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あなたの恋愛観を揺るがす『来世であいましょう』‐女装男子の恋

「非モテの極みのような少年の前に、美少女が現れて、あろうことが熱烈に求愛してくる!」この筋書きだけを読むと、恋愛モノの王道です。しかしその少年は猜疑心の塊で、「こんな美少女が僕を好きになるはずがない!」と逃げ回ります
美少女が恋をしたのは、実はその少年自身ではなくて、その少年が死んだあとに転生してくる「来世」の姿。
 
……って、どんだけ「恋愛モノの王道」を疑っているんだこの作者は。
人間の理想や夢想を、ここまで疑ってかかる作者といえば、そう、小路啓之です。今回は『ごっこに続いて最終巻が刊行された来世であいましょうを、フリーライターのたまごまごさんに紹介してもらいます。
 

 
転校生が美少女! しかもぼくのことを突然好きになってくれる!
やったーうれしいー! 
……そんなことあるわけねえよ! ふざけんなだまされないぞ。
 
最近完結した小路啓之のマンガ『来世であいましょう』のオープニングはまさに、そんな感じの展開です。
最初の登場人物である「近松ナウ」は、あらゆるものに対して不信を抱いている少年。童貞。
第1巻の2ページ目で、彼はいきなり世界滅亡妄想を語ります。ナウは、「時間差攻撃型衝動行動」と呼ばれる、その場で怒れず後からキレて暴れるという、厄介な体質の持ち主でもある。過去にひどく騙されたことがトラウマになっていて、ありとあらゆる物事をすべて疑って、けっして信じまいとする。ああ、なんてメンドクサイ奴なんだ。
本人曰く「ボクが女だったらボクみたいな奴は絶対好きにならない!」とのこと
 

 
そんな彼の前に、転校生の少女「白良浜かぴあ」が現れ、謎の猛アタックを開始します。
金髪巻き毛、ムチムチのボティ、ちょっとヌケている言動、愛嬌のある笑顔、大きなリボン。かわいい! べっぴん!
こんな女の子が出会った瞬間からべたべたくっついてきたら、そりゃー不信になるってものです。
……そんなことあるわけねえよ! ふざけんなだまされないぞ。
 
実は、彼女が好きなのはナウではなく、ナウが死んだ後に転生する予定の「メルシャン」という青年。
かぴあには、「それぞれの人が気絶したり寝ている時、相手の来世が見える」という特殊能力があるのです。その特殊能力で見たメルシャンに運命を感じたかぴあは、ある思惑を持ってナウにアタックしているのです。
つまり「ナウは激しい失恋をすれば自殺するだろう」という、あまりに残酷な計算。
『来世であいましょう』は、第1話から「主人公をいかに殺すか」というキナ臭い始まり方をするのです。
 
物語は、最初はナウ、かぴあ、そしてナウの友人で女装少年「牧野キノ」を中心に、ぎこちないラヴ・ストーリーとして話は進んでいきます。
そこに、プレイボーイの「音霧キリヤ」、二重人格の少女「池袋エチカ」、キリヤの妹で様々な男性と付き合っては別れていく「音霧キリコ」と、アクの強い面々が登場し、かぴあとナウの恋愛観を揺さぶり、拡張していきます。
 
やがてナウは、かぴあが「自分を自殺させて来世のメルシャンを転生させる」という思惑を持っていることを知ります。
ああ、やっぱりみんな嘘つきじゃないか。
そして、ナウはある選択をします。
それは今まで出てきた主要人物だけでなく、もっともっと大勢の人間を巻き込む、巨大な事件を引き起こします。
 
ぼくは、この作品のテーマは当初「人を好きになるとはなんなのか」だと思っていました。
ナウもかぴあも、恋愛未経験者で、童貞と処女。かぴあはメルシャンが好きとは言っていますが、その「好き」という感情は「憧れ」との区別が曖昧なものです。
 
