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涼宮ハルヒのユリイカに驚愕!

[Text by 本が好き!Bookニュース編集部 ナガタ]
 
青土社(http://www.seidosha.co.jp/)から6月14日に発売された『ユリイカ』7月臨時増刊号の特集が「涼宮ハルヒのユリイカ!」ということで、かなり力の入ったものになっています。
今までもクオリティの高いアニメやマンガやライトノベル関連の特集をしてきた「ユリイカ」(詩と批評の雑誌なのに)ですが、今回は今までで一番クオリティが高いと言っても過言ではありません。
「ハルヒシリーズ」に並々ならぬ愛着を持った方が編集部にいらっしゃるのでしょうか。
ちなみに本誌表紙で、読書家キャラの長門さんが最前列センターにいるのは、「詩と批評」のユリイカだからなんですね。
ということで、今回の記事は『涼宮ハルヒのユリイカ!』を紹介します!

涼宮ハルヒのユリイカ! 書影


まず注目すべきは、「週刊読書人」で文芸時評を担当していた若き文芸批評家・坂上秋成氏による論考「涼宮ハルヒの失恋」。
「主人公であるキョンと、相思相愛であるようにほのめかされるヒロインの涼宮ハルヒ。
だが実はその恋愛は絶対に成就しないのだ」と分析する、かなり挑戦的な内容です。
論考の中でも触れられているとおり、恋愛を中心軸にしないマンガやラノベは昨今特に増えてきている印象があります。
しかし、その構造をここまで的確に指摘した論考は今まで存在しなかったのではないでしょうか。
僕の持論としては「世界改変能力を持っているのはハルヒではなくキョン」(犯人は読者だ、というメタミステリ的なトリックの変化形)なので、キョンとハルヒとの恋愛が成立しないということはすなわち、生身の読者がキャラクターとの恋愛を成就できないという深い、とても深い問題に絡んでくる話です。
他人をキャラクターとして認識してしまうような、メディアミックスが発達しすぎた現代で展開される恋愛では、ラノベ読者やオタクに限らない、多くの人々に共有される問題。
「あいつ、あんなヤツだとは思ってなかった!」という心の叫びは、裏を返せば、相手のキャラクター(人格)が自分の思い通りの設定ではなかったということへの不満でしかない、のかも知れません。

続く上田麻由子氏による「白鳥座α星の瞳 『涼宮ハルヒ』の<少女>のなかの少女」は、ハルヒが、「知らず知らずのうちに社会的に意味付けされていく思春期の少女の生き辛さ」に閉じ込められている、と指摘します。
これも「ハルヒシリーズ」を読んでいて常々感じていたことだったので、よくぞ書いてくれました!という思いです。

そして本誌で論考1本と資料2編という異例の活躍をみせている飯田一史氏による「涼宮ハルヒの競争」。
これは「ハルヒシリーズ」のファンでなくても必読でしょう。
クイック・ジャパンで「『ビジネス書なんか読まない』文科系のためのビジネス書入門」、という連載をしているだけあって、マーケティングのフレームワークや用語を使いながら、さながらビジネス書のように冷徹に「ハルヒシリーズ」が置かれているライトノベルの状況を解説していきます。
なんだか頭が良くなった気がするから恐ろしいです。
資料の『涼宮ハルヒの憂鬱』全話解題や、『涼宮ハルヒの憂鬱』&谷川流年表も壮絶の一言。
とても役に立ちそう。

さらに圧巻なのは、劇団「粋雅堂」を主催する異才・神田川雙陽氏による論考「谷川流は消失しない、のか?」です。
彼の主催する劇団は、オタクの二次創作的な想像力で物語を組み合わせる作品で一部に知られています。
その彼の劇団の話から、いつのまにか話題は人工知能と可能世界の最先端へとつながり、やがて「可能な物語の網」という数学的な発想が提示されます。
「可能な物語の網」というのは、ウェブサイトの各ページが細かく他のサイトや他のページ、SNS上の様々な発言やメールのログに含まれるハイパーリンクによるネットワークが、架空の物語に浸食されていくモデル。
現実とサイバースペースとが齟齬なく地続きになっていく感覚を味わえる、非常にスリリングな発想です。

詩人でもある仏文学者・中田健太郎氏による「セカイの開かれ」もかなり濃厚です。
「ハルヒシリーズ」のアニメ版をもっぱら論じながら、古典的映画監督であり映画理論の重要な基礎を築いたエイゼンシュテインによるディズニー批判にも触れて、アニメーションが持つ「キャラクター」と「背景」の断絶、そして天才・宮崎駿によるキャラクターが背景を統御するというスタンダードに対して、アニメ版「ハルヒシリーズ」と現代のアニメ作品群が、どのように超克を試みているのかということが論じられています。
凄い読み応えでした。

有村悠氏の「Haruhi Makes Revolution」は、『涼宮ハルヒの憂鬱』のアニメ版の放映当時に、YouTubeと2ちゃんねるとオリコンとがどのようなバズ現象を引き起こしていたかについての分析です。
その分析から、アニメ版『涼宮ハルヒの憂鬱』の第一話、ハルヒが自主映画を撮る動機にリンクしているという着眼に繋げる話の流れは素晴らしいの一言に尽きます。
話題はさらにニコニコ動画の黎明期から「踊ってみた」「弾いてみた」「歌ってみた」という動画のジャンルの発祥へと展開されていきます。

その「踊ってみた」「歌ってみた」動画がなぜ爆発的に増殖したのかについて分析を加えるのはアーキテクチャの生態系濱野智史氏。
インターネットの登場以来、そこに「身体性」が欠けていているという批判がなされてきたが、「ハルヒダンス」という形を通して、インターネット上に無数の生身の身体が現れているという指摘はなるほどと思わされました。
 
 
「本が好き!」では、kansasさんが『憂鬱』から『分裂』に至るシリーズのライトノベル版の全作レビューに挑戦しています。
gurgur717さんともゆきさんはさっそく「驚愕」の書評を書いています。
僕もこれを機会に全作読み返しマラソンとかに挑戦してみるつもりです。涼宮ハルヒの驚愕も『涼宮ハルヒの秘話』も届いたし。
関連リンクには、意外と知られていない(かも知れない)「ハルヒシリーズ」の関連本を列挙してみました。
(上述の、飯田一史氏の資料を参考にさせていただきました)

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