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【新刊】『都城の系譜』京都大学学術出版会

1970年代に6万人近くあった商店街の歩行者通行量が30年を経て激減し、2000年代には1万人程度になってしまったという群馬県前橋市の駅前商店街。今では全国有数のシャッター街となり、「町おこし」のために1000人以上の参加者による巨大合コンを開催するなど様々な試みが展開されている。ライフスタイルや交通事情の変化、全国的な景気の低迷などの要因が考えられるが、都市計画の失敗も原因としてあげられるだろう。だが、どのようなモデルで計画すればシャッター街化を避けられたのだろうか。
ノーベル賞を受賞した経済学者クルーグマンの著書自己組織化の経済学の理論に基づいて、建築家の柄沢祐輔氏が提案している「中心が移動し続ける都市」とというプランは、かなり興味深い。「特定の区域を都市の中心部として決めてしまうと、周縁部が生まれて荒廃する」という経済的な必然を前提として、その前提を逆手にとり、「周縁地域が荒廃するなら、中心部を動かしてしまえばいいじゃないか」というモデル。都市が空間経済学的にみて必然として抱え込む格差の発生を、あらかじめ見込んでコントロールしようという発想である。
もっとも前橋市の場合は中心地じたいが荒廃してしまっている状態のため、動かしようにも中心地がない可能性もある。
 
ところで11月には、京都大学名誉教授で人文地理学者の応地利明氏による集大成的著作都城の系譜』(京都大学学術出版会が刊行される予定だ。
本書は、紀元前に遡る古代インドの計画都市=都城の思想から、古代インドと古代中国のグリッドパターンの計画都市に対する思想の比較、そして東南アジアと中国における計画都市の「バロック的展開」、長安でバロック化を完成させた中国の都城思想が日本を含む周辺地域にどのように伝播したのか、都城思想をもつアジアともたないアジア/都城思想とイスラーム世界の比較までを語る1冊。
 
都城の系譜 書影
 
古代から近代に至る静的な宇宙観に基づく都城の系譜と、現代の動的な資本主義経済を前提にした都市計画と、対比して読むと面白いだろう。
※冒頭で言及した柄沢氏も、中国・瀋陽市での大規模都市開発計画を担当している。瀋陽市の中心部には、世界遺産の故宮があり、開発面積は1.2km四方の旧市街全体に及ぶ。このプランでは、景観保全のために旧市街全体に高さ制限があるため、地下空間を利用することになったという。複雑なアルゴリズムを用いて地下空間をデザインすることで、単調な空間の連続に陥らないようにしている。「中心が移動し続ける」というわけにはいかないが、刺激的な都市空間が実現されると思われる。
 
以下は、「貫徹する皇帝のヴィスタ」とか「平安京—タブローとしての「バロック化」都城 日本古代都城の完成作—「エチュード」の集成」とか、何故か厨二魂を刺激するタイトルがあって楽しい目次。
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はじめに—都城研究革新のための視座
図表一覧
写真一覧
 
第1部 古代インドと古代中国の都城思想
第I 章 古代インド世界の都城思想
I—1 『ラーマーヤナ』が語る理想の都城
I—2 『マーナサーラ』の都城思想
(1) 選地のヴァルナ(四姓)論
(2) ナンディヤーヴァルタ型都城—記載内容の整理
(3) ナンディヤーヴァルタ型都城復原の先行研究
(4) ナンディヤーヴァルタ型都城—復原私案
I—3 『アルタシャーストラ』の都城思想とその形態復原
(1) 『アルタシャーストラ』における都城記載
(2) 『アルタシャーストラ』にもとづく都城復原—研究史
(3) ヒンドゥー都城思想—コスモロジーと都城
(4) 『アルタシャーストラ』が語る古代インド世界の都城—復原私案
(5) インド都城の「聖なるかたち」—同心正方周帯の積層
 
第II章 古代中国世界の都城思想
II—1 ふたたび「都」と「城」をめぐって
II—2 中国的コスモロジーと都城の思想
(1) 天と地の〈非連続的連続〉—「天円地方」と「天帝天子」
(2) 『周礼』「考工記」「匠人営国」条—古代中国世界の都城思想
(3) 『周礼』にもとづく中国都城の形態復原
 
第III章 古代インドと古代中国の都城思想比較論
III—1 タテ・ヨコ3街路・12市門をめぐって
III—2 都城思想・都城形態の比較
(1) 都城とコスモロジーの意味連関
(2) 都城核心施設
(3) 都城形態の基本構造
第IV章 古代インドと古代中国における初期都市の同型性—城砦・市街地の空間的二元性
IV—1 インダス文明都市—カーリーバンガンとドーラーヴィラー
(1) カーリーバンガン
(2) ドーラーヴィラー
IV—2 華北文明都市—斉国王都・臨と「戦国七雄」の王都
(1) 「西城東街」・「西高東低」—斉国王都・臨
(2) 中国初期都市の空間編成—「戦国七雄」の王都
IV—3 インダス文明都市と華北文明都市の形態比較
IV—4 インダス文明以後の古代インド世界の方格都市
(1) シルカップ
(2) シシュパールガル
 
