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逃れがたい陰湿な魅力。今一番不気味なマンガ|カネコアツシ『Wet Moon』

不気味な世界に、人はなぜ憧れてしまうのでしょうか。怪奇文学やデヴィッド・リンチの映画のように、解き明かせない謎や、暗く陰湿な幻想を、人は思わず追い求めてしまいます。
 
そんな逃れがたい負の方向性を持つ魅力を、カネコアツシの作品は、強烈に放出している、と言えるでしょう。現代の閉ざされた郊外の町を舞台にして、解決の糸口がどんどん遠ざかっていく怪事件を描いた代表作SOILのあと、カネコが手掛けているのが、ノイズ成分マシマシで展開する新シリーズWet Moon。先日、第二巻が刊行されました。
 

  

 
1960年代の、とある港町で起きた殺人事件を追う刑事を主人公にした『Wet Moon』。警察が中心的な役割を担っているというところは『SOIL』と共通しています。しかし、今回の『Wet Moon』は、群像劇的な性格もあった『SOIL』と異なり、執拗に被疑者の女性を追う刑事「佐田」を主人公に据えています。
 
主人公が絞られることで、作品世界が明瞭になるかというとそんな単純なことではありません。「読者」という傍観者的視点で作品を眺めることができた『SOIL』の場合と異なり、主人公が明確になることで読者は「佐田」に同一化しやすくなっており、「佐田」が経験するカオスな状況を、よりリアルに味わうことができるようになっている、と言えるでしょう。
 
「佐田」は額に謎の怪我を負っており、そこに「何かの破片」が埋め込まれているという感覚に苛まれています。この「何かが埋め込まれているような気がする」という強い感覚が『Wet Moon』の作中では執拗に描かれており、これが読者に強烈な印象を残します。「佐田」は作中で、二巻の表紙にもなっている殺人事件の被疑者「小宮山喜和子」を追うのですが、その病的な執拗さと、彼の額にある異物感の執拗さが、読んでいるとどんどんとシンクロしていきます。
 
『SOIL』について、さきほど「群像劇」という表現をしました。これはある面では正しいのですが、タイトルにある「SOIL(=土地)」をある意味で主人公だとして考える、という穿った読み方をすることも可能です。その読み方を採用すると、『SOIL』にも明確な主人公がいて、その主人公が取り憑かれている病的な異物感の執拗な繰り返しが描かれているように見えてきます。もっとも、「テレビや印刷物によって多層化された広告イメージに汚染された郊外の土地」という、凄く複雑で、そもそも人間ではないような「モノ」を主人公だとしてマンガを読むというのも変な話ですが。
 
それにしても、今回の紹介のために、『SOIL』の書影を並べてみたのですが、あらためて見てもこれは不気味ですねえ…。「土地」が主人公だという説が10巻の表紙で肯定されている気がしてきます。

    

 

    

 

    

 

  

 
 
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アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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