読書ガイド「本が好き!」が運営するニュースサイト

ヴァーチャルセックスからヘヴィ・メタルまで哲学する!?

モードは行きた肉体を無機的な世界に結びつける。生者にたいして、それは屍体の権利を擁護する。こうして、非・有機的なもののセックス・アピールに従属したフェティシズムが、モードの生命力となる。

これは、20世紀ヨーロッパの代表的な思想家のひとりベンヤミンの未完の草稿パサージュ論の一節。今回紹介するイタリアの美学者マリオ・ペルニオーラの無機的なもののセックス・アピールという書名は、この一節の中に出てくる「非・有機的なセックス・アピール」を直截に言い換えたものと思われる。この一節で論じられている「モード」とは、主に服飾の流行のことを指し、広義には現代の、ライフスタイルを含めた様々なものの移ろいやすい流行を指す。ベンヤミンは、近代的な消費活動とそれに即した生活全般(=モード)が、従来の生身の人々を、「有機的ではない」ものの世界に結びつけると論じた。
 
『無機的なもののセックス・アピール』の著者ペルニオーラは、ベンヤミンが論じた近代的な状況が更に進行した、現代的な状況において、人々が向き合うことになる「セックス・アピール」がどのようなものなのかを吟味する。
 

 
本書の著者ペルニオーラは、先日Bookニュースで紹介した到来する共同体ホモ・サケル 主権権力と剥き出しの生で知られるイタリアの哲学者ジョルジュ・アガンベンとほぼ同世代で、キー・ドゥボールらのシチュアシオニストへの関心も共有している(ペルニオーラは、実際にシチュアシオニストグループに参加していた)。また、ペルニオーラは、世界的なベストセラーとなった小説薔薇の名前の著者でもあり開かれた作品などの学術的仕事でも知られるウンベルト・エーコと同じ師のもとで学び、エーコと同様に、文化や社会、政治や宗教などの幅広い領域にわたって発言をする人物でもある。

  

 

  

 
今回紹介する『無機的なもののセックス・アピール』において、ペルニオーラは、ヴァーチュアル・リアリティを前提にした「哲学的サイバーセックス」や、ヘヴィ・メタルやハードコア、インダストリアル・ミュージックにおける人工的な興奮をも論じている。また、サディズム・マゾヒズム、フェティシズム、ヴァンピリズム(吸血鬼、死体愛好などのニュアンスとともに)、「分割」(女性性と男性性と分かつこと)や「快」といった精神分析的な問題と「無機的なもののセックス・アピール」の関連や、デカルトやヘーゲル、ハイデガー、そしてウィトゲンシュタインといった哲学の大家の思想と「無機的なもののセックス・アピール」の関連についてもそれぞれページを割いている。それぞれの議論はごく短いためすぐに読み終わってしまうが、これらの議論をまとめて全体を振り返ってみると、現代的なセクシュアリティと哲学の伝統との結びつきを大胆にアップデートしようとした労作であることがわかる。
 

※「無機的なもの」という点にフォーカスするならば、TOOLやマリリン・マンソン、メシュガーなど(あるいはエレクトロニカやテクノなど)を挙げるとよりわかりやすいかも知れない。しかし今回は、本書でも名前が挙がっているフランク・ザッパの弟子といわれるスティーヴ・ヴァイに見出された男デヴィン・タウンゼントのバンドの代表曲を挙げておこう。
 
今まで、フロイトやラカンといった精神分析家たちの理論と、哲学的な思想とを突き合わせて議論すると、どうしても各論的になってしまい、またフロイトやラカンたちの著作が書かれた時代のセクシャリティの限界から議論が発展できないという問題があったが、そこに本書を読み合わせることでより「現代的」な議論が可能になるだろう。
 
例えば、アメリカのクイア論者ベルサーニのフロイトとボードレール親密性における、サド・マゾヒズムと近現代的な美学や倫理学の議論。またそのベルサーニにも言及していた思想地図β3 日本2.0の千葉雅也の論考「あなたにギャル男を愛していないとは言わせない― 「クール・ジャパノロジー」と倒錯の強い定義」が扱った「クール」という概念。あるいは、Robert Walserが力強さやジェンダー概念とヘヴィ・メタルを関連づけて論じたRunning With the Devil: Power, Gender, and Madness in Heavy Metal Musicや、非人間性という観点から岩波書店思想 2012年10月号の「シュルレアリスムの思想」に収録されている、ブルトンのオートマティスム概念における「機械性」の系譜を追った中田健太郎の論考「理論の見る夢 ――オートマティスムの歴史」と併せて読むことも有意義だろう。
 
美術の領域で言えば、先鋭的なアイドル論誌アイドル領域vol.3アイドル領域vol.4の表紙に作品が掲載されている朝倉景龍の描くキャラクターの姿を「無機的なもののセックス・アピール」と関連づけて読みたくなる。

  

 
なお、本書の訳者はイタリア思想紹介の第一人者でもある岡田温司、イタリア・ファシズムの芸術政治の著者である鯖江秀樹、そしてファッションは語りはじめた 現代日本のファッション批評で哲学者の千葉雅也と対談したり「乖離する衣服と身体――アニメ・マンガから見た90年代以降の日本ファッション史」という論考を寄稿している蘆田裕史の3名。特に蘆田は、士郎正宗攻殻機動隊に言及した劇場としてのショウ・ウィンドウという論考を雑誌『10+1』に寄稿したり、ファッション批評誌『fashionista』を立ち上げるなど、かなり興味深い活動をしている。
 

  

 
 
【関連書籍など】


 
目次
==================================================

感覚とモノ
性のプラトー
神、動物、モノ
デカルトと感覚するモノ
属するものなき衣服となる
模範的中毒
カントとモノとしての配偶者
サディズムと無機的なもののセックス・アピール
哲学的サイバーセックス
カントとモノ自体が感覚すること
マゾヒズムと無機的なもののセックス・アピール
衣服としての身体
ヘーゲルと「これではないもの」としてのモノ
フェティシズムと無機的なもののセックス・アピール
ハードコアの響き
ヘーゲルと「さらに」としてのモノ
ヴァンピリズムと無機的なもののセックス・アピール
造形的風景
ヘーゲルと「一挙に全体」としてのモノ
欲望と無機的なもののセックス・アピール
氾濫するインスタレーション
ハイデガーと信頼性としてのモノ
分割と無機的なもののセックス・アピール
包含的メタエクリチュール
ヴィトゲンシュタインと「これ」の感覚
快と無機的なもののセックス・アピール
倒錯的パフォーマンス
==================================================
 
 
 
==================================
【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
==================================
==================================

 
「BOOKニュース」では出版系のイベントからマニアックな新刊情報まで、
本に関する情報を収集して紹介しています。
ユニークな本を出される出版社様、
紹介させていただきたいのでBOOKニュース宛に新刊をぜひ送ってください!
↓宛先はこちら↓
〒333-0834
川口根岸郵便局留
Bookニュース 永田希

twitterアカウント(@honzuki_news)でもときおり呟いております。
RSSフィード購読はこちら。

コメント

コメントをお寄せください。

コメントの投稿

コメント(必須)