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幼女を誘拐し父親になったロリコン。精神をエグるテーマは犯罪×家族

ヤバい作家小路啓之が「小児性欲者が誘拐した子供を育てる」という危険すぎるテーマを描いた問題作ごっこ
 
とてもそんな強烈な設定で描かれているとは思えない儚げな表紙で、最終巻となる第三巻が刊行されました。今回は、読者の誰もが固唾を飲んで見守っていたに違いないこの物語をとりあげます。
 
文章は、フリーライターのたまごまごさんにお願いしました。「犯罪」と「家族」という、一見したところとても相容れないテーマを組み合わせた傑作『ごっこ』を読み解きます。
 

 

・犯罪と家族

幼い時、遊園地とか水族館とか、楽しい場所に連れて行かれるのが不安でした。
なぜならテレビで、家族を楽しい場所に連れて行った後に心中したシーンを見ていたから。
怖いんです。家族の崩壊が。
今でも遊園地を見かけるたびに、幼少期の怯えた気持ちを思い出します。
 
小路啓之の作品ごっこは、一言で言えば子育てマンガです。
ただし、この作品で子供を育てているのはロリコンの主人公で、育てられているのは、その主人公がロリコン性欲のためにさらってきた少女なのです。
一見すると全体的にあったかい雰囲気の作品なんですが、実は真っ黒。
主人公は数々の犯罪に手を染めています。幼女略取監禁、強姦未遂、住居侵入罪、年金詐欺、死体遺棄、有料採血、窃盗、無銭飲食、殺人。罪という罪のオンパレードです。

※『ごっこ』1巻
 
この作家は犯罪の心理を描きます。なぜ人は犯罪を犯すのか。なぜその一線を踏み越えるのか。
人間の精神に潜む情動を揺さぶってくるので、小路啓之の作品は「ヤバい」
しかし、この作品は「ヤバい」「危険」という煽り文句に興味を持った人だけではなく、多くの人に読んで欲しい作品です。なぜなら、犯罪を盛り込むことによって、むき出しになる人間のシンプルな本質が描かれているからです。
 
 

・「エンドレス」な家族のはじまり
『ごっこ』の序盤は、おもちゃを一緒に見に行ったり、ヨヨ子の偏食をどうしつけるか悩んだりと、何も知らずに見ていれば、とてもほんわかした親子の様子を描いていて、読んでいるとこれが「ヤバい」作品だということを忘れてしまいます。
しかし1巻の中盤では、ひきこもりだった「ボク」の父親のことが描かれ、読者は「育てることの厳しさ」「無償の愛情とは何なのか」をたたきつけられるのです。
あまりにもやりきれない形で。
一度子供を育てたら、途中下車はできない。
3巻に掲載された小路啓之の「あとがき」にもあるこの途中下車という表現。作中には途中下車してしまった親も登場します。けれども「ボク」の父親はそうはしなかった。
 
彼はヨヨ子のために立派な親になろうと奮闘します。
もちろんすぐに「立派な人間」になんてなれるわけもなく、悩んだり苦しんだりの日々を「ボク」は送ることになります。
 
そもそも小路啓之という作家は、「立派な人間」をほとんど描きません。立派な人間に見えるキャラクターが出てきたら、だいたい裏があるのです。
『ごっこ』でも、ヨヨ子を育てるために「ボク」が接するのは、怪しいキャラクターばかりです。母性にあふれているかに見える女性。やさしそうに見える幼稚園の園長先生。幼稚園のお迎えで知り合うイケメン理髪師……。
彼らにはとてつもない裏の顔があります。それが何かはここでは書きませんが、少なくとも「ボク」とヨヨ子の人生を揺るがしかねない人物たちでした。
世の中の人々の裏の顔が描かれるのは、小路啓之が常に「罪とはなにか」「人の価値観の基準はどこか」を問い続けているからです。
タイトルが『ごっこ』である理由も、ここにあります。
人間はごっこ遊びの延長線上を生きています。最初の「ボク」とヨヨ子なんてまさにそうです。
けれども、それがごっこ遊びじゃなくなることだって、必ずあるのです。

※『ごっこ』2巻
 

 
・「エンドレス」の家族は続く
小路啓之は回想シーンの枠外を黒塗りにするのですが、3巻は横から見ると白より黒の方が圧倒的に多い。つまりほとんど回想シーンです。
この3巻は過去を振り返る形で「ボク」とヨヨ子の家族ごっこが、不安定なのになぜ成立したのかという理由と、「ボク」とヨヨ子が一緒に暮らしていた時の本当の気持ちはどうだったのかという顛末を描き出します。
 
1~2巻ではなんの意味もないように描かれていた出来事がすべて3巻につながり、重要な理由としてまとめられていきます。
例えば、本当に最初ちょっとだけ描かれていた、ヨヨ子の特技、BB弾探し。これが3巻になって重要な役割を果たします。
また1巻では「ボク」が幼い頃の記憶をあまり持っておらず、ヨヨ子も今の記憶を忘れてしまうんだろうか、という話が描かれます。3巻ではこれを伏線としてヨヨ子の「記憶」についての話が語られています。
そして、「ボク」がヨヨ子を強姦しなかった理由のひとつを1巻ではこう書いています。
「男と女の関係になったらどうなるんだ? そんな関係、もろいことは親の離婚や世間を見ていたらよくわかる。ボクはヨヨ子とずーっと一緒にいたい。おじいになっても一緒にいたい。ずーっと途絶えることない関係……そうだ、今日からボクはパパになろう」
男女の恋愛は終わりがあるかもしれない。しかし親子の関係は、どんなことがあろうと終わらない。終われない。
これが3巻で彼の中での人間観の大きな芯になり、優柔不断だった彼にとっての揺るぎない決意に変わります。
 
