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スティーブ・ジョブズを本気で語るために読んでおきたい8冊

[Text by 本が好き!編集長 根岸智幸]

Jobs photo

 
2011年10月5日、アップルの共同創業者で前CEOであるスティーブ・ジョブズが逝去した。
ジョブズはアップルとピクサーという米国のIT技術と文化を象徴する2つの企業を興し、多くの画期的なヒット商品を生み出して世界をパーソナル・コンピューティングの時代へ導いた巨人であり、その動向は近年世界中の注目を集めていた。
 
ここ最近は、大きな書店にいけば、ジョブズとアップルをテーマにしたビジネス書がずらりと並び、その成功にあやかろうとする人々の気持ちを煽り続けている。
 
しかし、これらのサクセス本ばかりを読んでも、ジョブズの本質が見えてくることはない。彼が何をして成功したかを読んで真似しても猿まねになるだけだ。大事なのは、歴史と環境がスティーブ・ジョブズという人間をどう動かし、どう変えていったのか。ジョブズが、本当に成したこと、成そうとしたことはなんだったのか。それを知ることこそ、自分の人生やビジネスの指針になるだろうと思う。
 
そういう視点で、ジョブズを語る上で欠かせない、いわゆる「ジョブズ本」ではない本を紹介していきたい。
絶版のものも多いが、Amazonのマーケットプレイスなど中古市場で手に入るものも多い。
あとは図書館で探してみてほしい。
 
 
●「スティーブ・ジョブズは何を作ったのか?」
ジョブズは、世界初の本格的なパソコン「AppleII」を作りだし、マウスとウィンドウで操作する現在のGUI(=グラフィックス・ユーザー・インターフェイス)というスタイルを誰でも利用できるようにすることで、パソコン時代の先陣をきった。
しかし、90年代に世界を制したのは、後発だったマイクロソフトの「Windows」だった。
このため、熱心なMacファンとWindowsユーザーの間で、「どちらが優れているか」「どちらがオリジナルか」という論争が絶えない。その際、よく言われることが「WindowsはMacの真似だ」「Macだってゼロックスの真似だ」という話。
しかし、Macの元になったといわれるゼロックス・パロアルト研究所の「Alto」がどんなコンピュータだったのか、どんないきさつで、その技術がアップルに流れたかをきちんと知っている人は少ないだろう。
「未来をつくった人々―ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明」は、パロアルト研究所の設立から初期の活動の変遷を克明に描いた本で、世界初のパーソナル・コンピュータ「Alto」や、その上で動くGUI環境「SmallTalk」の開発の経緯が詳しく書かれている。ジョブズが登場するのは終盤だが、ゼロックスの貴重な技術がアップルにどのように流れたかも知ることができる。
それだけでなく、ジョブズのもうひとつの功績であるピクサーのCG技術も、初期のMacを支えたアドビのDTP技術も、さらに現在のインターネットの通信インフラ技術も、ゼロックス・パロアルト研究所が源流だったことが明らかにされている。
そして、それらの膨大な技術を抱えながらもゼロックスが自らの手で世界を変えることができなかったことを知ることで、逆にジョブズが成したことがなんだったのか、考えられるだろう。
「どっちが本家で、どっちが真似した」という論争がいかにつまらなく下らないものか。それを知るためにも読んでほしい。

未来をつくった人々―ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明
未来をつくった人々 書影
 
 

●「スティーブ・ジョブズの最初の成功とアップル伝説の始まり」
1970年代後半にパーソナル・コンピューティングの時代が産声をあげた。
インテル、モトローラ、ザイログといった半導体メーカーが競ってマイクロコンピュータのCPUを開発・販売し、それを使った個人用コンピュータを販売するショップやベンチャー企業が現れだした。
その中において、アップル・コンピュータが発売した「AppleII」は、美しいデザインの筐体に収められ、家庭用のカラーTVにつなぎスイッチを入れるだけで使用可能になる世界初の家電的なパーソナル・コンピュータだった。
しかし、AppleIIが優れていたのは、そのデザインやコンセプトだけでない。ジョブズの友人で、アップルの共同創業者であるスティーブ・ウォズニアックによる天才的なハードウェアとソフトウェアの設計が、AppleIIを同時期の他のパーソナル・コンピュータから抜きんでた存在にした。
AppleIIのすぐれた設計は、多くの天才的な開発者を呼び込み、多くのアプリケーションや周辺ハードウェアが発明された。世界初の表計算ソフトウェア「VisiCalc」も世界初のコンピュータRPG「Wizardry」もAppleIIの上で作られ、現在のパソコン文化の源流となった。
この偉大なAppleIIの詳細を豊富な資料写真とわかりやすい技術解説で伝えてくれるのが「AppleII 1976-1986」だ。
ここでの主役はウォズニアックで、ジョブズはほんの脇役にすぎない。
逆にそれによって、ビジョナリとしてのジョブズがどういう役割を果たしたのかが見えてくる気がする。