第2部 都城のバロック的展開
第V章 東南アジアでのインド都城思想の受容とバロック的展開
V—1 なぜインド都城の「バロック化」を東南アジアで?
V—2 東南アジアの「インド化」をめぐって
V—3 東南アジア大陸部における都城展開
(1) アンコール・トム—「中央神域」の都城
(2) スコータイ—「中央神域」と「中央宮闕」の並立都城
(3) アユターヤー—「バロック化」都城
 
第VI章 中国都城のバロック的展開
VI—1 始皇帝以前=〈都市国家・秦〉—櫟陽と王都・咸陽
(1) 王都・櫟陽
(2) 王都・咸陽
VI—2 始皇帝以後=〈領域国家・秦〉の都城・咸陽
(1) 都城・咸陽—2つの都市像
(2) 都城・咸陽の多核編成
(3) 都城・咸陽の基本建設構想
VI—3 前漢・長安—家産制領域国家の都城
(1) 前漢・長安の建設過程
(2) 前漢・長安の読解〈1〉—市壁・市門
(3) 前漢・長安の読解〈2〉—市
(4) 前漢・長安の読解〈3〉—庶民住区
(5) 前漢・長安の読解〈4〉—宗廟・社稷
(6) 前漢・長安の読解〈5〉—宮域
(7) 前漢・長安の読解〈6〉—鼎立する3つの軸線
(8) 「バロック化」の胎動
VI—4 後漢・洛陽—官僚制領域国家の都城
(1) 漢帝国の断絶と継承—前漢・長安から後漢・洛陽へ
(2) 後漢・洛陽の読解〈1〉—市壁・市門
(3) 後漢・洛陽の読解〈2〉—宮域・南北都城軸線
(4) 「バロック化」への助走
VI—5 北魏・平城—北方遊牧集団の建設都城
(1) 平城遷都—遊牧空間と農耕空間の交界都市
(2) 北魏・平城の建設過程—『魏書』の記載から
(3) 北魏・平城の形態探求—考古調査から
(4) 北魏・平城の都城復原私案A・B
(5) 参照系としての・北城
(6) ・北城と北魏・平城—形態的相同性
(7) 平城・外城—グリッドパターンと里坊制
(8) 孝文帝の登場—平城の漢族的・儒教的改建
VI—6 北魏・洛陽—「バロック化」への疾走
(1) 平城から洛陽へ—漢化政策の最終章
(2) 北魏・洛陽=先行2系列の結節都城
(3) 北魏・洛陽の都城構成—「守旧」と「進取」
(4) 中国都市史のなかの北魏・洛陽
(5) 「バロック化」の本格展開
VI—7 隋唐・長安—「バロック化」の完成
(1) 隋唐・長安読解への視座—「進取」と「同化」
(2) 隋・大興城の建設—基本構想と実施設計
(3) 『周礼』理念の包摂・同化—「異端の都城」論批判
(4) 「バロック化」の完成—貫徹する皇帝のヴィスタ
VI—8 都城と民居・住宅の共進化—起動因としての北方遊牧集団
 
第VII章 中国世界周辺での中国都城思想の受容とバロック的展開(1)—日本
VII—1 日本都市は「古代・近代化」にはじまる
(1) 「弥生都市」論をめぐって
(2) 文化・文明・「古代・近代化」
VII—2 メタ都市としての飛鳥浄御原宮エリア
(1) 小墾田宮における「継承」と「革新」
(2) 飛鳥浄御原宮—宮処と都市性
VII—3 藤原京—エチュード(習作)としての都城
(1) 「最初の都城」建設への曲折
(2) 宮域における「継承」と「革新」
(3) 京域復原の研究史—岸説から大藤原京説へ
(4) 『周礼』は大藤原京建設の典拠か
(5) 楕円的王権空間の創出—藤原京と伊勢神宮
(6) 藤原京の「革新」性
(7) 藤原京から平城京へ—「エチュード」の挫折
VII—4 平城京—中国「バロック化」都城の翻案
(1) 既定の選地と建設過程
(2) 中国「バロック化」都城の学習・翻案
(3) 平城京と隋唐・長安(1)—総論的形態比較
(4) 平城京と隋唐・長安(2)—各論的形態比較
VII—5 長岡京—「刷新の都城」の挫折
(1) 王朝刷新の遷都—副都・外港の吸収一元化と渡来人ネットワークの動員
(2) 「桓武帝=始皇帝」・「長岡=咸陽」見立て論
(3) 基本構成と「水・陸の便」—朱雀大路と港津
(4) 宮域と京域—平安京への架橋
VII—6 平安京—タブローとしての「バロック化」都城
(1) 日本古代都城の完成作—「エチュード」の集成
(2) 「バロック化」の諸相
(3) 平安京の「再都市化」—中世京都への胎動
 
