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市川春子、初連載はSF!『宝石の国』(記事内にカラーイラストあり)

ちょっと変わったマンガを読む人たちの間では、既にかなり話題になっていた市川春子。短篇集虫と歌』『25時のバカンスは、円城塔のような絶妙の不思議さを漂わせる綺想、高野文子のような異様なほど淡々とした描写、ふんだんにちりばめられた澁澤龍彦のような博物学的モチーフなど、変なモノ好きな人が喜びそうなものがすべて詰め込まれた、遊園地のような作品群だ。
 
その市川春子が、月刊「アフタヌーン」で初の長編作品の連載を開始した。タイトルは「宝石の国」。じかに触れられるとすぐに粉々に砕け散ってしまうため「何の役にも立たない」という運命を負ったキャラクターを主人公に、壮大な宇宙戦争を思わせる不穏な空気が漂う世界を描いたSF作品だ。
 
月刊「アフタヌーン」
 
今回、作品のあまりの素晴らしさに、思わず「アフタヌーン」編集部に問い合わせて「宝石の国」のカラーイラストの掲載許可をいただいた。作品の紹介と併せて、イラストもご覧いただきたい。
まずは上掲の「アフタヌーン」表紙の元になったイラスト。
「アフタヌーン」表紙の元になったイラスト
(C市川春子/講談社)
非常に繊細な色遣い、密教的な宗教観を連想させるモチーフ。
無数の襞、枝、手、花、花弁、宝飾品が埋め尽くす画面。見れば見るほど目が惹きこまれていく。
清潔さとエロティックさが同居する見事な一枚だ。描かれている緑色の髪の毛(?)のキャラクターが、おそらく本編の主人公になる「フォスフォフィライト」、通称「フォス」だ。これは慣用的に燐葉石とも呼ばれる非常に希少な緑色の鉱物の名前。タイトルとの関係を考慮すると、登場人物たちみなの名前が鉱物からとられている可能性がある。
 
続いて紹介したいのは、この「フォス」の他の登場人物たちが一列に並んだ、見事な見開きページ。
PCの画面では色が綺麗に出にくいうえに、紙の上で見るのが最善だと思われるので是非、本誌を手にとって実見して欲しい。
見開きページ
(C市川春子/講談社)
永野護『F.F.S.』のような長身痩躯で性別不詳のキャラクターたち、風忍のような崇高なほどに幾何学的な構図が印象的だ。本誌ではタイトルやキャッチコピーが載って大迫力になっている。
 
これらの登場人物が活躍する本編は、謎の惑星の上にある、見渡す限りの圧倒的な草原のシーンから始まる。
ざわめきが聞こえてきそうな平坦な草原を、踊るように軽やかに走り回るキャラクターたちの姿。
軽やかに走り回るキャラクターたち1
軽やかに走り回るキャラクターたち2
(C市川春子/講談社)
二枚目の最下段コマ左下に、緑色の髪の毛のフォスの姿が見える。
ここでフォスに何かを呼びかけているのは「モルガ」というキャラクター。おそらく「モルガナイト」に由来する名前のキャラクターだろう。モルガナイトは、宝石コレクターでもあったアメリカの5大財閥の1つ・モルガン財閥の創始者JPモルガンにちなんで命名された、薄桃色の鉱石。
 
このほか、モルガナイトと同じ緑柱石に分類される無色の鉱石ゴーシェナイトに由来すると思われる「ゴーシェ」、同様に緑柱石に分類される「ヘリオドール」、金紅石こと「ルチル」、といった全部で28名のキャラクターが、仏像のような奇妙な敵「狩人」と戦争している。28人のリーダーは、袈裟を着て僧侶の姿をした、「先生」と呼ばれる「金剛(ダイアモンド)」だ。先生と生徒という閉じた関係が、謎の闘いを繰り広げる点で、樺山三英のデビュー作ジャン=ジャックの自意識の場合を思い出してもいいだろう。『ジャン=ジャック~』も非常に奇妙でありながら、どこか静謐で衒学的な綺想SFだった。
ジャン=ジャックの自意識の場合
 

 
今回紹介している『宝石の国』は、市川春子にとって初の連載となる長編作品だ。冒頭に書いたとおり、すでに短篇集が2冊でており、彼女のことを短編作家だと考えている読者も多いだろう。なお、北海道の大学の美術科で学んだ市川が自ら装幀を担当した両書の美しさは素晴らしい。

 

虫と歌  25時のバカンス

 
これらの作品にも、『宝石の国』にも共通することなのだが、市川の作品には独特の「気まずさ」がつきまとっている。それは脆すぎる身体を持つ主人公が、壊れるたびにあっさりと復活してしまう、傷や命のあまりの「軽さ」であったり、奇妙な生物たちの造型の身の毛もよだつようなおぞましい姿であったり、切ない物語の描き方があまりにも感情的にならず淡々としていることだったり。ユリイカ2010年2月号で、装丁家の名久井直子のインタビューに答えて市川が語っているところを読む限りでは、「残酷」や「意地悪」ということに自覚的なようだ。「人と人とが100パーセントわかりあえることはない」「長い時間一緒にいることが大事とは思わないんですね。ちょっと触れることができるかできないかくらいの関係、それこそ星くらい離れていたほうが、よりお互いを大事にすると思う」と述べているとおり、作品の冷徹さや洒脱の裏には、掛け替えのない大事な何か以外を削ぎ落とす鋭さがあるようだ。
ユリイカ2
 
市川春子については、偏愛!!カルト・コミック100で少女マンガ研究家の小田真琴が「人と人ならざる者 その境界線を描く新たな才能」として紹介している。また、Papyrus 2010年 2月号の吉田大助「漫画の神様はもういない コミック新世紀」でもインタビューが掲載されている。ファンは要チェックだ。

偏愛!!カルト・コミック100  Papyrus 2010年 2月号

 
【関連情報】
現在、アフタヌーン本誌や単行本を購入すると
抽選で豪華賞品が当たる「アフタヌーン大収穫祭2012」
というフェアを開催しているとのこと。
詳しくは
http://kc.kodansha.co.jp/daishukakusai2012/
 

 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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