説の手軽な概説としても読める良記事です。
 
魔女論 ~なぜ、空を飛び、人を喰うか~ – 本が好き! Book ニュース
ラカン派精神分析の治療論 理論と実践の交点誠信書房-編集者インタビュー – 本が好き! Book ニュース
僕の妹は漢字が読める(ホビージャパン)-ラノベの最先端?! – 本が好き! Book ニュース
言説、形象(ディスクール、フィギュール)法政大学出版局 – 本が好き! Book ニュース
 
・本が好き! オイディプス症候群
・本が好き! 探偵小説論序説
本書の前作となる矢吹駆シリーズ第5弾『オイディプス症候群』と、ミステリ論である『探偵小説論序説』は、第3回本格ミステリ大賞を小説部門と評論・研究部門とのそれぞれで受賞。
ちなみに『オイディプス症候群』は乙一のGOTHと同時受賞。『探偵小説論序説』は高山宏殺す・集める・読む 推理小説特殊講義ほかを抑えての受賞です。
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々とし、現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
最近は映画『モテキ』にメルツバウが出てこなかったことが気に障りました。
秋田昌美の本の装丁をしていた宇川直宏は一瞬出てきてたのに!
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