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あなたも私もサイコパス。サイコパスだらけの現実へようこそ。

サイコパス。人間らしい感情を持たず、罪悪感や後悔の念も持たない、冷酷な人格障害。他人の感情を理解しないというこの性格は、現代社会の上層部に最適で、大企業の社長や幹部、大物政治家などの多くはサイコパスなのだという説も存在している。
今回紹介するサイコパスを探せ! : 「狂気」をめぐる冒険は、『ヤギと男と男と壁』というタイトルで映画化もされた実録・アメリカ超能力部隊の著者ジョン・ロンソンによるノンフィクションだ(フィクションだと思っていたのですが、なんとノンフィクションとのこと!)。
 
本書の目的は明らかに「サイコパス=性格異常者」という偏見に対する解釈に対する批判。とはいえ、たとえば哲学の教養を面白おかしく魅力的に紹介しようとしたソフィーの世界のように、『サイコパスを探せ!』も奇妙な登場人物たちによる微妙に歪んだ空気感が非常に楽しい1冊だ。読み進むごとに、現実と少しだけ位相のズレたような世界が展開されていく。…と書いたのですが、なんとすべて現実だったのです。
 

 
本書のストーリーは、次の通り。
世界中の大学にいる様々な分野の研究者たちに届けられた謎の本がキッカケで、主人公であるジャーナリストのロンソンが「サイコパス」をめぐる調査を開始する。
この調査の過程でロンソンは「サイコパス」という精神異常は本当は存在しないかもしれないという疑念を抱くようになる。
それと同時に、誰しもが精神異常を心の中に生じさせる可能性を持っており、そして誰しもそれを演じることができることにも気がついていく。
 
つまり「ある誰かがサイコパスである」という断言も「その人がサイコパスではない」という断言も、どちらも疑わしいことが明るみに出てしまう。
現実に存在していそうな(というか、実際に存在している)どこかちょっとオカしい登場人物たちは、ちょっと迷惑過ぎるところもあり、ちょっと愛らしいところもある。
 
「頭がおかしいと彼らに思わせることよりも、正気だと信じてもらうことのほうがはるかに難しい」
これは本書に登場する、凶悪犯罪者向けの精神病院に収容されている患者の発言だ。
物凄く怪しいキャラクターが、一見したところ非常にマトモなことを言う。
その発言されるタイミングが絶妙で、どうにも一概に信じることが難しいのだ。
 
ロンソンはコラムニストとして活躍したのち、テレビのドキュメンタリー番組を多数制作し高い評価を受けたという経歴を持つ人物。
ネオナチやKKKといった過激な思想を持つ人々にインタビューした『彼ら 過激論者をめぐる冒険』でデビューした変わり種だ(本書にも、様々な怪しい思想の持ち主や怪しい職業の人間が多数登場する)。
 
「サイコパス」といえば、BOOWYの名曲のタイトルにもあります。

 

ガゼットにも同様の曲があります。ロックと相性が良いようですね。
 
僕は本書を読んで、「人間性」という文化的な形成物が、20世紀の社会のなかでどのようにして解体され形骸化していったのかを追跡した20世紀思想を読み解く 人間はなぜ非人間的になれるのかのことを思い出しました。『サイコパスを探せ!』が正気と狂気のあいだで「サイコパス」的に見做されてしまう人々や、彼らに「サイコパス」というレッテルを貼ってしまう人々を巡っていたのに対して、『20世紀思想を読み解く』の方は、そもそもその「正気と狂気」を定義付ける「マトモな人間性」というものが思想史の中でどう扱われてきたのかを扱うもの。

 
『サイコパスを探せ!』を読んでいるときに、同じ版元から暇と退屈の倫理学で最近注目を集めている哲学者の國分功一郎氏がテレビ出演されるということを知りました。
第一回目となる8月28日の放送では『ファイト・クラブ』を扱うとのこと。
現代社会のなかで築かれる「人間らしい平穏な生活」、その消費社会的な側面を暴き出し、互いに殴りあい傷つけあう劇中の「ファイト・クラブ」というものや、最終的にその暴力が社会や資本主義のシステムに向かって牙を剥くところなどを考えると、人間性や社会性に対する破壊行動という点で、『サイコパスを探せ!』と『暇と退屈の倫理学』は共通するところがあるのかも知れません。
サブカル好きで知られる吉木りささんが共演するというのも気になります。

 
『20世紀思想を読み解く』の塚原史氏も、『暇と退屈の倫理学』の國分功一郎氏も、どちらもボードリヤールという社会思想家の思想を高く評価しています。消費社会のなかで、人々の生活がないがしろにされていってしまうという状況を分析し告発したボードリヤールですが、彼の本は邦訳でもかなり読解が難しいので、入門書として昨年刊行されたボードリヤールなんて知らないよがオススメ。

 

【関連書籍など】


 

目次
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1 パズルの欠けたピースが見つかった
2 狂気を見せかけた男
3 サイコパスはモノクロの夢を見る
4 サイコパス・テスト
5 トト
6 ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
7 正しい種類の狂気
8 デイヴィッド・シェイラーの狂気
9 ちょっとばかり望みが高すぎるんじゃないか
10 防ぎえたレベッカ・ライリーの死
11 グッド・ラック
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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