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前衛映画に興味があるなら読んでおこう。『映画の前衛とは何か』

筋書きも主張もよくわからない、単に「よくわからない」ような、適当に撮影されただけの映像が「前衛的だ」と表現されることはよくある。そういう映像や、そういう表現を前に、単にウンザリするのももう飽きた。以前も書いたように、「前衛」というのは軽々しいものではない。そこには血なまぐさい歴史と、社会に対する情熱的な抗いと、数々の運動の挫折が込められている。
 
それで結局のところ、「いまの前衛」ってどうなってるのか。という疑問については、あまり語られていないのが現状だ。語っている人はいるのだけれど、細分化されてしまい、よくわからない。そこで今回取り上げる映画の前衛とは何かは、芸術の中でもとりわけ映画を中心に、その歴史と現在を語り直そうという真摯な試みである。
 

 
前衛の定義
本書は、生真面目にも、「前衛の定義」を語るところから始まる。1700年代のフランスで「革命を強固にするような、自由をもたらす諸原則を練り上げること」を論じたもののタイトルに「前衛」という言葉は初めて使われる。そのあとで「芸術は社会の前衛でなければならない」というような考え方が登場し、戦場にたとえられた芸術の領域で、知的に洗練された「前衛」が戦う、と考えられた。軍隊のなかで特殊な訓練を積み、誰よりも決断力に優れた兵士がいるように、芸術家のなかでも前衛は特別な存在だと見なされてきた。
ここから転じて、あらゆる時代ごとに、その時代に新しい形式を発明し、それぞれの分野で革命を起こす作品や運動を指す意味で「前衛」が使われることもある。
 
かつて哲学者のヘーゲルは「文化において独創的で驚くべき作品は、穏やかな街に落とされる爆弾に似ている。」と語った。新しい芸術が、人々の思考の枠組みを乗り越えさせ、それまで限界に甘んじていた政治的な状況を一新させるようなとき、それは「前衛芸術」の名に値するヘーゲル的な「爆弾」となる。本書で著者は、前衛映画を「軍事的・産業的な必要性から生じた技術を転用し、制約から解き放たれるためにこそ技術を用いる映画」と定義している。「低予算で非商業的」であったり、「従うべき方針があったり、独自の美学を携えていたとしても」、それだけでは前衛とはいえない、のである。
 
 
映画の前衛的な方法
「前衛映画の定義」をあらためて確認した上で、本書は前衛映画が採用した方法を列挙していく。映画を撮る人で、在り来りな方法で映画を作りたくない人には良いヒントになるだろう。逆に映画を批判的に鑑賞したい人にとっては、ここに列挙された方法が採用されているというだけでは「新しい」と言えないことがよくわかる。いずれにしても「なぜこの方法を使うのか」を論じやすくするために、最適な一覧だと言える。それぞれの方法を採用している有名な作品、重要な作品が律儀に羅列されているので、ここに挙げられている作品群を鑑賞するだけで、オルタナティブな映画史を概観することもできる。

 
たとえば投影用の白いスクリーンを廃し、人間をスクリーンに置き換えたり、炎に向けて上映したり、観客に配られた白い紙切れがスクリーンになったり。またフィルムを切り貼りしたり、引きちぎったり、焼かれたり、上映されずにそのまま展示されたり。そしてもちろん、フィリップ・ガレルのように、物語の語り方に前衛性を持ち込んだ映画作家もいる。
 
名前があげられるのは、ガレルのほかに、シュルレアリスムとゴダールを結ぶパリの前衛映画の巨匠と言われたモーリス・ルメートルやイジドール・イズーがいる。

※モーリス・ルメートルの作品
 
 
2000年代の前衛映画
本書は、過去の「前衛映画」を回顧して懐かしむばかりではない。たとえば昨今のVJ(ヴィジュアル・ジョッキー:クラブなどでDJのプレイに合わせて映像をリアルタイムに編集する人・行為)に言及したり、2000年代になってから発表された作品、インターネットを介した試みなども紹介している。衝撃的なのは、『ベーゼ・モア』という、二人の娼婦による暴力三昧の映画の紹介だ。そこでは主人公の娼婦たちには「目的も、未来も、理想もない」。彼女たちは「銃撃を繰り返しながら、消費される快楽と真の快楽とを区別する」。そこで彼女たちは、快楽が資本主義と結託することを許さない。

 
前衛的な映画シーンですでに巨匠として崇拝されているダニエル・ユイレとジャン=マリー・ストローブの二人組についての映画も紹介されている。ポルトガル出身のペドロ・コスタ監督は、2001年に、この二人の映画製作(特に映画の編集作業)を撮影して映画を作った。ストローブとユイレは、作品を制作することがすなわち政治参加であるという立場の映画作家だ。

(この『あなたの微笑みはどこに隠れたの?』というペドロ・コスタの作品と比較されている、イスラエルの映画作家シャリフ・ワケドの『チック・ポイント』はこのページで観ることができる)
 