AppleII 1976-1986
appleii 書影
 
 
●「スティーブ・ジョブズは、Macをどのように生み出したのか」
「Macintosh」ほど長く第一線で使われ、かつ愛され続けてきたパソコンのシリーズはほかにない。
またMacintoshの登場は、ジョブズによるIT革命の方向性を明確に位置づけたマイルストーンだった。
その方向性とは、既存の権威や習慣にとらわれず、世界の姿をITの力に変えていこうとする反逆児のやり方だ。
AppleIIの成功によって大企業となりつつあったアップルの中で、ジョブズは強引なやりかたでMacintosh開発プロジェクトを乗っ取り(!)、優秀な人材を集め、「海軍に入るより海賊になろう」とアジテーションして、まったく新しいパーソナル・コンピュータを開発させた。
そのときの模様を、開発の中心にいたアンディ・ハーツフェルドが当時のスタッフから話を集めてまとめたのがレボリューション・イン・ザ・バレー ―開発者が語るMacintosh誕生の舞台裏だ。
そこで描かれているのは、若くて無謀で横暴なジョブズの姿だ。なんの裏付けもなく、机の上に電話帳を一冊放り出して、「Macintoshの設置サイズはこの大きさにしよう」と決めてしまう。他人のアイデアを批判しまくったあげく、翌日に自分のアイデアとして採用してしまう。
しかし、そんなジョブズだったからこそ、Macintoshは他とはまったく違うクールなコンピュータになったのだと思えてくる。

レボリューション・イン・ザ・バレー ―開発者が語るMacintosh誕生の舞台裏
レヴォリューション・イン・ザ・バレー
 
 

●「スティーブ・ジョブズのNeXT泥沼時代」
1984年にMacintoshを発表して脚光を浴びたジョブズは、しかし翌85年にはアップルを追い出されてしまう。
初期のMacは画期的であったが熟成もパワーも足らず、当時ビジネス用途で売れていたIBM PCとその互換機のシェアを奪うには至らず、一部のコンピュータマニアの高価なオモチャにしかならなかった。
にも関わらず、ジョブズは社内で強引で自己中心的な振る舞いを続けた。それが会社を混乱させたとして、ジョブズ自身がペプシ・コーラから呼び寄せたCEOのジョン・スカリーに追い出されたのだ。
その失意から立ち直ったジョブズは新しい会社「ネクスト・コンピュータ」を興す。主に大学の研究所などを市場として想定した高性能なワークステーション「NeXT Cube」を製造販売する会社だ。
NeXT Cubeはその名の通り、真っ黒な完全な立方体のボディに、ハードディスクではなく当時最新のキヤノン製光磁気ディスク(MO)を採用していた。OSの「NEXTSTEP」は、BSD UNIXをベースに独自のオブジェクト指向フレームワークを組み合わせた最先端のもので、当時のMac OSやWindowsなど足下に及ばないほど複雑で高度なものだった。
ジョブズは、UNIXワークステーション市場でNo.1の座を誇るサン・マイクロシステムズを仮想敵とみなし、派手な宣伝やアピールを行ったが、その実績はサンにはとても届かなかった。
ジョブズの派手好きな性格と頑固さがわざわいして、会社は膨大な経費を垂れ流し、市場と投資家の期待を裏切り続けた。
そんな泥沼時代のジョブズを描いたのがスティーブ・ジョブズの道だ。現代の盲目的なジョブズ礼賛の声に流されないためにぜひ読んでほしいのだが、残念ながらすでに絶版になっている。
ちなみに原書のタイトルは「Steve Jobs & the Next Big Thing」。直訳すれば、「スティーブ・ジョブズと次のでかいこと」。この当時はジョブズは胡散臭い目で見られていたことがうかがえる。
それにしても、この泥沼時代に生み育てたNEXTSTEPが、後に「Mac OS X」や「iOS」に進化してアップルの飛躍的な成長の土台になったことを考えると、有名なスタンフォード大学の卒業式スピーチでジョブズが「無駄な努力などない」と語った言葉の重みを感じずにはいられない。
 
