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待望の連載再開。東浩紀『パラリリカル・ネイションズ』最新話

批評家としての活躍で知られる東浩紀の小説作品『パラリリカル・ネイションズ』の最新エピソードとなる第6回が、カルチャー誌『papyrus (パピルス)』vol.44に発表された。隔月刊行の『papyrus』に連載されている本作品だが、前号・前々号には休載となっていたため、実に6ヶ月ぶりの連載再開ということになる。
 
震災前の「現代」で有り触れた退屈な生活を営んでいたはずの高校生「僕」が、変わり者の叔父の実験によって、奈良県にあったとされる7世紀頃の日本の首都「飛鳥浄御原宮」へと送り込まれてしまう。彼が送り込まれた先は、歴史が大きく改変された過去、あるいは別次元の時空となっており、そこでは携帯電話やテレビのようなものが当たり前に使用される、とても「過去」とは思えない世界だった。
 

 
歌聖として知られる和歌の名手で朝廷の高官でもある柿本人麻呂に拾われ、「僕」は彼の従者として生きていくことになる。「飛鳥浄御原宮」の世界では、「日本」はまだ「倭」の国であり、土蜘蛛と呼ばれる東方の異民族との領土争いが繰り広げられていた。『パラリリカル・ネイションズ』で興味深いのは、この戦いが、現実の兵馬と物理的な武器によるものではなく、人麻呂らのような「うたづかい」による「うた」の詠唱によって勝敗が決まるというところだ。それはほとんど魔法のようなものとして作中では描かれている。「うた」に込められた人々の「想い」が霊圧と呼ばれる力に変換されている、と作中では説明されている。この「うた」は、作品の重要なテーマとなっている。というのも、人々の「想い」を集めて力に変換する「うた」は、世界そのものに働きかけて、歴史をも改変してしまうからだ。
 
「僕」の故郷は福島県だったという設定になっており、「飛鳥浄御原宮」で出会った異民族のうたづかいによるテロに巻き込まれた際に、「僕」は東日本大震災のときの福島を幻視してしまう。この「福島」は、「飛鳥浄御原宮」に首都を置く「倭」が敵対している異民族の本拠地でもあった。「僕」が巻き込まれたテロは、「倭」のうたづかいによる歴史改変により、消滅されられた民族の「うた」によるものだった。存在しないはずの民族が、何故あらわれたのか?その謎を解くために、「僕」を連れて柿本人麻呂らの一行は東日本を目指す……。
 
この作品については、東浩紀が責任編集を担った思想史思想地図β3 日本2.0を紹介した時にも触れた。『パラリリカル・ネイションズ』では、言語芸術である「うた」が歴史を改変し、国や民族を形作る。これは『日本2.0』で論じられた憲法や文学、ジャーナリズムや芸術が持っている機能を、ファンタジー的に誇張したものだと言えるだろう。『パラリリカル・ネイションズ』の主人公である「僕」の名前は「ヒタカミ」というのだが、これは「倭」からみた東方の異民族の国が自ら名乗った名称「日高見の国」に通じる。現在の「日本」という国名は、「倭」が「日高見」を併合したときに彼らから国名を奪って付けたものだ、という説もある。
 
なお最新話となる今回は、「僕」と人麻呂ら一行は異民族の国との国境付近にある先住民の村に立ち寄る。この「先住民たちの村」の描写が面白い。
 
「広場の中心には、PCの筺体と液晶モニタの残骸で組み上げられた奇妙な塔が聳えていた。」
 
「塔を取り囲むように10人ほどの村人が、着ぐるみのような寝袋のような、正体不明の布にくるまり地面に仰向けに寝そべっている。全員がタブレット端末を操作していた。スクリーンの光が、無表情な顔を青白く照らし出す。」
 
「数理魔術のガラクタに埋まり、その再利用に依存し生きる狩猟採集民。彼らが集めるのは山菜や木の実ではない。文明が吐き出す廃棄物だ。」

 
このくだりを読んで僕は、かつて渋谷のとあるギャラリーで行われ、一部の美術愛好家たちの注目を集めた「展覧会」というか「パフォーマンス」(多少専門的な言い方をすれば「インスタレーション」)とでも呼べる、ある企画のことを思い出した。
 
その企画の概要はこうだ。地下にあるそのギャラリーに、ニートの歩き方の執筆者phaや、東日本大震災の際に「サーバが倒壊して身動きが取れない」というデマをTwitterで拡散させたドワンゴ社員の糸柳和法ら「ギーク」たちを集め、そのなかに「住ませた」というもの。思い思いにゲームやプログラミングに耽り、寝泊まりし飲み食いするギークたちを前に、噂を聞きつけてただ眺めるしかできず呆然とする美術ファンたち……という異様な光景が会場では散見された。

この展示を行った「カオスラウンジ」という団体のサイトに、「PCの筺体と液晶モニターを積み重ねて作られた塔」が中心に置かれた会場の風景を撮影した写真があるので、参考までにご覧頂きたい。(なお、『パラリリカル・ネイションズ』では、この塔は「広場」にあり、かつ塔の頂点には大きなアンテナが取り付けられているということになっている)
 
「破滅ラウンジ」と題されたこの展示は、美術家の村上隆、美術評論家の椹木野衣、そして東浩紀自身が訪れていた。東は会場から「すばらしい」「全面支持」とツイートし、高く評価していた。
当日の彼のツイートをまとめたページもあるので、関心のある人はそちらを参照してもらいたい。
東が「単純に祭りになっていて、美術の枠からはみ出していた。」と評価した会場の雰囲気を疑似体験してもらうため、下記の動画を紹介したい。
会期中にCDR(アーティスト名)によるライブが行われた際の会場の風景である(音量注意)

 
なお、『日本2.0』の「オープニングアートプロジェクト』でアートディレクションを担当したのは、この破滅ラウンジでも中心的な役割を担った梅ラボこと梅沢和木。そしてカオスラウンジのスポークスマンの一人である黒瀬陽平もやはり、『日本2.0』において椹木野衣・東浩紀とともに鼎談に参加している。

 
カオスラウンジは現在「受け入れ」と銘打った展示会を中野ザムザで開催しており、また9月には代官山蔦屋書店で梅沢和木も東浩紀とともに「思想地図β」の写真を担当した新津保健秀との鼎談が予定されているという。『パラリリカル・ネイションズ』とともに、彼らの動向にも今後注目していきたい。
 
【関連書籍など】


 

 
 
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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