作品が最終的にたどり着くもう一つひとつのテーマは、人を信じるか否か、というもの。
相手のことを本当に信じられるのか。相手を本当に好きだと言えるのか。それとも誰も信じずにいた方が幸せなのか。
この問いに対して、ナウ、かぴあ、キノ、エチカ、キリコが、各々の答えを探して、文字通り命をかけることになります。
最終巻となる第4巻での、彼らが導き出す答えが絡まり合って盛り上がるスピード感と、まるで酔ったかのような感覚は強烈。
これだから小路啓之作品はやめられない。
 
 
・舞台に上がらない人物
この作品、視点がナウ・かぴあ・キノ・エチカとパタパタ切り替わり、主人公を特定することはできません。
この原稿では、女装少年の牧野キノに注目したいと思います。
 
キノは、まず見た目からして女の子らしくてかわいいキャラクターです。
格闘大会に出場し、自由格闘の種目で第2位を取る実力で、町を守る自警団としてその腕を振るっている武闘派。
明るくてお調子者で、コミュニケーション能力は非常に高い。
おお、なんということでしょう。ぼくの好みです!
男の子でもいいです。むしろ男の子だからいいです、付き合ってください。
ポポネポのの春人のように、小路啓之作品にはかわいすぎる女装男子が度々登場しますが、キノはその中でも最も丹念に魂を込められたキャラです。
 
キノは、この物語の前半は、ナウとかぴあの妙な関係を引き立たせる狂言回し的な役どころに立ちます。
ナウの友人として登場し、挙動不審なかぴあと、かぴあに振り回されるナウのあいだの仲裁役をつとめるのです。
人間不信でビビリのナウには、冷静にアドバイスをします。
怪しげなかぴあにはカマをかけて、実際どうなのか探りを入れます。
最初のうちは、まさかかぴあがナウを殺そうとしているなんて、思ってはいない。
キノは序盤、危なっかしい二人を見てこう言います。
「その調子その調子、あんよは上手だ。キミにはかぴあとくっついてもらわないと、ボクが困るんだよねー」
ん? なにかがおかしい。
単なるおせっかい焼きや、友人だから気にかけているからというだけでは、このセリフは出てこない。
 
続く第2巻で彼の本心は明らかになります。
キノは、ナウが好き。
幼い頃、ナウは、「男らしくならなければ」と悩んでいたキノに「かわいい」と言って、ありのまま受け止めたことがありました。
キノはそれが嬉しくて、もう一度「かわいい」と言って欲しかった……でも、もしナウがキノをかわいいと認めても、キノは女の子にはなれない。
「ナウはボクとは一緒にはなれない。だからと言ってその辺の普通の女にナウをやるのはなか嫌だ……。せめてボクより可愛い奴じゃないと納得出来ない。そして……やっとメガネにかなう女の子が現れた……」
キノは、別にナウと付き合いたいと思っているわけじゃないのです。ただ、自分がナウに恋愛対象として見られないから、自分より可愛いかぴあなら、納得してもいいというのです。

 
このキノの葛藤は、作中で非常にかるーく描かれているのでさらっと読めてしまうんですが、あらためて考えてみるとこれはキツい。
恋をしている相手が誰かと付き合うんですよ。簡単に、それをよしとできるものなんだろうか。
キノは最初は、ナウとかぴあの恋(?)を応援します。
自分は恋敵にはなれない。恋敵になることすらできない。だからナウが誰かを好きになって幸せになってくれれば、それでいい。
そんなキノのことを、ナウの来世であるメルシャンはこう言います。
舞台に上がらず、袖からずっと見てる者と。
しかし、キノは舞台に上がるのです。
 
 
・ただひとつ、信じているもの。
物語が進み、かぴあがナウを殺そうとしていることに気付いて、キノは舞台に上がるのです。
シリアスなのか遊んでいるのか曖昧に描く作風のこの作品のなかにあって、はっきりと強烈に描かれるシーンです。
キノが「自分はナウが好きだ」と、かぴあに打ち明けるシーン。
「かぴあちゃんといえども、ナウにいい加減なことをするようだったら、ぶっ殺しまくるからね!!」
これでキノは、自らもナウとかぴあのいる舞台に上がったのです。もう袖から見ているだけじゃない。
 
