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デブっていうな「ふとましい」といえ!「樽ドル」の放つ芳ばしい魅力

シングルモルト・ウイスキーにとって、オーク材で作られた「樽」は欠かせません。樽に入れて熟成させることによって、香りや味に深みが与えられ、あの独特の「芳ばしさ」が生まれるのです。さて、アイドルの世界にも重要な「樽」があると言われています。「樽ドル」。アイドルという、人類が生み出したメディア産業の象徴的な領域にあって、とりわけ独特の「芳ばしさ」を放っているのが「樽ドル」です。
 
樽ドル」とは、「樽のような体型のアイドル」のこと。シェイプアップされた自らの身体を誇示するグラビアアイドルたちが、水着やきわどい衣装で強調する腰の「くびれ」が過当競争の様相を呈し始めた結果なのか、童顔志向・巨乳志向・巨尻志向の行き着く当然の帰結としてか、何故か最近存在感を増しつつある彼女たち。
今回のBookニュースは、この動向についてあらためて考察を加えてみたいと思います。
 

※演技派女優として注目を集める成海璃子も、数年前は「樽ドル」と呼ばれていた。この写真集は最近注目を集めている写真家の川島小鳥が撮影したもの。
 
では樽ドルを代表するアイドルは誰なのか。たとえば、プレイステーション向けゲームサムライ&ドラゴンズのイメージソングを歌って、その歌唱力の高さで話題を呼んだ篠崎愛。「無料ダウンロード版」をアピールするこのイメージソング『Play for free』のタイトルや歌詞の強烈な脱力感と相俟って、彼女のプレゼンスの放つインパクトに絶句し、高揚を抑え切れない感動に打ち震えてしまった人は少なくない筈だ。

ウェスト周りのサイズについて実際の測定値と公式プロフィールの数値とがかけ離れており、そのことをファンに謝罪するなど、独特のエピソードを持つ篠崎。所属事務所も、樽ドルとしての彼女の方向性を支持しているというのが心強い。
 
「樽ドル」という言葉を広めたのは、これを敢えて自称した類家明日香と言われているそうです。写真集乳しぼり教室というタイトルも凄いです。

 
そもそも、なぜアイドルは痩せていなければならないと考えられてきたのでしょうか。アイドルを基準にして過剰なダイエットに励み、摂食障害に陥る人々は枚挙に暇がありません。アイドルではなく広告モデルの話ですが、今年3月にはイスラエルで「痩せすぎの女性モデルの広告を禁止」するという法律も制定されました。アイドルの痩せぎすな姿に痛々しさを覚え、その反動で樽ドル志向が生まれてきたと言っても言い過ぎではないはずです。
激しいダイエットによる身体改造は、自分自身の肉体との戦いであるという点で、反社会的唯美主義の発露としてゴス文化のなかに取り入れられもしてきたのですが、そもそも「痩せている人が美しい」という社会通念が普及した現代にあっては、むしろ太っていることのほうが反社会性を帯びているとも言えます。世の中には「ファット・フェミニズム」という思想もあり、「樽ドル」というアイドルのひとつの領域に留まらない可能性の広がりが「樽」というテーマには潜んでいるように思えます。
 
たとえばでぶ大全という、人によっては奇書に思われるかも知れない書籍があります。これ、珍しいという意味では奇書なのですが、内容はいたって真面目。そもそも現代社会以外(いわゆる前近代的な社会)では、「太っていること」は豊かさの象徴であり、美しいと言われていたことを歴史的に論じています。

 
また、「樽ドル」のほかに、ネットスラングで「ふとましい」という言葉もあります。これは、肉感的なうつくしさを端的に表現するものとして素晴らしい。たとえば上掲『でぶ大全』の表紙に描かれている女性も「ふとましい」ですね。もちろん篠崎愛もふとましい。「ふくよか」「グラマラス」「ぽっちゃり」といった表現もあるのですが、どことなく崇高な畏敬を含んだ「ふとましい」が僕は一番お気に入りです。たとえばたかまれ!タカマルのヒロイン幸地ゆきえや、アニメ『RD 潜脳調査室』を見てもらえば、この「ふとましさ」の魅力がわかってもらえるのではないかと思います。

 
もっとも、ここまで述べてきた「樽」礼賛に関連して、微妙な難問が存在していることも無視できません。社会現象としての肥満問題です。実に人口の60パーセント以上が「肥満」状態である、というアメリカの現実を扱ったデブの帝国―いかにしてアメリカは肥満大国となったのかなどにもあるように、脳天気に「でぶ礼賛」というわけにはいかないのです。これはアメリカ化が進む日本においても同じこと。僕も日々太ってきており、久しぶりに友人に会うとほぼ確実に「…太った?」と遠慮がちに尋ねられるようになりました。この「遠慮がちに」というところがミソで、良い感じに「恰幅よく」なっているならば心配そうには言われないはずなんですね。要は醜く太ってしまっていると。どうせ太るならば美しく太りたいものです。

    

 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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