読書ガイド「本が好き!」が運営するニュースサイト

ウォルト・ディズニーが構想した理想都市、幻のディズニーシティ

気鋭の評論家速水健朗による新刊都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代が刊行された。本書は、人間の消費活動がどのような「都市」を作りあげていくのかを追った一冊。
 
19世紀の田園都市思想、社会主義者による都市計画の思想、ウォルト・ディズニーが晩年に構想した理想の都市像などを紹介しながら、日米のショッピングモールの移り変わりを概説する。
速水によれば、ショッピングモールは単なる複合的な商業施設にとどまらず、オフィスやホテル、住宅などを結び付け、都心部の再開発に重要な役割を果たす。
近年急増している、ショッピングを目的とした外国人観光客に対して、国際的にみてショッピングモール後進国である日本が今後どのように発展していくべきか、そのヒントにもなる興味深い内容だ。
 

 
ウォルト・ディズニーはかつて、何度も「理想の街」を作り出そうと苦心していた。
ディズニーは、住人が三万人程度に制限され、素性のわかった人たちだけで構成される「犯罪ゼロの街」を夢想していたという。
そのディズニーが晩年に思い描いていた「EPCOT」というプロジェクトは、彼の死によって中断され、この都市のためにディズニーが購入していた土地は現在の「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」という、複数のテーマパークをホテルなどの施設が取り囲む大型の複合リゾートとして完成した。
 
なお、この「EPCOT」を構想するにあたってディズニーは「ショッピングモールの父」と呼ばれるビクター・グルーエンが作ったショッピングモールを熱心に視察していた。グルーエンは建築家として多くのショッピングモールの設計を手がけただけではなく、当時衰退していた都心部から郊外に移り住み始めていた新興の中流階級の人々に対して、治安の良い公共空間を用意するべく、都市計画的な思想を作り上げていた。ちなみにグルーエンは日本でも銀座や新宿で成功している「歩行者天国」を発案した人物でもある。
 
また、ディズニーは19世紀の田園都市思想の影響も受けている。エベネザー・ハワードという思想家によって提唱された「田園都市」は、日本の都市計画家である渋沢栄一にも参照された。なお、のちの彼の事業を継いだのが東急電鉄である。ハワードの提唱した「田園都市」とは、産業社会における一極集中型の大都市ではなく、自給自足が可能な住宅と農地で構成される、規模を制限された都市モデル。それぞれの都市は拡大を制限されながらも、互いに高速道路のネットワークで連結される。
 
商業施設、オフィスやホテル、住宅を結び付けた都心部の再開発の例として速水は六本木ヒルズを紹介している。
六本木ヒルズは、テレビ朝日という情報メディア企業の社屋をテナント群の核として擁する、商業施設、オフィス棟、レジデンス、ホテルなどが集積したショッピングモール。
このような大規模なショッピングモールによる都心部の再開発は、速水によると、アジアや中東では珍しくないという。
 
例えば、世界一の高さを誇るブルジュ・ハリーファのすぐとなりに建つドバイモール。ブルジュ・ハリーファに追い抜かれるまでは世界一高い超高層ビルだった台湾の「台北101」は地上五階までがショッピングモールになっている。
東京スカイツリーにも、プラネタリウムや水族館といったアミューズメント施設を備えたショッピングモールが併設されている。
 
こういった例を参照しながら、速水は理想の都市の在り方、ショッピングモールの機能、その機能を活かしての都心部の再開発を論じていく。

 

 
【関連書籍など】


 

目次
==================================================

まえがき
 
第一章 競争原理と都市
 コインパーキングによって変わった街の風景
 都市のすき間を埋めるビジネス
 公共施設にスターバックスができる理由
 病院にカフェが増えるメリットとは
 サービスエリアの民営化による変化
 競争原理のもうひとつの側面
 東京駅、羽田国際ターミナル、東京スカイツリー
 ステーションシティ化とは何か?
 空港民営化時代の競争戦略とテーマパーク化
 東京スカイツリーとショッピングモール
 グラウンドゼロの教訓と都市の創造者
 最適化する都市=ショッピングモーライゼーション
 六本木ヒルズはショッピングモールか?
 商店街の衰退について回るウソについて
 社会学から見たショッピングモール批判
 まちづくりとコミュニケーションデザインブームへの違和感
 
第二章 ショッピングモールの思想
 ディズニーの最後の夢とショッピングモール
 ウォルトの最初の“夢の王国”
 都市の夢と二〇世紀初頭の偉人たち
 鉄道マニアの果てに
 東西冷戦とノスタルジー
 保守主義者・愛国主義者のウォルト
 “夢の王国”の誕生
 テーマパークとは何か?
 テーマパークと物語の導入
 アメリカにとっての建国物語である西部開拓史
 「トイ・ストーリー」に示された二つのフロンティア
 ディズニーランドの視覚効果
 ディズニーランドの次の夢
 ウォルトの死によって完成しなかった都市
 犯罪ゼロの理想としEPCOT
 一九五〇年代の大都市の荒廃
 ショッピングモールの父、ビクター・グルーエン
 ショッピングモールと田園都市
 
