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今の日本が似ているのは戦中、戦後?『線量計と機関銃』トークショー

昨日は、東京大学駒場キャンパスで開催された、麻木久仁子×片山杜秀トークショーに行ってきました。
 
片山杜秀さんの近著線量計と機関銃の刊行を記念した、「年忘れ時事放談」と題されたこのトークショー。僕は少し遅れて到着しましたが、現代の世相を鋭く見つめながら、終始朗らかな、少し変わった雰囲気が会場に満ちていました。
 

 
まずは、今回のトークショーのきっかけになった『線量計と機関銃』の内容を簡単に紹介しておきましょう。
この本は、サントリー学芸賞と吉田秀和賞という重要な賞を受けた音盤考現学』『音盤博物誌という片山さんの二冊の本と同じシリーズの最新刊。
東日本大震災が発生した翌々日3月13日に書かれた文章から始まり、同じ月に放送されたラジオ番組が収められています。番組は3月、4月、と2012年の6月にいたるまで、毎月収録され、それらは本書の本文に採録されています。

  

 
片山さんは、地震から一月も経過していない3月25日放送分の番組のテーマを「敗戦と原発」とし、長期総力戦だった太平洋戦争に敗けた日本の状況と、高度成長期の果てに原発事故を引き起こしてしまった状況を重ね合わせ、そこに無視してはいけない現実を忘れてしまう空虚な精神主義という問題を指摘します。
 
また、「3・11と12・8」というものをテーマにした2011年6月の番組では、地震と原発事故によってこの国が陥った状況を、今度は敗戦ではなく、むしろ開戦(太平洋戦争の開戦は1941年12月8日)になぞらえます。
 
東日本大震災と福島の原発事故、そしてそれ以来の状況における混乱は、昨日のトークショーの主な話題でした。『線量計と機関銃』の内容に引きつけるなら、まず日本の政治体制の無計画な無秩序、そしてその上に展開される過剰で難解な情報の嵐を前に、誰も彼もが右往左往している、ということになると思います。
 
戦後の政治学者である丸山眞男は、戦時中の日本の政治体制と、ナチスにおける政治体制を比較して、ナチスの体制を「ヒトラーを頂点とする独裁体制」、日本の体制を「天皇を頂点とする独裁体制」として、責任をヒトラーがとるナチスの体制のほうが、天皇が責任をとらない日本の体制よりマシだ、と言いました。
これに対して、片山さんは「ナチスと割れ煎」で、ナチスの体制も一枚岩ではなく、もともとの内閣の組織とナチスの組織が二重化し、さらに戦時下ということで無数の新しい組織が乱立する「割れ煎」(割れた煎餅のような)状態だったことを指摘します。
ナチスと天皇制とで違うところがあるとすれば、ナチスはヒトラーが「割れ煎」状態の混乱に乗じて無責任に強権を発動できる「計画的な無秩序」だったのに対して、天皇制はなし崩し的に生じた「無計画的な無秩序」であることだ、といいます。
 
片山さんは、「ナチスと割れ煎」に続く放送で「3・11と12・8」をテーマにします。現代日本がおかれた状況の起点としての311と、太平洋戦争開戦の日を並べるのは、どちらも「ナチスと割れ煎」で指摘されたような無計画的な無秩序が支配していることを指しています。
太平洋戦争中、内閣と軍部は分裂しており、情報は共有されていませんでした。互いに秘密を抱えていたのです。さらに、戦時下という事で、新しい情報や、偽の情報が飛び交い、さらには情報統制のために必要な情報が制限されたりもしました。何重にもわたって、正しい情報が何か、わからない状態だったのです。
この戦時下の状態と、原発事故以降の日本の状態が似ているのではないか、と片山さんは語ります。
 
トークショーでは、片山さんはこれを「カオス化が進行している」と言っていました。
これに対して、麻木久仁子さんは「政治について語られるときに、そこでの権力がもつ危険性が忘れられてしまう傾向」を懸念していました。
 
片山さんはこれに対して「細分化されてしまい、全体が見渡せない状態では、権力の危険性を、自覚するのは難しいのではないか」と返します。
 
麻木さんは「確かに自覚することは難しいかもしれない、でも権力を暴力的にふるってしまってから、その責任が問われないという傾向もある」と指摘。
対して片山さんは、「緊急の事態においては、強力な権力と責任を負ったリーダーが求められるもの。今の日本もそう。しかし日本の体制は、そういった強力なリーダーを生み出しにくいものになっている」と発言。
 
やや悲観的な雰囲気になってきたところで、会場の時間切れとなり、トークショーは幕を下ろすことに。
 
…と、話題だけ書き出すと暗く絶望的な感じがしてしまうのですが、これはお二人の人柄ゆえなのか、会場の雰囲気は柔らかく、何度も笑い声があがっていました。
 
悲愴感がないのは良いのですが、しかし本当にこれから、どうしたらいいんですかね…
 
とりあえず、このトークショーは放送できるかたちに編集して、12月16日の早朝4時半からTOKYO FMでオンエアされるとのこと。それを聞き直しながら、あらためて考えないといけなさそうです。
 
なお、片山さんは今月、国の死に方という衝撃的なタイトルの新刊を出される予定とのこと。麻木さんが田村秀男さん、田中秀臣さんと刊行した日本建替論と対照的なタイトルで、併せて読んで考えるのが良いかも知れません。

  

 
 
【関連記事】

特集は「レコード*録音*記録」あのハードコア音楽言論誌の最新号


『線量計と機関銃』の最終章でも言及している吉田秀和追悼特集の巻頭対談に片山さんが登場。
 

アルテスパブリッシング『日本の作曲2000-2009』


音楽評論家として、現代音楽の最先端にも関わる片山さん。
21世紀に入ってからの日本の現代音楽、というなかなかフォローできないところについても前線で評論しています。
 
【関連ページ】

『未完のファシズム』 HONZ

麻木さんによる、片山さんの著書『未完のファシズム』書評。
 

今週の本棚:三浦雅士・評 『未完のファシズム』- 毎日jp(毎日新聞)

「すこぶる面白い。」と絶賛。
 
 

【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。

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