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書物も、音も、まとめサイトじゃないんだよ!「灰野敬二」の本と音

灰野敬二という音楽家というか、アーティストというか、ロックンローラーというか、とにかく特異な人物がいます。灰野敬二のことを知らない人に、彼のことを何と説明していいのか、ちょっと悩みます。神秘的な人物だとも言えるし、安易な神秘化を拒絶する人物だとも言える。「ライブに足を運んで、その音に身を委ねることで十分だ」と言い切ってしまえれば簡単なのですが、どうもそれだけでは何かが足りない気がするんです。生きた伝説でありながら、なかなか「わかりやすい説明」が難しい。そんな灰野敬二にまつわる、評論や対談、インタビュー、ディスコグラフィなどをまとめた捧げる 灰野敬二の世界が刊行されました。
 

今回は、学生時代に灰野敬二のライブに通っていたというライターの飯田一史さんに、この本の紹介をお願いしたところ、動画をたくさん挙げながら「とにかく聞いて」というスタンスの原稿を書いてくれました。何故途中でエヴァンゲリオンdisとか、『まどマギ』ネタが繰り返し挿入されているのか、それは謎です。
 

 

死んでしまったっ! ……おまえええええええええええええ!!!!!!!!!!!
 

いきなり何かと思うかもしれないが、僕が灰野さんのライブでいちばん印象に残っているのは、喉を裂くように発せられた上記のことば@今はなき法政大学学生会館大ホールである。
 

すごかった。
聴けばわかるし、聴かなければ一生わからないような凄さだった。
 

あ、どうも、ライター飯田です。この前、ユリイカ増刊・永野護特集の記事を書かせてもらい“音楽つながり”(あるいはキ○ガイつながり)ということで灰野敬二・初の単行本『捧げる 灰野敬二の世界』を紹介することになりました。
 

ナガタくんから「灰野さんの本について書きませんか?」とオーダーされたときは、
「あれ、なんでこいつ俺が大学生のとき一時期灰野さんに傾倒したあげく全身黒服+長髪にしてたこと知ってんだ?(言ったっけ???)」
と思ったんだけど(文字通り黒歴史……見た目が)、依頼を受けたあとしばらくのちに
「いまさら訊くのもなんですけど、飯田さん、灰野さんの音楽聴いてますよね?」
とか言われて、
 

動揺したね。
 

やつはメンタリストかもしれない。ぐぬぬ。
 

さて、まず灰野さんのことを知らないひとは観て/聴いてください
(音量注意!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

 

!!!???!??

 
意味わからん! ムリ!
と思ったひとは今すぐお引き取りください。
 
何これ? SUGEEEEE!!!
と思ったひとはおつきあいください。
 

「音量注意」とか書いたけど、ごめん、問題はスピーカーの音量じゃないんだ
うん、知ってた。
 

 

■僕と灰野さん
そんな灰野敬二の音楽を聴いてみようと僕が思ったきっかけは「スタジオボイス」のノイズ特集(2000年3月号)。さらに言うとスタジオボイスをときどき買うようになったきっかけはエヴァンゲリオン特集(いやあ、ヱヴァQは本当につまんなかった!!!)で、簡単に言うと
 

エヴァにハマる→わけわからんものを求めはじめる→QJやSVで紹介されてるものに触れるようになる
(編集部注:QJは『クイック・ジャパン』誌、SVは『スタジオ・ヴォイス』誌を指す略称)
というきわめて90年代的なルートを辿ったのであった……

  

 

ちなみにこの本の編集者として加藤彰氏とともにクレジットされている松村正人(a.k.a.南部真里)氏が担当したのがまさにSVのノイズ特集(あとサイケ特集もたいへん重宝しました)。ライターとして駆け出しのころ松村さんにはたいへんお世話になったので、ここでこの本を紹介するのも数奇な運命を感じるというかステマ臭がするというか。
※ステマじゃないです。
 

最初に買ったのはペーター・ブロッツマンとの共演盤だったかな?
圧倒されてみるみるうちに集めるようになり、明大前にあるアンダーグラウンド系の音源が充実してるレコード屋モダーンミュージックにたまに行くようになったり、新宿ディスクユニオンの6階に足繁く通ったりするような学生時代を過ごし、灰野さんが年末にやっていた法政大学学生会館大ホールでの不失者のライブにも4回行きました。2000年から2003年まで。
そこで冒頭書いたような叫びに遭遇し、感動したりしていたわけですね。
 
大学の友だちのヤマサキくんが僕の何倍か灰野好きで、ボランティアサークルにも入ってたのにサークル室にひとりでいるとき灰野さんのわたしだけ?をかけてたら

途中で人が入ってきて
 
「……大丈夫?」
 
とドン引きされながら声をかけられたとかいう話を聞いてゲラゲラ笑いながらふたりして大学サボって昼からビール呑んだりしてました。いまでいうビールクズですかそうですか。
※ちなみに灰野さんはヴィーガン(肉を食べない)でドラッグもアルコールもやりません。
 
