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国の枠にとらわれない巨視的な世界史論『世界システムという考え方』

世界システムという考え方―批判的入門― (世界思想ゼミナール)が、刊行された。現代に至る、世界の経済の仕組みをひとつの「世界システム」としてイメージして捉えようという考え方を紹介。この考え方を40年前に提示したウォーラーステインに対する批判を随所に配置することで、現代ならではの入門を可能にしようという1冊だ。
 

 
まず、「世界システム」とは、アメリカの社会学者ウォーラーステインがライフワークとしている『近代世界システム』という著作で主張しているモデルだ。そこでは、国家も、そこに暮らす国民も、すべて資本主義的生産様式というシステムのなかで形成されたものに過ぎないと言われる。
 
世界システムは、世界の各地でそれぞれ生産される財が交換されること、つまり国際分業によって成立している。その結果、工業製品を提供する中心地域と、原料や一次産品を提供する周辺地域、そしてその中間にあたる半周辺地域という分化が生じる。世界システムの周辺にある地域では、市場が未発達であり、また自給自足の経済があったり、強制労働が残っていたりすることによって、賃金が低いままで留まってしまう。低い賃金で生活する人々が暮らす周辺地域と、賃金水準を高く保てる中心地域とのあいだには、不平等な経済が成立してしまい、中心地域には富が蓄積され、周辺地域には貧困が「蓄積」していく。貧困の蓄積とはたとえば、負債の増大だ。
 
ウォーラーステインの『近代世界システム』1巻によると、15世紀後半から17世紀後半にかけて、ヨーロッパを中心とする最初期の「世界システム」が拡大した。この時代、神聖ローマ帝国やフランス王国が「世界帝国」とでもいうべき覇権を獲得しようとして失敗した。日本、ペルシア、ロシア、オスマントルコはまだ世界システムの外部にある。アジアとロシアにはヨーロッパとは異なった「世界経済」があったとされる。

 
続く第2巻では、穀物の価格が低下し、ヨーロッパ世界経済が危機に直面し、そのなかでオランダが主導権を得るようになったことが書かれている。工業・商業・金融において他国に優越したオランダの覇権は、このあと現代にいたるまで、イギリス、そしてアメリカに引き継がれていくことになる。
オランダはイギリスのふたたびの復興とフランスの擡頭によって衰退する。この時期の周辺地域は東ヨーロッパ、南イタリア、そしてスペイン領アメリカである。

 
第3巻では、18世紀後半からの時代が扱われる。
産業革命とフランス革命が、世界システム論から見て、何だったのか。
この時期、世界システムにインド、オスマン・トルコ、ロシア帝国、西アフリカが組み込まれた。中国、西アフリカのサバンナ地域が周辺地域となり、中国を一角とする「三角貿易」はこのときに生まれている。また、南北アメリカ大陸の多くの植民地が独立するのもこの時期。

 
第4巻で扱われるのは、ナポレオンの登場とその帝国以降の状況。
つまり7月革命、2月革命、パリ・コミューンなどを経て、リベラリズムに基づく自由主義国家として英仏が近代化したとウォーラーステインは語る。この時期には、近代社会を対象とする社会学、植民地を対象とした人類学、そして半植民地である中国などを対象としたオリエンタリズムが誕生している。
 
本書で紹介されているウォーラーステインの「世界システム」論に対する批判は、たとえばウォーラーステインが『近代世界システム』で提唱したヨーロッパ中心の世界システムが、より大きなシステムの一部に過ぎないという批判があり得る。たとえば、ウォーラーステインは「貢納制によって機能する世界帝国」のような、非近代西欧的な世界システムについては語っていない。そしてさらに、ウォーラーステインが重視しなかった奢侈品、情報、軍事といった様々なもののネットワークを想定することで、メソポタミア文明以降の政治的・軍事的な、地球全体を1つの統合されたシステムとして見ることも可能だと主張する考え方もある。
 
ウォーラーステインの「世界システム」の考え方が興味深いのは、富を蓄積する中心地域と負債を貯めこむ周辺地域とが、歴史の中で徐々に移り変わってきたことを示していることだ。貧困にあえぐ周辺地域がどのようにして「近代化」できるのか、その理論はもちろんまだ確立していない。いっけんしたところ工業化して近代化したかのように見えても、労働の賃金が上昇しないという問題は依然として変わっていない。しかし、旧植民地がかつての宗主国にずっと搾取され続けるというような固定的なモデルでは捉えられない可能性がここにはある。

 
 
 
 
 
 
 

目次
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第1部 世界システム論とはなにか
基本構成―世界システムはどんなシステムなのか;
 社会のレベルと概念 世界システムはどんなシステムなのか
 世界システムの構成 世界システムの拡大と収縮
歴史―近代とはいかなる時代か;
 近代史と世界システム 歴史記述の方法
 『近代世界システム』における歴史記述
 歴史記述のスタイルと評価
開発―南北格差は解消できるか;
 近代化と西洋社会 近代化論と第三世界
 従属理論が提起したもの 世界システムにおける開発
資本主義―どこがユニークなのか
 資本主義をとらえる視座 市場システムとしての世界システム
 世界システム論における階級と労働
 世界システムにおける生産様式 世界システムと移行
 
第2部 世界システムの過程
国家―システムに制約されるもの;
 単位としての国家 資本主義世界経済と国家間システム
 世界システム論における国家観 半周辺における国家 
社会運動―システムに抗うもの;
 資本主義と社会運動 反システム運動とそのタイプ
 世界革命とヘゲモニー 反システム運動の周期性
 反システム性とシステム内在性
イデオロギーと文化―システムを支えるもの;
 社会学とイデオロギー論 世界システムにおけるイデオロギー
 ジオカルチャー 貧困の文化/文化の貧困
移行―われわれはどこから来てどこに向かうのか
 資本主義への移行 資本主義以前の世界システム
 世界システムの将来 世界システムのオルタナティブ
 
第3部 世界システムの現在
新国際分業―システムは変化したのか;
 世界システムと国際分業 (旧)国際分業と輸入代替工業化
 新国際分業と輸出志向型工業化 世界都市と移民労働者
ポスト新国際分業―グローバル化はなにをもたらすのか;
 グローバル化 「経済のグローバル化」
 ポスト新国際分業 再生産のグローバル化
 グローバル化への抵抗?
反グローバリズム―「もう1つの世界」は可能か;
 資本によるグローバル化 反グローバル化
 オルタナティブなグローバル化 
 世界社会フォーラム運動 が意味するもの
エコロジー―環境問題をどうとらえるか;
 資源とエネルギーにみる不平等 国際分業と環境破壊
 世界エコロジーの構想 環境問題はシステムに回収できるか
むすびにかえて―われわれはどこまで世界システム論者であるべきか
 
参考文献
あとがき
索引
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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