本書の著者であるニコル・ブルネーズは、美術史家ユベール・ダミッシュのもとで1989年にゴダールの『軽蔑』についての博士論文を提出した研究者。本書でもたびたびゴダールに言及しているが、もちろん2010年のゴダールの問題作『ゴダール・ソシアリスム』についてもページを割いている。

 
本書はこのように、「前衛」という言葉を歴史的に定義付け、その文脈の中から映画という芸術の形式がどのような試みを積み重ねてきたのかを紹介し、現代の映画作品についても解説している。巻末には、前衛映画にとっての重要な文献が抜粋されており、前衛的な映画について知りたい人にとって格好の1冊となっている。
 
目次
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第1章 「前衛」とは何か 
1 前衛の歴史、前衛の論理 
2 映画というイデオロギー装置と表象の問題 
3 前衛映画の活動戦略 
 
第2章 前衛映画は何を使命とし、どう振る舞うのか 
1 映画に固有なものを解き明かす 
2 既存の設備や機材に疑いをもつ――新たな造形性のための技術開発、既製品の転用や拒否 
3 産業体制と同じものを使いつつ、その可能性を最大限に汲みつくす 
4 物語を語るための新しい叙述形式を生みだす 
5 世界を記録し、事物をあるがままに描写できる映画の特性を掘り下げる 
6 現象の切り取り方の規範に異議を唱え、その組み立てや組織編成において新しい形態を提案する 
7 社会が目を逸らす映像をあえて作り、流通させる 
8 政治闘争を先取りする、あるいはそれに同行する 
9 映画をほかの芸術(哲学、文学、音楽、絵画、ダンス、ビデオなど)と結びつけ、「芸術の超克」への道を開く 
10 過去と現在の映像の役割と機能を問う 
11 いま、ここに、多幸症的であれ、憂鬱なものであれ、もう1つの別世界を打ち立てる 
12 象徴の世界から脱け出す 
 
第3章 映画が爆発する―2000年代の映画 
1 ヴィルジニー・デパント&コラリー・トリン・ティ『ベーゼ・モア』― 快楽が押収されるときに 
2 ペドロ・コスタ『あなたの微笑みはどこに隠れたの?』&シャリフ・ワケド『チック・ポイント』― 革命的人文主義のルネサンス 
3 ムニール・ファトミ『神は私を許したもう』―映像は噂のようにゲットーを流れ…… 
4 アクラム・ザアタリ『この家のなかで』― 創造的記憶 
5 レベルデミュールの設立― 批評家の使命 
6 若松孝ニ『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』―歴史的試練にかけられるとき 
7 レック・コワルスキー『カメラ・ウォー』― 個人は暴動のように 
8 アンドレイ・ウジカ『ニコラエ・チャウシェスク自伝』― 政治権力への憎悪を映像に込めて 
9 マリレーヌ・ネグロ『Xプラス』― 民衆を見せる方法をあらたに打ち立てる 
10 ジャン゠リュック・ゴダール『ゴダール・ソシアリスム』― 映像の共和国 
 
第4章 必読テキスト12 
1 レイモンド・ダンカン「労働の真の目的」、1912年 
2 衣笠貞之助『狂った1頁』(1926年)をめぐるインタヴュー、1975年 
3 ジャン・エプスタン『悪魔の映画』、1947年 
4 エドゥアール・ド・ローロ『ブラック・リベレーション』、1967年 
5 ジャン゠リュック・ゴダール「何をなすべきか?」、1970年 
6 足立正生『赤軍―PFLP・世界戦争宣言』冒頭、1971年 
7 レイモンド・カラスコ「アルトーのあとに」、1984年 
8 ハヴン・デ・ラ・クルス「デジタル十戒―映画なき国フィリピンのためのマニフェスト」、1999年 
9 リオネル・スカズ「張善宇の『バッドムービー』について」、2002年 
10 ルネ・ヴォーティエ「社会3画の映画のための定義と原則」、2003年 
11 フィリップ・グランドリュー「映画を教えることについての手紙」2009年 
12 ピーター・ホワイトヘッド「はじめに映像があった。しかしその前に、前衛があった……」、2010年 
 
第5章 正典に反対して
  
注 
フィルモグラフィー(年代順) 
参考文献 
謝辞 
 
解題 アヴァンギャルドとは何か、何だったのか  佐古節子 
1 花田清輝の失望 
2 語源と概略 
3 モダンであること 
4 誰がアヴァンギャルドを論じてきたか 
5 運動は流派ではない 
6 行動と闘争、ユートピアと実験 
7 芸術家の孤独と誘惑 
8 科学と政治 
9 ポストモダン的弛緩 
10 近代日本の問題 
 
後記 
 
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【独断と偏見で選んだ、最近刊行された映画重要書18】


 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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