社会人になってからは忙しくなったのと働きはじめて2年くらいカネが超絶なかったのと、(法政の学生でもないのに)よく行っていた学館がなくなったのとで灰野さんのライブからは遠ざかってしまったのだけれど、今でも尊敬しています。
 

 
■書物も、音も、まとめサイトじゃないんだよ
このへんからやっと本の紹介を。
 
この本は世界のアンダーグラウンドミュージックシーンで知らない者はいない灰野敬二についての書物ではあるのですが、完全に「一見さんお断り」のつくり。
灰野さんの語り下ろしの「はじめに」のあとはジム・オルーク、佐々木敦、後飯塚僚三氏との対談が続き、そののちヒグチケイコによる世界での灰野さんの評価のされかたについての論考、福島恵一によるディスコグラフィ、1970年から2012年までの活動記録、語り下ろしのインタビューという構成。
つまり、wikipediaとかNAVERまとめ的な「灰野敬二ってこんなひと」みたいなイントロとかわかりやすい経歴紹介とか、一切ない。
 
このまえ公開された灰野さんについてのドキュメンタリー映画ドキュメント灰野敬二では(まだ)そのへんの流れが「説明」されていたし、
映画合わせでこの本の企画も成立したのだろうから、
「灰野さんのファン」+「映画観たひと」しか買わない本だと思えばこの不親切さもわかる。

 
そうは言ってもパラ見した段階は商業出版の単行本として、どうかと思った。
自分だったら最低限、「灰野さんってどんなひと?」的な導入部をつくるかなと。
 
……でもね。
読み進めていて、思い直した。「ああ、このやりかたが正しいな」と。
 
灰野さんのことをよく知らないひとでも、本からことばを引けばわかる。
—–
僕が何をいいたいかというと、音楽はミュージシャンにとってはやった時点で終わるべきだと思っているということ。音をいじるというのは、そのひとの趣味とか作業だから、その部分を評価するということは、評価ということではなくて、自分を投影することだと思うから
でも結局、映画というのは覗く側と覗かれる側の関係でしょう。(中略)覗くということをもう少し具体的にいえば、そして、最大限弁護したとしても、ものごとを検証したいんだな、ということ。
僕はミックスという言葉がまず嫌いで、現代のポップアートがまったく嫌いだから。どうしてか。純粋に「ひとつ」のものがパワーをもっていれば、他の何かと結びつく必要はない。

—–
ようするにこの音楽家にとっては、編集する理由も、意味も、ないんだよ(←「奇跡も、魔法も、あるんだよ」ふうに)
 
ジム・オルークたちとの対談は、灰野さんが毎週どこかでしているライブ同様に、ある種のセッションとして行われ、たまたま記録され、文字に起こされ書物としてパッケージ化された。
それを「わかりやすくする」とか「いじる」という発想が、灰野敬二のたたずまいにそぐわない
書物も、音も、まとめサイトじゃないんだよ(←奇跡も、魔法もry)。
 

ふつうにネットをやって、PVやRTの数を気にしながらすごしていると忘れてしまうひとつのありようを、灰野さんのことばの数々が、気づかせてくれる。
(そういう意味ではアフィブロガーとか全員読むべき、とドヤ顔で記しておく)
 
もちろん、こういうやりかたは反時代的だし(灰野さんが時代に寄りそったことなんて一度もない)、ほとんどの人間にはおすすめもできない――というか、そもそも「できない」。
それでも成立してしまうのが灰野敬二である。
 
 
■爆音と慈しみ
なぜ成立するかと言えば、音がでかいから。
バカみたいな話だけど、本当に。
 
むかし、法政で灰野さんのバンド・不失者のライブではギターアンプが壁のように4列×3段くらい積まれて全部音量全開、地面や建物揺れまくりの轟音で6時間演奏、ということがあったのだけれど、そうでなくても(この本で本人も言っているが)灰野さんは生音がでかい。声がでかい。

 
それだけで知らしめ、伝わるものがある。
 
そして、(灰野さんが歌ったら窓が割れたという逸話もあるくらいの)音を使って伝えてくるものは、とても根源的な、ひとが生きていれば誰しもが持つであろう「祈り」や「願い」であるということ。
 
灰野さんの音は、でかくて、心地がいい。
どれだけ爆音でも、きもちよくなってきて、ライブでよく寝てしまったものでした(包まれているうちにまどろむというか「落ちる」というか……)。
 
もちろん、要約できないくらいに表現が強すぎるがゆえに、拒絶するひとも大勢いるだろう。
僕だって毎日は灰野さんの音やことばと向き合っては生きられない。
だけど好きだし、こういうひとがいる、ということはもう少しだけ知られてほしいと思う。

 

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【飯田一史プロフィール】
ライター、評論家、講師。
著書にベストセラー・ライトノベルのしくみ、共著に21世紀探偵小説など。
音楽ライターとしては隔月で細々と「SFマガジン」でレビューを書いている。
この記事を書いていてアニメやマンガ、ライトノベルは売れてるものを素直におもしろいと思えるし、好きだけれど、音楽だけはそう思えるものが少ないのはなんでなんだろうと自分のフェティシズムとか表現形態による快楽の提供の仕方の違いについて考えた。機会があればそのへんのこともどこかで。

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