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自衛隊は軍隊か?ガチ展開の軍事ラノベ『君が衛生兵で歩兵が俺で』

君が衛生兵で歩兵が俺では、たぶんライトノベルだ。
でも内容が軽くない。軽い文体で重いテーマを扱おうということなのだろう。非常に読みやすい。驚異的な読みやすさだ。では「重いテーマ」とは何か。それは日本の平和主義の象徴「憲法第9条」の是非である。このラノベは、よりによって「憲法第9条」をテーマに据えて、「自衛隊は軍隊か?」という問題に正面から対峙する。
大丈夫かスマッシュ文庫!?
 
「半分高校生、半分自衛官」という、下士官養成用の高校「武山高校」に通う男女3人が、突如クーデターに巻き込まれ、首相代行兼防衛大臣の親衛隊として戦場と化した日本を生き抜く、というのが本書のストーリー。重い、重いよ!
しかし文中のはしばしにはサブカルネタが周到に配置され、要所要所に挿入される萌え絵のクオリティも低くなく、目を愉しませてくれる。
ネタ先行型のラノベかと思いきや、骨太の思想をライトノベル形式(読みやすい文体)でコーティングしたガチ文学でした。
 

 
以前に当Bookニュースでも紹介したことのあるベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略の分析を本作にも当てはめて読み解いてみよう。

 
まず「ネタになる」については三島由紀夫からミリタリーオタクネタ、ガンダム、ジョジョ、エヴァンゲリオン、その他無数のサブカルネタが盛り込まれている。もちろん、それらは周到に織り込まれているので、ひとつもわからなかったとしても本書を楽しむことはできるだろう。
 
次に「残念」系のヒロインの存在。本作のヒロインは特撮オタクである。作中で、プロパガンダのためのかなり怪しい特撮ヒロインものの主役を嬉々として演じていたりする。
 
「差別化」については、もう、これは他の追随を許さないだろう。ミリオタネタじゃ済まない、完全にポリティカルで硬質な内容の本作。しいていえば同人誌で刊行されているノンポリ天皇による『戦え!憲法9条ちゃん』とかは近いかも知れない。でもあっちはネタに走っているけれど、本作はかなり硬派だ。

 
そして最後の「楽しい」についてだが、本書の一番重要なところはここだと僕は思う。目次に「僕らの大祖国戦争」とあるとおり、まるで宗田理の往年の名作ジュヴナイル僕らの7日間戦争のような「子供たちが戦争をする」独特の高揚感と楽しさとが同居している(ちなみに「大祖国戦争」とは、ナチスドイツの猛攻を受けたソビエトロシアが、自国を守るために戦ったことを自ら指すときに使われる表現)。もちろん、僕はかつて宗田理作品を読み漁っていたからわかるのだけれど、本作と宗田作品とは、時代や政治に対する切迫感においては正反対の性格がある。でも、ジュヴナイルとしての「楽しさ」は共通していると言えるだろう。

 
要するに、本書は傑作である。
これがベストセラーライトノベルになってもいないし、ましてや単なる話題作として騒がれてもいないのは不思議だ。
黙殺されているのだろうか。それとも、ヒロインの萌えが足りないのだろうか。
自衛隊の制服が似合う、アイドルもできる優等生ヒロイン、僕は大好きだ!
OVAでもいいから映画化して欲しい!
『陸上防衛隊まおちゃん』も良かったかもしれないけど、こっちのほうが断然素晴らしいと思う。

※アニメ『陸上防衛隊まおちゃん』OP

 
 
以下に印象的だったセリフを引用します。
「私たちの最大の敵は、憲法九条そのものです」
「少年少女が理想のために戦う姿は、日本人のメンタリティを強く刺激します」
「通りは殿方のしかばねでうめつくされます。みなひとしく、彼女にこがれ死ぬのです」

…これヤバいですよね。
 
本書の登場人物のなかでいちばん魅力的なのは、武山高校の校長で首相代行兼防衛大臣の繭川巴だろう。
元自衛隊員で30代前半の美女。なお上記のヤバいセリフはすべてこの繭川さんの発言である。
彼女が率いる「国社党」という政党が、まるでナチスのように政権を掌握し、事実上の戒厳令をしくまでの過程は手に汗を握る展開。
 
憲法九条の妥当性をめぐる後半の緊迫感あるストーリーも素晴らしかった。この記事を読んで興味を持たれた読者には、とりえあずネタとしてでもいいので入手してもらって、アツい展開に号泣してもらいたい。
 

【関連書籍など】


 
目次
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第一編 日米安保条約によせる国際法的検討
 
第二編 内閣総理大臣臨時代理をめぐる憲法学的論考
 第一章 総理のいない二月
  第一節 気になるあいつはまだ一士
  第二節 醒めよ我が同志
  第三節 半長靴の響き
 第二章 日本の雪は主に首都に降る
 第三章 わが上司 繭川巴 決断するナショナルソーシャリスト
  第一節 音矢、暴走す
  第二節 野望の帝国
  第三節 君が衛生科で普通科が俺で
 第四章 総統閣下の外国語
 第五章 日本の赤い霧
 第六章 大獄ハヤトの溜息
 第七章 デュース・アゲイン
 第八章 栄光の旗のもとに
  第一節 最後の授業
  第二節 殉国の鮮血
  第三節 国家への一撃
 第九章 ぼくらの大祖国戦争
 第十章 ソルジャー・ブルー
 第十一章 ほんとうは強い日本
 
第三編 確信犯と違法性の意識に関する刑法学的考察
 
あとがき
  
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ちなみに本書の販促用の動画もあったので貼っておきます。

 
【関連ページ】

この世の全てはこともなし : 君が衛生兵で歩兵が俺で 篠山半太 スマッシュ文庫

ネタバレありの書評。やはり「ラノベの皮をかぶった何か」と言われています。
でもライトノベルとしても面白く読めたんだけどなあ、僕は…
三島由紀夫の言葉や、元ネタと思われる映画『皇帝のいない八月』、『パトレイバー2』にも言及しています。
「普通のライトノベルには有り得ない読後感を与えてくれる作品」とのこと。
 

現役自衛隊員が執筆したラノベ登場!『君が衛生兵(ナース)で歩兵が俺で』が6月17日発売 : はちま起稿

刊行前の評判はこんな感じ。
 

君が衛生兵で歩兵が俺で | まいじゃー推進委員会!

感想記事。
「てっきり軽いコメディだろうなと思って読み始めてみたら……とんでもなかった。ガチ話でした!」とのこと。
 

【ラノベ感想】『君が衛生兵で歩兵が俺で/篠山 半太』|紅いお茶受け。

感想記事。
「極めて特殊かつデリケートなテーマを真っ向から切り出し、叩きつけてくる作品。」「どうにも判断に困る一冊。」とのこと。
 

予備自でラノベ書くことになった者だけど質問ある?

本書執筆前に、著者が2chに立てたスレッドのログ。
後半を読むと、どうやらamazonのレビューをめぐって一悶着あったようです。
それより、本作の元ネタというか先行作品として状況開始っ!というAVGがあったことがわかったのは収穫。

 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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