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「セフレ」とは事実上の恋人関係を認めていないだけじゃないのか?

mixiで知り合ってmixiで恋をして、リアルに結婚してリアルに離婚した僕が恋愛のアーキテクチャという本を読んでみた。
 
この本は、小説家の平野啓一郎、『攻殻機動隊スタンドアローンコンプレックス』で脚本を書いた櫻井圭記、そしてアーキテクチャの生態系の著者としても知られる濱野智史の3人による同名のシンポジウムに端を発し、小説家の赤坂真理や、人間文化学者の金益見、コピーライターの木村亜希らを迎えて座談会や論考を集めた一冊。従来の「恋愛」という人間関係のあり方が、最近の情報環境の変化のなかで、どのように変容してきているのか、そしてどのように変容しないでいるのか、そこを話題にしている本だ。SNSをきっかけにした恋愛やセックスや結婚、twitterなどにいるbotとの恋、最近のセフレのあり方などが取り上げられ論じられている。これはアツい。
 

 
本書の構成は次のとおり。まず前半は櫻井氏、平野氏、濱野氏の三人のシンポジウム、そしてその翌年に行われた、この三人にさらに赤坂氏、金氏をくわえた座談会の採録。後半は、コピーライター木村亜希氏、金氏、櫻井氏、濱野氏らの論考が掲載されている。

 
なかでも興味深いのは、櫻井氏の論考だ。個人的な後輩から聞き取った具体的なセフレ事情、AKB48の人気、初音ミクやラブプラスなどを分析しながら、最近台頭してきている「新しい恋愛」について論じている。
 
櫻井氏が論じている対象は、たった一例の個別特殊なケース(セフレ)であったり、AKBや初音ミクのような一部のマニアにしか該当しない話題であったり、「そこから一般化したら極端すぎるのでは?」と思われるような内容ではある。しかしそう思いながらも、不思議と本筋に納得させられてしまう。これは脚本家という櫻井氏の職業的な技術によるものだけではないだろう。
 
櫻井氏が語る「セフレ」とは何の事なのか。セフレとは「セックスフレンド」の略で、恋人ではないがセックスはする相手を指す。櫻井氏が話題にするのは、とある彼の後輩から仕入れたセフレ事情だ。
彼の後輩には恋人がいない。しかしセフレがいる、という。そのセフレと、彼の後輩はまるで恋人のような関係を続けながら、互いをいわゆる恋人とは見做さない。ほぼ毎週デートして、会わないときにも頻繁に電話などで連絡を取り合う。セックスもしているし、互いに他に相手がいるわけではない。それにも関わらず、2人は「恋人ではない」のだという。だからどちらも他に「恋人」ができても、そこに嫉妬は起きないのだという(ほんとうだろうか?)。
 
僕の友人から、このケースと似たような関係を誰かと築いていると聞かされたら、僕は不審に思うだろう。事実上の恋人関係を、単に認めていないだけじゃないか、と。
櫻井氏が卓見なのは、そこに「新しい恋愛」を読み取るところだ。櫻井氏は、AKBや初音ミクのような文字通りヴァーチャルな恋愛、いわゆる疑似恋愛・仮想恋愛の側面のあるテーマを例にあげながら、彼の後輩の「セフレ」関係では、恋愛が極限まで理想化されていることを指摘する。
 
恋愛が極限まで理想化されることによって、「自分にはもっとハイスペックな恋人が現れるかもしれない」という可能性に執着し続けてしまう。目の前の相手との関係を、いわゆる恋愛とは認められなくなってしまうのだ。
 
この話題は非常に興味深い。本書のなかで、平野氏と赤坂氏という2人の作家がそれぞれ異なる方向性に展開させている。
ひとつは平野氏が提示した、「分人(ディヴィジュアル)」という考え方。人間集団の最小単位として「それ以上分割できない」ということで「インディヴィジュアル」と呼ばれた「個人」が、社会の流動化や携帯電話のようなパーソナルデバイス、インターネットなどのメディアの発達によって「さらに分割される」ようになった、と平野氏は述べる。
会社での性格と、仲間内での性格と、家庭での性格とがそれぞれまったくといっていいほど違うような、バラバラの性格が、従来「個人」と呼ばれていた「1人」のなかに共存する。平野氏はこの個別の性格を「分人」と呼ぶ。このように「個人」からさらに分割される個別の性格があらわれるような状況で、従来のような「個人」どうしの「恋愛」は成立するのだろうか。それは難しいだろう。自然と新しい「恋愛」のかたちが生じてくると平野氏は考える。

 
赤坂氏は、セフレの話題の背後に、女性誌などのメディアの影響を指摘する。メディアが恋愛的、性的な幻想を過剰供給した結果として、男性はAKBや初音ミクに、女性は韓流アイドルに、といったように、手の届かない存在への希求を強めているのではないか、というのだ。
櫻井氏のいうセフレの話に関連して、恋愛を身近なものとして受け取れないという点を挙げている。

