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アツくなるのはこれからだ!新時代へ、日本のSF最前線。

先日発売されたS-Fマガジン 2012年11月号 特集:日本SFの夏に掲載された1980年代生まれの気鋭の批評家・藤田直哉による「日本SF、さらなる未踏の時代へ」というマニフェストがトバしている。このマニフェストは、このたび再開する「ハヤカワSFコンテスト」に付されたものだ。
 
このマニフェストでは、日本のSFがその黎明期から漫画、アニメ、映画などの小説以外のメディアも重視してきたことに触れ、それが現代のオタク・カルチャーの隆盛に繋がり、結果として「日本が誇る文化となった」と述べる。「いまSFを書く」者に求められているのは、「現在において、新たなる文化を全面的に作り出す」ことなのだ。SFは「ゲームはもちろん、思想、経済、建築、政治、学問、社会運動、科学技術、芸術運動にいたるまで」入り込むことができると藤田は断言する。藤田自身、かつてポータブルなデジタルカメラで動画を撮影することを批評活動の一部とする試みを展開していたし、今回のコンテストの選考委員に名前を連ねている東浩紀は批評家・小説家としてだけではなく、出版社経営など幅広く活躍している。そして何より、もともと無類の映画好きとして知られているゲームプロデューサーの小島秀夫が選考委員にいることも、この藤田の主張を裏付けているといえるだろう。
 

 
藤田は、このマニフェストのほかに、巽孝之監修の「現代SF作家論シリーズ」の第20回目となる山田正紀論「祈りとしての空想」も本誌に書いている。「宗教」の代理物として機能してきたという側面もある日本SFにおいて、「宿命」「想像力」といったテーマをめぐって作品を発表してきた山田を論じる中で、何もないところで、あるいは根拠薄弱な状況で、徒手空拳のように何かを作り出すこと、それこそが日本SFなのではないか、と藤田は問う。さきほど紹介したマニフェストと併せて読むと、あきらかに何かを「作り出すこと」を藤田が重視しているということがわかる。
 
「限界小説研究会」通称「限界研」で、藤田とともに活躍する飯田一史や岡和田晃、前島賢らも今号にそれぞれ異なったかたちで原稿を寄せている。
 
飯田は「MEDIA SHOWCASE」というマンガや音楽を紹介するコーナーで、「新しい音楽はネットで」というページを担当している。「相対性理論『シフォン主義』以来の衝撃」として、禁断の多数決はじめにアイがあったを紹介。「禁断の多数決」というのは、飯田の文章を読んで初めて知ったのだが、バンド名のようだ。そして聞いてみて驚いた。確かに衝撃的。なお、初めに愛があったといえば現代思想家のジュリア・クリステヴァの著作のひとつ。僕は山本弘アイの物語を思い出した。

 

  

 
飯田がもうひとつ紹介するのは、plloarstars『Final Frontier』。当Bookニュースでも何故か何度も触れているネットレーベル「Maltine Records」からのリリースだ。なんとフリー・ダウンロード(マルチネなら当然なのだが)


『サイエンス・フィクション』というど直球な楽曲を含む今回のリリースに際して、プロデューサーの吉川よしのが書いた文章も公開されており、そちらも胸に迫るものがある(僕は読んでてうっかり泣きそうになった)ので、「S-Fマガジン」のあとに読まれることをオススメする。

芳川よしの新プロジェクト「Pollarstars – Final Frontier」Maltine Recordsよりリリースしました。 – 芳川よしの

 
 
そして岡和田晃は現在のSFの最大の話題作である屍者の帝国のクロスレビューということで、柳下毅一郎・新島進とともに短い書評を寄せている。タイトルは「新たな時代の”世界文学”」。先日Bookニュースでも紹介した到来する共同体の著者アガンベンの重要なキーワード「剥き出しの生」を経由して、本書を「私たちの現実をそのままに描いた、新しい時代の自然主義として読まれなければならない」と力強く述べている。
 

  

 
 
セカイ系とは何か? ポスト・エヴァのオタク史の著者でもある前島賢は、『スワロウテイル』シリーズの紹介「スワロウテイルの曼荼羅模様」を寄せている。「生命」そのものを「性交渉によって感染する致死性の病」だと表現する一場面があった『死者の帝国』を、思い起こさせるような、「男女間の性交渉により感染・信仰する死病」という設定のもとで隔離された人工島を舞台にを描かれる、この『スワロウテイル』シリーズ。
このシリーズには、接触を禁じられた異性に代わって住民たちのパートナーとなる「フィギュア」と呼ばれる人工妖精が登場する。攻殻機動隊ガンスリンガー・ガールわれはロボットを足したような、「人ならざる知性の実存を問うロボットSFであり、非武装都市に錯綜する陰謀絵を描く国際謀略小説であり、最新刊では学園百合小説という一面もみせる」とのこと。なんとも壮絶ではないか。僕はまったくの未読なので、これを機会に手を出してみようと思う。

    

 
 
このような、「限界研」関係者たちの仕事のみならず、この他にも『屍者の帝国』著者である円城塔と担当編集者に対するインタビューや、冲方丁『マルドゥック・スクランブル』のコミカライズを手掛けた大今良時による漫画など、敢えて「日本SFの夏」という現実の季節と外れたテーマを掲げる編集部の意気込みを感じざるを得ない強力なラインナップになっている。

 

 
【関連書籍など】


 

 
目次
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特集:日本SFの夏
2012年、日本SFはさらなる活況を呈し、あらたな夏の時代を迎えようとしている。本号では、ついに刊行された伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』をはじめとする日本SF界におけるさまざまな話題を、トピック別にまとめて紹介する。
[特集内容]
[伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』 刊行]
○円城塔インタビュウ インタビュアー&構成:編集部
○『屍者の帝国』 クロス・レビュウ 岡和田晃/新島進/柳下毅一郎
[『光圀伝』 刊行&映画版「マルドゥック・スクランブル 排気」 公開]
○冲方丁インタビュウ インタビュアー&構成:編集部
○コミック「マルドゥック・スクランブル 手紙」 冲方丁:原作/大今良時:漫画
[『機龍警察 暗黒市場』 刊行]
○月村了衛インタビュウ インタビュアー&構成:編集部
○「機龍警察――組織と異物の物語」 古山裕樹
[『BEATLESS』 刊行]
○長谷敏司インタビュウ インタビュアー&構成:編集部
○「『BEATLESS』――ヒトと道具の未来」 水鏡子
[『カラマーゾフの妹』 刊行]
○高野史緒インタビュウ インタビュアー&構成:日下三蔵
[『スワロウテイル序章/人工処女受胎』 刊行]
○「スワロウテイルの曼荼羅模様」 前島賢
○《スワロウテイル》 シリーズ用語集&世界の概略図 卯月鮎:編/籘真千歳:監修
 
○『十五夜物語』刊行記念トーク・イベント採録 夢枕獏×寺田克也
○「ジャララバードの兵士たち」 宮内悠介
 

「サンディエゴ・コミック・コンベンション・インターナショナル2012」レポート 堺三保

 
【読切】
「星の鎖」 ジェイ・レイク/志村未帆訳
 
【連載】
「《現代SF作家論シリーズ》第20回 山田正紀論「祈りとしての空想――『宝石泥棒』『最後の敵』論」 藤田直哉
「SF Image Gallery Second Season 第11回」 増田幹生
 


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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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