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SFの未来は日本から始まる。『THE FUTURE IS JAPANESE』

豪華な顔ぶれのアンソロジーが邦訳された。「日本」をテーマに編纂されたTHE FUTURE IS JAPANESEは、円城塔・伊藤計劃・飛浩隆・小川一水・菊地秀行ら日本人作家と、八人のアメリカ人作家の作品を集めたもの。
 
「日本」という、世界史のなかで特異な位置を占める場所とその文化を題材に、時に思弁的に、時に軽薄に、様々な方向性を持った作品が収録されている。
なお、原書を刊行した出版社「ハイカソル」は日本のSFを精力的にアメリカに紹介しているレーベル。フィリップKディック賞を受賞した伊藤計劃の『ハーモニー』英語版も出版した版元だ。
 

 
本書には、伊藤計劃『The Indifference Engine』英語版がそのまま収録されているので、日本語版と読み比べるのは楽しい。
飛浩隆『自生の夢』は、NOVA1で発表され、彼に二度目の星雲賞をもたらした傑作。GOOGLEによる世界の情報の収集と構造化、iPhoneのようなパーソナルデバイスの普及とTwitterやFacebookのようなサービスのライフログ的な側面の結び付き、これらが現在よりも遥かに高度に発達した世界を舞台に、伊藤計劃虐殺器官のジョン・ポールのような天才小説家と仮想人格が対話する。
美しい情景描写と、胸をえぐるように深い感情的なやりとり、そして目眩がするほど仮想的な舞台設定が共存している刺激的な作品だ。
 
円城塔の『内的天文学』も素晴らしい。遠い未来、現代のような技術が失われた世界。技術だけではなく、その基礎となる数学的な定理すらも失われ、物理的な法則までも狂っている。悪い冗談のような設定ではあるが、「天体観測」という壮大なモチーフと、老人と子供たちという素朴な登場人物の会話劇によって、驚くほど爽やかに読めてしまう。
 
漫画家TAGROの代表作サルガッ荘を思わせる、小川一水の『ゴールデンブレッド』も面白い。
宇宙空間で侵略行為を繰り返すようになったヤマト民族の一人「豊菓」は、辺境の小惑星に不時着する。そこで出会う、「カリフ」と呼ばれる民族との触れ合いを描く作品なのだが、文明開化前後以来の日米の文化的な軋轢の数々を戯画化しており、これをアメリカ人がどう読んだのか考えてみるのも一興だろう。
 
アメリカ勢も、読み応えでは負けてはいない。
 
ケン・リュウ『もののあはれ』にある、いかにも「日本人の文化を理解しています」という上品な態度は、かえって作者が複雑で一枚岩ではない「日本」の現実を見落としているようにも読める。しかしそれはそれで横に置いておけば、この作品に描かれている穏やかな自己犠牲の美しさは胸を打つ。
 
やや激しめのアクション映画のようなエンターテイメントを提供してくれるのは、フェリシティ・サヴェージの『別れの音』。
仮想空間でのコミュニケーションが当たり前になった世界で、現実の調印が必要な離婚手続きの代行を仕事とする主人公が、あることをきっかけに世界設定の根幹に関わる計画に参加するというもの。
 
富士山麓の樹海を舞台に、自殺と幽霊をテーマにした『樹海』を描くのはレイチェル・スワースキー。
黒沢清の映画のような美しい暗さと、独特の乾いた空気感が共存している不思議な作品だ。
 

 

【関連書籍など】


 

目次
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もののあはれ
ケン・リュウ
 
別れの音
フェリシティ・サヴェージ
 
地帯兵器コンビーン
デイヴィッド・モールズ
 
内在天文学
円城塔
 
樹海
レイチェル・スワースキー
 
率直に見れば
パット・キャディガン
 
ゴールデンブレッド
小川一水
 
ひとつ息をして、ひと筆書く
キャサリン・M・ヴァレンテ
 
クジラの肉
エカテリーナ・セディア
 
山海民
菊地秀行
 
慈悲観音
ブルース・スターリング
 
自生の夢
飛浩隆
 
The Indifference Engine
伊藤計劃
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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