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バチガルピ近未来SF最新作、ローカス賞受賞『シップブレイカー』

新鋭SF作家パオロ・バチガルピの最新作シップブレイカーが刊行された。
 
本作は、SF界の主要な賞を総ナメにした第一長編ねじまき少女に続く、バチガルピの第二の長編となる。『ねじまき少女』と同様、石油資源が枯渇し、温暖化が進み、地形や天候が大きく変化したことで荒廃した未来の世界で物語は繰り広げられる。
『ねじまき少女』はタイのバンコクが舞台だったが、今回はアメリカ大陸が舞台。主人公の少年は、浜辺に住み、難破して漂着してくる船の廃材を売って暮らしている。
ドラッグと酒と貧困のために暴力的な性格になってしまった父親と暮らす少年の過酷な状況が、ある事件を境に劇的に変化していく。
 

 
本作は、スコット・ウエスターフェルドによるスチームパンク作品リヴァイアサン クジラと蒸気機関に続いてローカス賞ヤングアダルト長篇部門を受賞した。
『ねじまき少女』や、『ねじまき少女』と世界観を共有する他の短編作品などに見られた、石油資源の枯渇によるエネルギー構造の世界的な変化は本作ではあまり描かれてはいない。
強調されるのは、主人公の少年が恐怖と別離を乗り越えながら自由を手に入れていく過程だ。
絶望的に見える過酷な社会構造のなかで、不利な立場に生まれついてしまった者が、躊躇しながらも勇気を振り絞って生きていく姿を描きだしている。
これは、バチガルピのデビュー作『ポケットのなかの法(ダルマ)』(短篇集『第六ポンプ』所収)『ポケットのなかの法(ダルマ)』(短篇集『第六ポンプ』所収)以来、『ねじまき少女』にも共通してみられるモチーフであり、今作にも貫かれている。
 

  

 
本作は、ヤングアダルト小説(若年層向けエンターテイメント小説)として描かれているため、『ねじまき少女』ほどハードな表現は少ない。しかし、少年は物語の進行上、2人の人間を手にかけて命を奪う。その描写も、その他の殺人以外の場面でも、読んでいて思わず顔をしかめてしまいそうになる「痛い」表現はバチガルピらしいところ。また、汚染された空気や水のおぞましさの描写が執拗なのもバチガルピならではと言っていいだろう。こういったいわば「悪趣味」な表現と、その対極にある自由さを象徴する場面(高速船で海を疾走する場面など)の対比は実に鮮やかだ。バチガルピは、この明暗のコントラストをくっきりさせながら、生まれつきの「運」とは何か、そしてそれを活かす「機転」とは何か、家族とは何か、仲間とは何か、というテーマを軽快に描き出す。

『シップブレイカー』原書版の表紙。
 
なおバチガルピの次作『The Drowned Cities』は、今作と同じ世界で、登場人物も一部共有されているとのこと。そちらは少年兵がテーマになっており、人と犬と虎の遺伝子を組み合わせた戦闘用の「強化人」も本作に引き続き登場。『ねじまき少女』『第六ポンプ』を読んで気に入った読者は、本作にも挑戦してみて欲しい。

  

 
 
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アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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