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「シュール」にトコトン迫る。岩波書店『思想』シュルレアリスム特集

岩波書店が刊行している月刊「思想」が「シュルレアリスムの思想」というタイトルで特集を組んだ。日本におけるシュルレアリスム研究の第一人者である鈴木雅雄、シュルレアリスム運動の中心人物ブルトンの研究者である中田健太郎、そして画期的な入門書といえる零度のシュルレアリスムの著者である齊藤哲也の3人をフィーチャーし、その他にもシュルレアリスム(人文書院)の著者ジャクリーヌ・シェニウー=ジャンドロンら、豪華な執筆陣で送る。シュルレアリスムに関心のある読者ならば、きっとお腹いっぱいになることまちがいなしの1冊だ。
 
よくわからないもの、突飛なものを指してよく使われる「シュールだ」という表現のもとになった、20世紀に端を発する現代美術・文学の潮流であるシュルレアリスム運動。いわゆる絵画から彫刻、写真や映画、文学に至る幅広い領域で、またフランスから南北米、もちろん日本を含む世界的な影響範囲を持つ、一大流行ともなったシュルレアリスムが、「果たして何だったのか」という議論は、その誕生以来半世紀を経てもなお続けられている。本号は、その議論の最新の成果と、最新の問題を切り取って紹介してくれる。
 

 
巻頭の言葉は、ちょうど先日、紫綬褒章を受章した松浦寿輝によるもの。シュルレアリスムの名付け親であり、その活動の中心人物だったブルトンは言語や「イマージュ」、美や愛について、革命や解放については多くを語ったが、実は身体論をほとんど残していない、という点に着目し、ほとんど唯一のブルトンの身体論である「前駆的特徴」を読み解く文章。
 
鈴木雅雄の「抵抗する”フィギュール” 思想史のなかのシュルレアリスム」は、シュルレアリスムを「現象学と構造主義のどちらにも軍配を上げることなく、しかしどちらも完全には見失うことなしに、そのあいだのどこかに留まろうとした運動」だとして、その揺れ動きを分析している。ジャック・デリダの「差延」概念や、ラカンやドゥルーズ・ガタリ、リオタール、カトリーヌ・マラブー、レヴィ=ストロースといったフランス現代思想の理論に触れながら議論は進められていく。
 
中田健太郎の「理論の見る夢 オートマティスムの歴史」は、デカルト以来のフランスの心理学の歴史のなかから、ブルトンの思想の、そしてシュルレアリスムそのものの、もっとも重要な概念のひとつである「オートマティスム」の歴史を炙り出す試み。一般的に、シュルレアリスムは、オーストリアのフロイトの精神分析理論からの影響が強いと言われており、それは必ずしも誤りではないのだが、それだけではない複雑さがあることを中田は指摘する。それはフロイトの兄弟弟子であったフランス人心理学者ジャネが、自らの理論的背景にもっていたフランス心理学の歴史(それは、人間をある種の機械とみなす「オートマティスム」の歴史でもあった)と、フロイトの精神分析との理論的緊張関係への注目が必要だというのだ。

 
齊藤哲也は、鈴木の論考にも何度か名前が出てきたドゥルーズとガタリの代表作『アンチ・オイディプス』の第二版に付けられた「補遺」において、「シュルレアリスム」がたびたび登場していることに着目する。論考のタイトルは「アンチ・シュルレアリスム」。齊藤は、ドゥルーズらが何故シュルレアリスムに言及したのかを解明するべく探究を続ける。齊藤は、ブルトンと彼が公認したような所謂「シュルレアリスト」ではなく、ルーマニアから出てきてパリで活動していたシュルレアリストのブローネルのような「マイナーな」人物に焦点を絞っていきながら、『アンチ・オイディプス』を執拗に読み解く。鈴木がシュルレアリスムの理論のなかに現代思想を読み込んでいったのに対し、齊藤はシュルレアリスムを使って現代思想のドゥルーズを読み解こうとしている、と言えるだろう。

 

 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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