 
●「スティーブ・ジョブズが復活させたアップルは、本当に死にかけていた」
1996年、アップルは巨額の赤字を計上した。前年にマイクロソフトの「Windows 95」が大ヒットし、Macのシェアは縮小し続けた。かつては圧倒的な有利をもたらしていたMac OSの独自性はすでになく、Windows PCとの性能競争でPower PCにシフトしたMacのハードは高価で競争力に欠けていた。さらにMac OSのシェア拡大のためにとったMac互換機路線も失敗し、Macの市場を広げるよりも、アップルの顧客を互換機メーカーに食われる結果となっていた。
いずれ倒産か、それともサン・マイクロシステムズに買収されるかの2択しかないと言われていたアップルを、なんとか立て直そうと奮闘したジョブズの前のCEOギル・アメリオの体験談がアップル薄氷の500日だ。
デジカメなどに使われるCCD(光学素子)の発明者のひとりでもありながら、経営者としてナショナル・セミコンダクターの再建を成功させた実績をもってアップル再建を任されたアメリオの目を通して、当時のアップルの混乱ぶりが描かれる。
社内開発に失敗した次期Mac OSをアメリオはあきらめ、代わりに社外からOSを調達するべく、マイクロソフトの「Windows NT」、サン・マイクロシステムズの「Solaris」、元アップルのジャン・ルイ・ガセーが作った新興Be社の「BeOS」、そしてジョブズのネクスト・コンピュータのOS「OPENSTEP」の4つの中から選択しようとする。
結局、アメリオはOPENSTEPを選びネクストはアップルに買収されジョブズはアップルに返り咲く。創業者の帰還に市場は歓喜にわきたつが、その後、アメリオはジョブズにCEOの座を追われてしまう。このあたりは興奮モノだ。また、この本の冒頭にもジョブズが登場する意外なエピソードがある。
 
また、アップルの成長と混乱ぶりは、「アップル―世界を変えた天才たちの20年」でも確認できる。
とくに、IBMと合同で行ったオブジェクトOS「Pink」の失敗や、なぜPower PCが失敗したかなどを知ることができる。
アップル〈上〉―世界を変えた天才たちの20年
アップル〈下〉―世界を変えた天才たちの20年
アップル 書影
 
 
●「そして、ジョブズの来歴を改めて読む」
もちろん、ジョブズ自身の評伝もひとつは読んでおきたい。
スティーブ・ジョブズ-偶像復活は、ジョブズの生い立ちからアップルやピクサーの創業、そしてアップル復活劇からディズニーの筆頭株主になるまでを、ジョブズのプライベート事情(生みの親に里子にだされていたトラウマなど)を交えて描いたものだ。
 
発売直前にジョブズのお墨付きが貰えなくなって、アップル本社の書店から撤去されたといういわくつきの本だが、人間ジョブズを描いた本としてなかなかに読み応えがある。
スティーブ・ジョブズ-偶像復活
スティーヴ・ジョブス 偶像復活 書影
 
 
そして、11月21日に発売予定なのが、ジョブズ本人公認の評伝スティーブ・ジョブズだ。ジョブズが取材に全面協力したというこの本をいままで紹介した本と合わせて読むことで、新しいジョブズ像が見えてくるのではないだろうか。
スティーブ・ジョブズ I
スティーブ・ジョブズ II
スティーブ・ジョブズ 書影
 
 
 
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【本が好き!編集長 根岸智幸のプロフィール】
編集長という名前のパシリ。サーバの構築やプログラミングから、広告企画立案、ユーザ宛メールの下書きまで、なんでもやります。
 
元インターネットアスキー編集長(1997年)および、元アスキーPCエクスプローラ編集長(2002年)。
 
アスキーではハードウェアチューニングやCD-ROMによるマルチメディアマガジン、動画エンコードなどマニアックな企画で昔からいろいろ世間を先駆けてきた。
1996~97年のアップル買収騒ぎからジョブズ復帰のころには月刊アスキーのアップル担当として取材に奔走。
 
2000年にクチコミグルメサイトの先駆となった「東京グルメ」を企画&構築。しかしアスキーに「いらない」と言われて個人で運営を継続し、2004年にライブドアに営業譲渡。それが現在のライブドアグルメに。
2006年にライブドアで献本&書評コミュニティ「本が好き!」を企画&構築。これも回り廻って自宅運営を経つつ、現在は株式会社フライングラインのサービスとして、日夜、TwitterやFacebookでダベりながら開発と運営に励んでいる。
 
著書にTwitter使いこなし術』『Facebook使いこなし術』『Facebookもっと使いこなし術(いずれもアスキー新書)

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