 
櫻井氏の論考によると「ヴァーチャル」とはいわゆる「仮想」という意味以前に、「事実上の」という意味がある。
つまり「ヴァーチャルな恋愛」というときには、「仮想的な恋愛」だけではなく、「事実上の恋愛」というニュアンスも帯びているのだ。
たとえば、AKBのメンバーや初音ミクとの疑似恋愛は単なる疑似恋愛ではなく、それがヴァーチャルな恋愛である限りで「事実上の恋愛」だと言える。そして、櫻井氏の後輩のようなセフレ関係も「事実上の恋愛」である限りである種の「ヴァーチャルな恋愛」だと言えるのだろう。
本書は、これらの「新しい恋愛」をとりまく環境条件について様々な角度から分析が加えられている。
 
ちなみに、僕はmixiで知り合った人と結婚して五年間結婚生活を送ったあと離婚した。いわゆるmixi婚だ。離婚のほうはあまり思い出したくないので詳しくは書かないが、結婚に至るまでの過程は本書に書かれているような「ヴァーチャル恋愛=事実上の恋愛」だったと思う。親に結婚相手を紹介するときに、「mixiで知り合った」と言い出せなくて「友達の紹介」と言っていたのは良い思い出だ。
なお、僕の両親は高校の同級生だったことが縁で結婚したらしい。本書では、文学者の小谷野敦氏が夏目漱石『三四郎』について「同級生どうしの結婚は近代的」なことだったということが紹介されている。近代的な結婚の次世代である僕が、現代的な出会いとしてネット越しの恋愛から始まる結婚をするのは不自然ではなかっただろう。
 
…いま思うと、しかし、僕が結婚してからもヴァーチャルな恋愛を続けていたことが離婚の原因になっていたような気もする。詳しくは書けないが、新しい恋愛のかたちはいまだ定着していなくて、旧来の制度である「結婚」とはあまり相性がよくないのかも知れない。
 
【関連書籍など】


 
 
目次
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はじめに 小川克彦
 
第1部 恋愛のカタチ
恋愛のアーキテクチャ 濱野智史/平野啓一郎/櫻井圭記
 恋愛のいま
 恋愛へのモチベーション
 恋愛はコンテンツを駆動させるか?
 
アーキテクチャとしての恋愛 濱野智史/平野啓一郎/櫻井圭記/赤坂真理/金益見
 許容する恋愛とAKB
 婚活・韓流・ラブホテル
 少子化対策としての恋愛?
 
第2部 恋愛を考える
“足跡”過多時代の恋愛構造 木村亜希
 「デジタルストーク」の簡易化
 嫉妬と「履歴」
 SNSの功罪
 分身の精度
 身軽ではない分身
 過去への嫉妬
 「なう」の切り売り
 「知ることができない」自由
 未来の自分への言い訳――おわりに
 
恋愛の場所 金益見
 “恋愛”というのは面白い言葉だ。
 モーテルの登場
 本当のモーテルとは…
 モテル北陸
 日本式モーテルの誕生
 モテル京浜
 連れ込み旅館の経緯
 ラブホテルの新しい利用法
 
“事実上の(ルビ:ヴァーチャル)”カノジョの台頭 櫻井圭記
 リアルとイデア
 リアルからイデアへ――セフレについて
 イデアからリアルへ――AKB48について
 リアルとイデアのはざまで その1――『ラブプラス』について
 リアルとイデアのはざまで その2――初音ミクについて
 “事実上の(ルビ:ヴァーチャル)”カノジョ
 
AKB48と恋愛――なぜ恋愛よりもAKBにハマってしまうのか 濱野智史
 恋愛とはどのようなシステムか
 「恋→愛システム」と「アーキテクチャ」
 AKBのアーキテクチャ その1――劇場
 AKBのアーキテクチャ その2――握手
 AKBのアーキテクチャ その3――選挙
 まとめと考察
 最後に
 
あとがき 櫻井圭記
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【関連ページ】

瀬名秀明×櫻井圭記 五月祭特別対談 : 「攻殻機動隊S.A.C.」 第三話 ささやかな反乱
 INNOCENCEに見る近未来科学
: SCI(サイ)

東京大学で開かれた瀬名秀明氏との特別対談企画の採録に付された櫻井氏の作品についての解説。

 

『恋愛のアーキテクチャ』まとめ慶應SFC ORF2010セッション – Togetter

本書に採録された鼎談の模様を、オーディエンス側のツイートをもとにまとめたページ。
盛り上がりが伝わってきます。
 
 
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【本が好き!編集部ナガタのプロフィール】
当「BOOKニュース」を担当している’79年生まれ男性。
アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。
その後、札幌・千葉・マニラ・東京・京都を転々。現在は板橋区在住。
フリーター・契約社員・嘱託社員・正社員・無職・結婚・離婚など紆余曲折を経て現職。
百科事典と画集と虫と宇宙が友達です。
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