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深部に迫り簡潔に著す名人芸による文学史入門『病気と日本文学』

福田和也病気と日本文学 近現代文学講義が刊行された。
文芸評論家として多数の著作を持つ福田氏だが、講義録は今回が初めてとなる。
 
書名の通り「病気と日本文学」というテーマに沿って、明治から戦後文学までを扱い、最後に同業の文芸批評家である柄谷行人の著作についても解説する。取り上げられる「病」は、結核・ハンセン氏病などのいわゆる「病気」から、柄谷行人が論じた「意味という病」のような抽象的なものまで幅広い。福田和也氏ならではの、「政治や思想の深いところを踏まえたうえで短く簡潔にまとめる」という名人芸が披露されている。
 

 
正岡子規と夏目漱石らの明治期の日本文学の黎明期、自然主義文学から日本独特の私小説が生まれる時期、そして文学が大衆化する芥川龍之介の時代、そして第二次大戦をまたいで、戦後の文学の状況まで。それぞれの作家と作品を挙げながら、作品を深く読み込むというよりも、各時代の社会背景や、国際的な文学の思想の変遷を淡々と紹介していくという内容。大学の講義を採録したものではあるが、気軽に文学史を学びたい中高生や、文学の歴史をさらっと概観したい大人が読んでも十分に面白い。
 

「現代文学」まで扱っているということだったので、闘病のなか死と向き合いながら作品を書いていた伊藤計劃にも言及して欲しかった。
 

目次
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講義風景 佐藤和歌子
 
第一講 近代日本文学の源流 正岡子規『仰臥漫談』
明治二十年代の帝大生 結核と近代社会 生活能力のない人
日清戦争とジャーナリズム 兵役のもたらしたインパクト
ジャーナリストの従軍 『ホトトギス』創刊と写生文運動
なぜ日記を募集したか 写生文の革新性 日本文学の岐路
どこかに一点の理がひそみ居候 
肛門の開閉が尻の通所を刺激する かん詰め持て来い
生身の人間を表す文学

 
第二講 近代小説の宿命 夏目漱石『明暗』
嘘を許容している人間 英文学者にして作家
職業作家にして学芸部部長 近代医学に晒された人間
患者としての漱石 身体もモノ、精神もモノ
お金こそが問題だ 近代小説=お金についての小説
これは妹の親切ですか義務ですか
お陰でこの冬も生きていられます
それが男の嘘というものです
写生文の命題と小説の命題

 
第三講 私小説のリアリティ 宇野浩二『思い川・枯木のある風景・蔵の中』
苦の世界から出発 自然主義文学から私小説へ
『蔵の中』と近松秋江 好き勝手行きた人間の面目
質屋にだけ信用がある男 恥をかまわず申すのです
色彩がぶちまけられた世界 
これだけが宇野浩二の世界だぞォ!
『枯木のある風景』と小出樽重 
狂気の持っているもう一つの現実
病気の芥川と病気の宇野 自分自身と距離をとる
思っているとおりに答える
子規にもメロディはあった リアリティの根源

 
第四講 作家のキャリアとしての自殺 芥川龍之介『河童・或阿呆の一生』
自殺によって作品が完成する 近代日本文学と自殺
商品にして作品であるということ 菊池寛と『文藝春秋』
女給さんにも知られる作家 ぼんやりとした不安
話しらしい話から話のない話へ 
古道具屋に置かれた剥製の白鳥
VS谷崎潤一郎 見識はあるのに勇気がない
VS志賀直哉 逞しい天才の仕事の痕
神経症のディスクール化 探偵不在のサスペンス
胎盤の詰まった箱車を押す

 
第五講 実名不明の作家 北條民雄『いのちの初夜』
社会主義少年 発病すると強制入院 療養所における執筆活動
川端康成に原稿を託す 高浜虚子の来院 写生文の本質
文学は何を書くべきか 身体と精神の先にあるもの びくびく生きている生命
生命主義の源流 近代作家の一つの典型 近代日本文学のアベレージ
 
第六講 戦後文学における「身体」と「死体」 椎名麟三『自由の彼方で』
戦後文学の出発 第一次大戦後派から第三の新人まで
文学における政治、政治における文学
作家にして活動家であるということ
小林多喜二における自己絶対化 
野間宏における「仕方のない正しさ」
ガラスに頭を突っ込んで獲得する自由
母の自殺未遂から自称共産党員へ
絶望した人間と絶望的な戦い おれは、共産党員なんやで!
実存文学における「自由」とは 身体でも精神でも生命でもない

 
第七講 社会はミステリーにおける「病気」 松本清張『砂の器』
推理小説の起源 近代警察の父 
警察ほど見晴らしの良い場所はない
推理小説に表彰される社会空間
江戸川乱歩と東京の近代化 『新青年』と横溝正史
日本の推理小説の二つの潮流
「ヌーボー・グループ」とハンセン氏病
極端と極端の間にある社会 じつは芥川賞作家
殺人の動機となるほどの過去 日本の推理小説の弱点

 
第八講 正気と狂気の狭間の架空の病 川端康成『たんぽぽ』
居候の名人 時評家として文壇デビュー
『雪国』と文芸復興 あはれな日本の美しさ
佛界易入、魔界難入
畳の線を跨ぐような死に方
狂気は正気よりも個性が著しい
小説における病気の役割
「人体欠視症」と「魔界」の合致
夜はあるものなのよ

 
第九講 近代社会における神 武田泰淳『富士』
問題の多い作家 日本文学における中国
生き恥を晒した男としての司馬遷
「近代の超克」を忘れてしまってもいいんですか
日本における近代、中国における近代
毛沢東の与えたインパクト 転向文化と回心文化
病院も狂気、戦争も狂気 宮様とキリストの対決
勇ましく進め 無力な存在としての神

 
第十講 近代という病 柄谷行人『意味という病』
日本文学における批評のあり方
道頓堀とモーツァルト、穴子寿司とランボー
近代批評の成り立ち 三島由紀夫より売れる小林秀雄
宿命、私情、単独性
絶対的な空無にぶちあたった人間
自然に対して鏡を向ける 
シェイクスピアはわれらの同時代人か?
意味に憑かれた人間、自然としての人間
さまざまなるシェイクスピア
『ヴェニスの商人』の悲劇性
夫婦であることの確認作業
「近代」という病の治癒

 
特別講義 女性の身体と文学 円地文子『朱を奪うもの』三部作
女性としての身体を失った後の女性 「女流文学」のパイオニア
長谷川時雨と『女人芸術』 円地文子の修行時代 プロレタリア派との邂逅
恋愛も結婚も「スプリングボード」 計算違いの結婚生活
自分の「女」に溺れる男は誰一人いない 体を張るということ
荒らされぬいた女の整理 人生最大にして無量の敵
「女」と「作家」のトレードオフ
 
あとがき 福田和也

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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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