第VIII章 析出核A2周辺での中国都城思想の受容とバロック的展開(2)—ヴェトナム
VIII—1 タンロン(昇龍)—ヴェトナム最初の都城
(1) タンロン都城の建設
(2) タンロン都城遺跡の発見と復原の試み
(3) 李朝・タンロン都城の形態考察
VIII—2 フエ(順化)—19世紀ヴェトナムの都城
(1) フエ都城「京師」図の検討
(2) フエ「皇城内」図の検討
 
第IX章 都城思想と2つのアジア—イスラーム世界の位置づけ
IX—1 都城思想をもつアジアともたないアジア
IX—2 都城思想とイスラーム世界
(1) イスラームの建設王都—マディーナ・アッサラームを例として
(2) 円形都市とコスモロジーをめぐる諸論
(3) なぜマディーナ・アッサラームを都城とよびえないのか
(4) ペルシア世界における円形都市の系譜
 
第3部 18世紀ヒンドゥー世界両端の建設都城
第X章 ジャイプル—近世インド世界の「バロック化」都城

X—1 ジャイプルの建設—山稜から平原へ
X—2 都市形態と街路構成をめぐる2つの未解決問題
(1) 「プラスタラ」型都市形態と街区編成
(2) 「街路走向の偏角15度問題」と「ブロック配置の不規則問題」
X—3 ヒンドゥー「バロック化」都城・ジャイプル
(1) 「中央宮闕」—「ブラーフマ・シュターナ」の漂流
(2) 真中心に屹立する宮殿—都城のメール山
(3) 貫走する都城軸線—「バロック化」の実現
X—4 「バロック化」と寺院配置
X—5 「プラスタラ」型・重商主義都市の創出
X—6 王家博物館所蔵絵地図の解読
 
第XI章 チャクラ・ヌガラ—近世バリ世界の「バロック化」都城
XI—1 チャクラ・ヌガラ建設前史
XI—2 バリ・ヒンドゥー・コスモロジー—方位と三体編成
(1) バリ村落の「かたち」とコスモロジー
(2) バリ王都の「かたち」とコスモロジー
XI—3 チャクラ・ヌガラ都城の基本構成
(1) チャクラ・ヌガラとその周辺
(2) 街路・街区編成と当初形態の復原
XI—4 チャクラ・ヌガラ都城の形態解読(1)—外形的検討
(1) 都城名「チャクラ・ヌガラ」が含意するもの—その多義性
(2) 三体編成〈1〉—「鳥」としてのチャクラ・ヌガラ
(3) 三体編成〈2〉—「蓮華座・玉座」としてのチャクラ・ヌガラ
(4) 「鳥」と「蓮華座・玉座」をむすぶもの
XI—5 チャクラ・ヌガラ都城の形態解読(2)—内部編成
(1) 残る2つの三体編成—都城と寺院配置
(2) チャクラ・ヌガラ都城中心域の形態検討
XI—6 「庶民の空間」の現況調査
(1) 中心商業地区の構成
(2) 住宅地区のエスニック・宗教・ワルナ構成
XI—7 チャクラ・ヌガラ都城の形態特質とその意義
 

あとがき
索  引
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【関連リンク】
王権と都市の形成史論 (弥生時代政治史研究)吉川弘文館 – 本が好き! Book ニュース
都市の戦後 雑踏のなかの都市計画と建築東京大学出版会 – 本が好き! Book ニュース
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展覧会カタログ+論考集『floating view ”郊外”からうまれるアート – 本が好き! Book ニュース
 
・本が好き! a+u (エー・アンド・ユー) 2011年 10月号 特集:マンハッタングリッド200年
現代を代表する建築家レム・コールハースの記念碑的都市論錯乱のニューヨークの柄沢氏による再読を収録。
『錯乱のニューヨーク』はグリッド論だという。
 
・本が好き! アーキテクチャとクラウド―情報による空間の変容
・本が好き! 設計の設計
・本が好き! アジア都市建築史
・本が好き! 曼荼羅都市―ヒンドゥー都市の空間理念とその変容
 
「中心が移動し続ける都市」について考えてみる – Good Life, Good Economy
冒頭で言及した柄沢氏の作品を、柄沢氏の発言を引用しつつ紹介する記事。
末尾で同世代の他の建築家の都市計画論についても触れている。
 
アルゴリズムで表層と深層を架橋せよ | 柄沢祐輔+南後由和+藤村龍至
‹ Issue No.47 ‹ 『10+1』 DATABASE | テンプラスワン・データベース

雑誌『10+1』の特集「東京をどのように記述するか?」号に収録された鼎談。
『錯乱のニューヨーク』を参照しながら、東京のビルの高層化について議論するところから開始されています。
 
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々とし、現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
最近は映画『モテキ』にメルツバウが出てこなかったことが気に障りました。
秋田昌美の本の装丁をしていた宇川直宏は一瞬出てきてたのに!
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「BOOKニュース」では出版系のイベントからマニアックな新刊情報まで、本に関する情報を収集して紹介しています。
ユニークな本を出される出版社様、紹介させていただきたいので是非BOOKニュース宛に新刊を送ってください!
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