「ボクはボクのことがなにひとつできやしない……。でもヨヨのためならなんだってできるんだ」
 
最初は非常に単純な二人の関係でした。それがだんだん現実社会のいびつな部分が二人を取り囲み、どんどん複雑化していきます。
最後には、何もかもそぎ落とされて、本当に本当にシンプルな、二人が抱いた感情だけが残るのです。
 
ヨヨ子だって、4歳だからって何もわかってなかったわけではありません。ただ、幼いながらもヨヨ子が「ボク」と生活をしていたということは、それを彼女が選択し、1年間幸せだったから、というのは紛れも無い事実なのです。
3巻の帯には「誘拐犯と被害者に、真実の愛は結ばれるのか?」と書かれています。「ボク」とヨヨ子の関係があまりにも自然体なので忘れてしまいそうになりますが、そもそも二人の関係の始まりは犯罪。『ごっこ』は、犯罪に犯罪が塗り重ねられた作品なのです。
2巻のラストで予言されているように、「ボク」は人を殺すことになります。それが善なのか悪なのかは非常に曖昧です。作者は、殺された側についても善悪のどちらかであるようには描いていません。
重要なのは、犯罪を犯してでも「ボク」が動こうとしたのはなぜなのか、という部分です。

 
この作品に溢れかえる色々な「ごっこ」。どこまで本当でどこまで演技がわからない、何を信じればいいのかよくわからない世界。
この作品を読んでいて、何度「現実って怖い」と思ったことか。作中ではギャグっぽく描かれているけれど、対岸の火事ではなく「現実世界でも起きていること」ですもん、こういう犯罪は。
子供を殺す親はなぜいるのか。性的な視線に晒される子供はどうなるのか。子育ては途中リタイアできないのか。子供が犯罪を犯したらどうするのか。
そう簡単にこの問題を解決することができない現実。小路啓之は、このタブーにも思える心理感情を包み隠さずにちゃんと描きます。
どこまで本当で、どこまでが演技なのかがわからない、そんな『ごっこ』の物語の中で、単純で難しくないひとつの感情、終わることのない感情ががっちりと、絶対切れないものとして描かれています。その「難しくない感情」「終わることのない感情」が描かれているからこそ、この作品は迫力がある。
おそらくそれは、子供を育てながら作者が感じた、善悪を超越した感情なのかもしれません。
 
それにしても、普段は目つきが悪くてデフォルメの効いたキャラでバタバタ走り回るヨヨ子ですが、まじめな話をする時、突然顔がリアルタッチになるのはなかなかぎょっとするものがあります。
どんな時に絵柄が変わるのかが、彼女を読み解く大きなヒントになっています。
 
 
・犯罪王ポポネポ
ここまで繰り返し書いてきたとおり、『ごっこ』は親子の物語であると同時に、犯罪の物語でもあります。
犯罪のなかにも、善行になりうるものがあるのではないのか。
善行であればその罪は問われなくなるのか。
そんな「犯罪」を中心的なテーマに据えた作品が、同じ作者による犯罪王ポポネポです。その第2巻が『ごっこ』3巻と同時発売されました。

  

 
「数字を数える」というような単純作業をやり続けるのが得意で、それ以外はこれといった特技のない主人公マルキ。彼はある日なぜか、犯罪王ポポネポの身代わりとして、海上の刑務所に投獄されてしまいます。
彼は「自分はポポネポではない」と懺悔部屋で告白します。そこで彼は神父から「ちかぢか連続強姦魔が刑期を終えるから、ピストルで撃ち殺せ」と言われます。これは悪人退治だ、と。
マルキの中に、善悪の問いかけが始まります。善とは何か、悪とは何か、犯罪で守れるものもあるのではないか……。
 
『ポポネポ』は、『ごっこ』と比べると、さらに複雑な物語になっています。
不思議なギミックの効いたキャラクター達と、珍妙に並べられる意味有りげなアイテムの数々。デコレーションされた世界の奥に、残酷な現実と、追いかけてくる人の業と、人が握り締めている大切な物が丁寧に描かれています。
九龍城砦のような混沌さで、意味があるのか無いのかわからないアイテムを、コマの中に散りばめる作者。ある意味では植芝理一『ディスコミュニケーションを彷彿とさせます。こちらは混沌とした中から思春期の恋愛を描き上げた傑作ですが、恋やセックスを滑稽に描いてきた小路啓之が「恋愛」をどう描くのかは、間もなく発売される来世であいましょう最終巻を見て確かめたいところです。

 

   

 

 
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【たまごまごのプロフィール】
ライター。主にサブカルオタク系ムックや、
仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ!
などのビジネス書を手がける。
北海道在住。本に埋もれていてストーブが炊けません。
大の大槻ケンヂ好き。愛読書は「チャンピオン」と「LO」。
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