この時点で、『来世であいましょう』の「もうひとつのテーマ」である、「信用と不信」がはっきり浮き彫りになります。
言うなればかぴあは最初から、虚偽でナウと付き合っています。
しかしナウは絶対に嘘をつかない。自分に対してすら嘘がつけない。
だから、キノはナウのことを強固に信じています。仮に相手が自分じゃなかったとしても、ナウが誰かを好きになってくれるなら、それでもいいと思えるんです。
 
キノはナウのことを本気で信じているし、自分の感情も信じています。かぴあのことも信じようと努めます。
キノは非常に賢いので、問題の察知能力は高い。けれどもそれと、人を信じようとする意思は別物。
かぴあがナウを殺そうとしていることを知って、彼女をうまく騙してなんとかしようとしても、キノは彼女をなぜか助けようとしてしまう。
ナウが根っからの「不信体質」で「自分に嘘がつけない」のに対して、キノは根っからの「信用体質」で「自分の気持ちを殺し続けている」キャラクターなのです。
それゆえにキノは、「本当の思い」をナウに伝えられない。読んでいて、とてもツライところです。
 
ナウやかぴあみたいに「不信」を貫いていたら、気づきたどり着くまでにすごい遠回りをして傷つくことになる。
でも
「信用」を貫いていたら、ひたすら自らをどこかで殺して、耐え続けなければいけない。
このエグい選択を描く第4巻は、3巻までのアッパーなテンションの展開に比べて、ぐっと重い内容になっています。

 
 
4巻のなかの面白い表現に「もう騙されてもいい……」というナウのモノローグがあります。
「信じる」ではなく「騙されてもいい」というのは、恋愛におけるある種の「答え」のひとつでしょう。
キノはナウのことを「信じ」貫きました。
かぴあは目の前の現実ではなく来世の「運命」を見ていました。
ナウは「人間不信」が積み重なり、最後に「騙されてもいいや」と感じました。
この三人のラストは、この三通りの視点そのものの行く末でもあります。
人を信じること、人を好きになることは幸せなことのはずだけど、どうにも障害が多すぎる。
『来世であいましょう』は、物語の下地に、ナウのような人間不信が眠っている作品です。
そしてその人間不信と一緒に、キノが純粋に抱いているような、人を信じ好きになる感情への憧れが、練りこまれてもいます。
 
作中に登場するどのキャラも、結末がしっかり描かれているのですが、とにかく一度最後まで読んでから、序盤のキノをあらためて見て欲しいと思います。
読み返すと、キノの行動のひとつひとつがいかに健気か、よく見えてきます。
 
最終話の一話前、第25話のタイトルは「昨日と今日」と書いて「キノとナウ」
じゃれあっているキノとナウ二人を描いた扉絵が、読者の胸の痛いところを突いてきます。
 
本作には、小路啓之ならではの謎ガジェットの数々が、コマ中にびっちり敷き詰められています。また、様々なところに葉月京、玉置勉強など別の作家も描きこんでいるコラボ作品でもあります。
このごった煮感が楽しい作品でもあるのですが、キノをメインに読んでいくと物語は至ってシンプルで、決して歪まず、強力なものとして読めるのです。
人を信じ続け、一人の少年を愛した女装少年の幸せは、どこだ。
 
余談ですが、かぴあはまあ見る側だからともかく、キノはなぜか来世の姿が描かれないキャラなんです。
作品が終わった今となっては、永遠の謎です。
 

 
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【たまごまごのプロフィール】
ライター。主にサブカルオタク系ムックや、
仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ!
などのビジネス書を手がける。
北海道在住。本に埋もれていてストーブが炊けません。
大の大槻ケンヂ好き。愛読書は「チャンピオン」と「LO」。
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