第三章 ショッピングモールの歴史
 街と消費のかかわり、パサージュから百貨店へ
 スーパーマーケットの登場
 黎明期のショッピングモール
 現代のショッピングモールの原型の登場
 モータリゼーションからスーパーハイウェイへ
 ルート66の廃線とアメリカ人のノスタルジー
 「カーズ」で描かれるアメリカ道路行政の転換点
 アメリカ的生活とショッピングモール
 「シザーハンズ」とニュータウンの共同性
 「シザーハンズ」と郊外生活者のディストピア
 公共性を帯びていく六〇年代のモール
 モールに対する反発と批判の一九六〇年代
 映画「ゾンビ」のショッピングモールの様式
 人はゾンビになっても消費から逃れられない
 ゲイテッドスペースとしてのモール
 モールの手法を用いた都心の再開発が始まった一九七〇年代
 観光地と結びつくモール
 複合プロジェクト型再開発時代の始まり
 映画「ターミネーター2」とダウンタウンモール
 サンディエゴの都心再開発とジャーディ
 アメリカダウンタウンのモーライゼーション
 ボードリヤールのモールへの予言
 
第四章 都心・観光・ショッピングモーライゼーション
 東京近郊高級住宅街の現在
 緑と明るい空間に太陽光が差すモール
 日本最初のショッピングモール
 鉄道会社主体の都市計画
 多摩田園都市というニュータウンの誕生
 中流階級台頭とモールの普及
 モールとデパートの違い
 
【自動車時代のショッピングモール ららぽーと TOKYO-BAY】
 日本版本格的郊外型ショッピングモールの誕生
 船橋ヘルスセンターと東京ディズニーランドの共通点
 モール=ハードウェア、テナント=コンテンツ
 ショッピングモールにとっての優良コンテンツ
 
【観光地とショッピングモール】
 アミューズメントパークとモール
 ラスベガスのショッピングモーライゼーション
 ジャーディとラスベガス
 モール、テーマパーク、”シティ”への環境変化
 
【1990年代の日本のショッピングモール状況】
 1990年代以降の日本のモール急増
 日本版ダウンタウンモール
 代官山モーライゼーション
 都市とコンテンツ、モール化するテレビ局
 
【グローバル化とモールの関係】
 訪日観光客で変わる街
 観光客はショッピングモールを目指す
 世界のモール化する観光地
 クアラルンプールのショッピングモール
 観光都市という視点
 ショッピングモーライゼーションがもたらすもの
 
あとがき
==================================================

 

 

【関連ページ】

内藤理恵子 の読書道: 速水健朗『都市と消費とディズニーの夢』

当記事とは別の角度から本書を紹介しているページ。
関連書籍も挙げられていて、参考になります。
僕は『ターミネーター2』の分析を面白く読みましたが、こちらのページの書き手の内藤さんは『ゾンビ』に触れたくだりが楽しかったようです。動画も挙がってます。
 

速水健朗・新刊「都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代」に写真提供させていただきました:[mi]みたいもん!

本書に写真を提供した人気ブロガーいしたにまさき氏によるエントリー。
掲載された写真は「モール・オブ・アメリカ」という超巨大ショッピングモールを撮影したもの。
この「モール・オブ・アメリカ」は、アメリカ合衆国ミネソタ州にあるのですが、そのミネソタ州の総人口500万人の8倍にあたる4,000万人の客が1年間に訪れるといいます。ものすごいです。
 

郊外・ロードサイド空間はどこへ続く?

トヨタのSC合流によりクルマ社会の風景が変わる

知られざる米国SCの時代史

鉄道が生んだ日本の郊外とSC

鉄道が生んだ日本の郊外とSC

日経BP社 ケンプラッツでの、速水氏の連載。有料コンテンツだが、読み応えのある内容でオススメ。
(ただし、本書の後半と重複あり)
 
==================================
【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
==================================
==================================

 
「BOOKニュース」では出版系のイベントからマニアックな新刊情報まで、
本に関する情報を収集して紹介しています。
ユニークな本を出される出版社様、
紹介させていただきたいのでBOOKニュース宛に新刊をぜひ送ってください!
↓宛先はこちら↓
〒333-0834
川口根岸郵便局留
Bookニュース 永田希

twitterアカウント(@honzuki_news)でもときおり呟いております。
RSSフィード購読はこちら。

コメント

コメントをお寄せください。

コメントの投稿

コメント(必須)