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BL界の無法地帯化が進行中!正面突破で挑むのに最適な作品はこれだ

水城せとなやヤマシタトモコやよしながふみが大人気だ。彼女たちの作品の魅力は、一般紙にデビューする前に描かれていたBL作品時代に育まれたものだと考えることができる(それだけではないんだろうけど)。BLの魅力を知るにあたって、いろいろとお題目を並べてみるのも一興かも知れないが、何よりまず作品を体験してみるのがいいだろう。さあ、そこで入門に何の作品がいいだろうか、という話になる。
 
僕がオススメするのは、阿仁谷ユイジ完璧な飼育だ。BLものの短編ばかり、それもほぼ本番あり(ずっとセックスしっぱなしというストーリーもあり)のものが中心に集められているなかなかハードコアな内容だ。天才肌の阿仁谷が描く、(こう言ってよければ)中性的なキャラクターたちの織り成す、やたらに艶かしい、エロさ全開の内容に、BL未経験な読者も正面突破されてみて欲しい。
 

 
この『完璧な飼育』の作者である阿仁谷は、「男性が死滅し、女性だけになった未来世界」を舞台にした、よしながふみ大奥を未来に置き換えたかのようなテンペストという作品も描いている(11/7には最新刊となる第3巻も刊行予定とのこと←リンク先は版元サイト。3巻の書影も掲載されています)。そちらではほとんど女性同士の同性愛のような男女の関係が登場するのだが、その世界では女性同士の恋愛が当然になっているため、男女の恋愛は不気味なものとして嫌悪されていたりする。

  

上掲の『テンペスト』の書影を見てもらえるとわかってもらえると思うのだが、阿仁谷ユイジの描く絵はエロい。どれくらいエロいかというと、人間の顔がトロけてしまっているんですね。この種の蕩け切った表情というのは、僕はかつて成年向け漫画で月野定規という人が描いた顔くらいでしか見たことがない。月野定規は男女性愛ばかり描いていますが、今思えばエロスと情念の極限を描写しようとするあまり、性の壁をたまに超越しかける瞬間があったようにも思う。

※代わりというわけではありませんが、最近の阿佐ヶ谷ユイジの作品で表紙がエロめの夢喰い王子の憂鬱を紹介。

 
阿仁谷ユイジの魅力にハマったら、「はだかの阿仁谷ユイジ」として特集を組んでいる漫画誌「エロティクス・エフ」76号をオススメする。デビューに至るエピソードや、作品制作の過程など、読み応えのある内容が紹介されている。

 
さて、BL入門ということでもう1人紹介したい作家がいる。その名も「ルネッサンス吉田」
真面目にこの名前なのだ。
とりあえずこの作家の作品の表紙を見て貰おう。

    

 
ああ、濃いですねえ…。なんかいきなり画面が茶色く煤けました。
阿仁谷ユイジの描く、ふわふわして甘やかな感じとはほとんど正反対の、ササクレだって汚れ果てたような世界。しかしこれもBLなのだ。
商業デビュー作茜新地花屋散華の前半は、売春宿を営む男子高校生「開高」とその家族たち、その開高の高校の後輩で恋人になる「深沢」が描かれる。後半になると、深沢は開高に棄てられ、新しい恋人と関係を築くことになる。この開高が、恋人である深沢に対して、他の男に身体を売るように命じたり、理不尽な奇行を強いるのだが、単なるBLに収まらない妙に深遠な文学的・思想的な含蓄が仄めかされていて、ついつい考え込みながら読み進んでしまう。
夭折の華倫変やSABEのような、極限に荒みきった感性からしか生まれないようなギャグセンス、筆致の尖りっぷりも壮絶。

  

 

自由律俳句や仏米の文学理論を思わせる引用、現代哲学の問題を織り込んだかのような人間関係は「いや、これは別に男同士の性愛で描かなくても良かったのでは…?」という素朴な感想を抱かせずにはいられない。

  

 
既に手垢にまみれた表現ではあるけれど、かつてロマンポルノが、そしてエロ漫画や自販機本、ライトノベルや成人向けゲームに言われていたこと、つまり「エロティックな表現を入れておけば、あとは何をやってもイイ」というある種の無法地帯化が、BLの世界でも進行していることを感じさせる。
 
阿仁谷ユイジの作品は、BLの世界に正面突破で挑みたい人向けの良質なエロだ。それに対してルネッサンス吉田は恐らく邪道である。男性向けエロ漫画でもけっこうハードコアな作品でないと見えないような性器の熱っぽい描写もふんだんに描かれているし。

 

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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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コメント

  1. 阿仁谷ユイジ!
    ここ数年間読んだなかで最高にエロい!です。
    「顔が蕩けてる」ってピッタシな表現。まさにソコ!ってかんじ。さすがナガタさん。

    個人的つぶやきですが。
    よしながさんもヤマシタさんも一般向け作品は好きなのですが絵があまり好みじゃない&BLも好みじゃない。
    阿仁谷さんは絵もBLもとてもいい。
    つまりビジュアルが自分の嗜好に合っている→萌えられるかそうでないかが決まる。
    という仮定を作って自己満足しておりました。

    小さな子のいる家なので、あまりエロい本を蒐集するわけにもいかず、2冊ほどにとどまっていますが。
    BL以外も読ませる作品描かれてて(DROPS)、しかもエロさもあってよかったです(^^)

    う〜む、しかしナガタさんの守備範囲の広さが尋常じゃなくて、そら恐ろしいほどです…。

  2. そのじつさん!コメントありがとうございます。
    僕はヤマシタさんもよしながさんも絵は好きです(作品によってはお話がちょっとと思うことはあります)。僕の「守備範囲」はけっこうエロいかどうかで見ているところがありまして、それもこれも幼少期に親戚が集めていた手塚治虫全集の影響なんじゃないかと思っております。
    ご教育方針があるでしょうから何も申せませんが、エロいものの教養を深めるのも、人生を楽しむためにはきっと大事なことですよ!

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